Ⅴ.五月蠅い彼奴はライバルですら無い。

 最近立椛と会っていない。LINEくらいはすることはあるが、対面で会う頻度が極端に少なくなったように思う。俺の方から会いに行くことは今までも無かったから、立椛が訪ねてくる頻度が減ったのだろう。別にそれを気にしている訳では無いが、何と言ったらいいのか、不思議な気分だ。俺は鞄を背負うと教室から出た。今日は学校の都合で午前中までしか授業が無い。


 靴箱の所まで行くと、立椛が見えた。久々に声でもかけてみるか。近づこうとしたその時だ。知らない男子生徒の声がした。


「立椛、一緒に帰る?」


 誰だろう。顔は見たことがある。たしか、立椛と同じクラスの生徒。見たところ、チャラそうな、いわゆる〝陽キャ〟だ。関わるのは面倒だが、何者なのか少し気になる。少し離れた所から、俺は様子を覗う。


「いいよ~。」


 立椛が返事をした。どうやらそこそこ仲は良いらしい。どういう関係だろう。俺は偶然を装って、立椛に話しかけてみることにした。


「よ、立椛。」


「零!最近会って無かったね、久しぶり。」


 立椛は笑顔で振り向いた。刹那、立椛が可愛いと感じてしまった。


「君、誰?」


 眉をひそめて陽キャ男が話しかけてきた。身長は俺とほぼ変わらない。向こうの方が数センチ低いようだが、ほぼ同じと言えるだろう。頭は良くなさそうだ。それにしても偉そうだな。初対面の奴に君呼びか。ムカつく奴だ。


「靴をみれば名前が書いてあるだろ。」


 冷たい視線で、睨みつけない程度に目を合わせ、冷ややかに言った。うちの学校では、上靴に名前を書かなければいけない決まりがある。


「零、なんか冷たくない?大丈夫、悪い人じゃないからさ。」


 立椛がたしなめてくる。


「あ、もしかして君、神川零?聞いたことあるよ。頭いいらしいね。」


 男が言う。初対面で呼び捨てか。生意気な奴だ。


「俺はアンタの名前を聞いたことは無い。」


 一目見て嫌いになったので、冷たくあしらうことにした。こういうところだな、俺の悪い所は。まず人を疑う所から始めることしか出来ないんだ。


「俺、四宮悟。」


 四宮。名前は聞いたことがあったな。こいつだったのか。顔と名前を紐づける。


「君、立椛とはどういう関係?」


 四宮は俺を見て言った。


「さあな。俺より立椛から聞いてくれ。」


「昔からの友達だよ。」


 立椛が答えた。


「へぇー、そうなんだ。」


 四宮は返事をした。頭が悪そうだ。これ以上関わっても何も生まれないだろう。所詮こいつも凡人だ。


「じゃあな。」


 俺は立椛だけを見て微笑み、靴を履き替えるとその場を離れようとした。


「ちょっと、俺に何か聞かないの?」


 全く関心を示さない態度の俺に、四宮は驚いた様子だ。


「お前には特に興味はない。」


 その場を離れる。恐らく、四宮は立椛を狙ってるんだろうな。それ故に、俺に対抗意識を燃やしている様子だった。推理すれば一瞬だ。まあ、好きなように恋愛してろ。後ろの方で声が聞こえた。


「立椛、帰りにどっか寄ってこーよ?」


「まあ…いいけど…。」


 モヤモヤした感情が頭に取り付いてきた。十一月半ばの重い雲が、空に蓋をするようにして覆っている。風が吹いて、俺は冷えた鼻をすすった。


  ○ ○ ○


「四宮、半田さんとは上手くいってるのか?」


 ある日の放課後、廊下を歩いていると、話し声が耳に飛び込んできた。立椛のクラスからだ。数人の男子生徒が机に座って話している。俺は足を遅めた。


「この前は、一緒にスタバ行ったぜ!」


 四宮が自慢げに話している。


「いいなあ、俺も女子と一緒に行きてー。」


 取り巻きの数人の男子生徒が羨ましそうに言った。


「断られなかったってことは、お前いけんじゃね?クリスマス間に合うように告れよ。」


 別の男子生徒が言った。やっぱり、俺の推理は正しかった。四宮悟は、立椛を狙っている。教室を通り過ぎた。


 クリスマスに間に合うように、か。下心が透けて見える。立椛にあんな奴と付き合って欲しくない。自分勝手な我儘だとは分かっているし、彼氏ではない俺にそんなこと言える権利は無い。四宮のことを立椛はどう思っているのだろうか。ふと気になった。


(この前会った、四宮悟ってどんな奴なんだ?)


 LINEを開くと、立椛に聞いてみた。まずは手探り程度な質問からだ。


(結構いい人だよ、面白いし。あんな冷たくしなくても良かったと思うけど)


 どうやら、四宮は結構頑張っているらしい。立椛が断らないだけのキャラは作れているようだ。


(チャラいだけの奴にしか見えないけどな~。あんまり関わらない方がいいかもよ)


 忠告だけしておく。俺は昔から、他人の恋愛には関わらない主義だ。好きな人を聞いたり、恋バナをしたりということは昔から無かった。というか、恋愛が怖かった。おっと、あの記憶をまた思い出しそうになった。危ない危ない。


 それでも、今回の件については介入したい。なんとなくそう思った。

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