第28話 盾と魔法の臨時パーティ

 

 こちらを捕捉したオーク達は群れて走って来る。

 ボスのオークジェネラルを倒し損ねた時は周りのオークを一体ずつ仕留めていく事を事前に決めていた。


 俺は地面に手をつき、オーク達の足元に無数の土棘を作り出す。半数以上のオークに刺さるが、どれも致命傷には至らない。

 だが奴らの足を止める事は出来た。

 ミーシャのリュックから土の槍が飛び出す。それは右端で転んでいたオークの後頭部に突き刺さり、その命を奪った。

 土棘で動けないオーク達を踏んで乗り越えた五体のオークが魔法使いの俺とミーシャ目掛けて走り出した。

 再び魔力を練った俺は、走り寄るオークを氷の槍で仕留める。この威力で複数撃てれば楽なのにと思うが、今は出来ない事を嘆くより一体ずつ確実に撃破するべきだ。


「来い!」


 走って来たオークは残り四体。アランは前に躍り出ると、盾を構えて敵を挑発した。

 一瞬魔力の動きを感じた。

 それと同時に、魔物達は標的をアランに変える。もしかして敵の意識を誘導するようなスキルなのだろうか?

 アランは向かってきたオークの拳を盾で受け止め、反撃とばかりに剣でその腕を斬りつける。

 それと同時に横から槍を持ったオークがアランに迫る。彼は槍の刺突を下がって避け、避けたかと思うと素早い動きで一歩踏み込み、槍の柄を剣で叩き折った。

 熟練した動きだ。複数の魔物を相手にしても冷静に対処している。

 アランの攻撃はそれほど威力が高いものではない。だが、敵の攻撃を確実に防ぎながら、少しずつダメージを与えていっている。

 堅実な戦い方だ。

 迷宮にいた頃、一人でオークの群れと戦った事を思い出す。

 あの時は部屋を炎で埋め尽くして大半を殲滅したが、生き残った一体から攻撃を受けてしまった。

 でも、今は複数のオークを相手にしながらも戦場全体を冷静に見通すことが出来る。

 アランが加わるだけで、そのパーティは驚くほど安定性を増すのだと感じた。

 とはいえ、いつまでも彼に任せきりではいけない。


「ミーシャはアランの援護を頼む!」


 そう言って走り出した俺は、土棘から抜け出してきたオーク達に迫る。流石にこいつらの相手までアランにさせるのは申し訳ない。

 十体ものオークが一斉に俺を見る。

 迷宮の時みたいにまとめて焼き払ってやりたいが、ここで広範囲の炎魔法を使えば森が火事になりかねない。

 しかしオークは炎属性の魔法に弱いとゴブ太から教えてもらった。

 その弱点をつくため、両手に土の剣を作り出し、その剣に炎を纏わせた。剣の出来は昨日より遥かによくなっている。


「ブモォォオォ!」


 最初の攻撃を怒っているのだろうか。オーク達は雄叫びと同時に傷を負った足を引きずって迫ってくる。

 アランが心配そうに横目でこちらを見たが、俺も前で戦えると事前に伝えている。

 振り下ろされた拳を避け、その首に剣を刺す。ジュッと音を立てて、オークの首には剣先よりも大きな穴が空いた。

 力尽きた巨体が血を流しながら前に倒れるのを見て顔を顰めた。ここでは死体が消える事はない。自分が生命を殺しているという感覚が強くて不快感が湧き上がってくる。

 しかし闘わなければ死ぬのは自分達だ。

 俺に出来るのはこいつらの死と真摯に向き合う事だけだ。


 振り下ろされる拳や棍棒を避けながら、一体ずつ確実に仕留めていく。

 首や脳、心臓を貫けば即死させられる。魔物達の苦悶の表情を見たくないから、出来るだけ急所をつくようにした。

 俺が戦っている間にアラン達も敵の数を減らしている。

 迷宮の中でも思ったが、ミーシャは遠距離からの援護能力が優秀だ。

 敵と味方をよく見て、どこにどのタイミングで攻撃を仕掛けるかよく考えているようだ。

 それにアランの安定感。

 彼もまた、ミーシャの攻撃が来る事を察知して巻き込まれないように立ち回る。だからこそミーシャは高威力の攻撃を敵だけに当てることが出来る。魔法をぶっ放すだけの俺も見習わなければいけない。


 敵の数が少なくなって来た所で、オークジェネラルが動き出した。

 警戒していてよかった。奴は俺たちが疲弊するのを狙っていたのだろう。

 俺が今対峙しているオークの棍棒を躱した瞬間、オークジェネラルは手に持った槍を投げた。

 上手いな、と思った。

 槍の射線上には俺と、その後ろにミーシャがいる。

 俺が避ければミーシャに当たってしまう。あの子なら気付いて避けるか塞ぐなりすると思うが、だからと言って避ける選択などあり得ない。

 すぐに地属性魔法を練るが、それを使う必要はなかった。


「はっ!」


 掛け声と同時に魔力の流れを感じた。

 俺が一歩下がると、そこにアランが割り込んで来て盾を構えた。

 二十メートルほど離れていたと思ったが、彼が地面を蹴ると一っ飛びで俺の元へ辿り着いた。

 直後、硬いものがぶつかり合う大きな音を立てて、投擲された槍は弾かれた。

 あれだけの威力を受けても、アランはびくともしない。

 俺はすぐに残ったオークを剣で突き、アランと共にオークジェネラルの元へ走り出した。

 アランとミーシャが相手していた群れは、たった今ミーシャが落とした槍で片付いた。


 一体だけ残されたオークジェネラルはさっきの攻撃で俺かミーシャを殺すつもりだったのだろう。それが叶わなくて忌々しげな表情を浮かべて走って来た。

 俺は土の剣を一つ捨てて、右手で氷の槍を射出した。

 溶けるからストックしておけないけど、氷は土で作るよりも鋭く形作れる。

 槍はオークジェネラルの足に刺さるが、肉が厚過ぎて深くは刺さらない。

 そのまま走って来たオークジェネラルは、途中で死んだオークが使っていた槍を拾い俺に振り下ろした。

 念の為後ろに飛ぶが、当然のようにアランが盾で庇ってくれた。

 槍を弾かれたオークジェネラルだが隙を見せず、即座に体勢を整えた。部下のオーク達の戦いから学んで、俺とミーシャの魔法を警戒しているようだ。


「はぁっ!」


 様子を見ながら戦う敵に、アランは怒涛の攻撃を仕掛ける。

 横に薙ぎ払い、逆袈裟斬り、上から剣を振り下ろしてそのまま低い位置から刺突。

 手数は多いが、一つ一つの攻撃にしっかり力が乗っている。ただ振り回しているだけではなく、洗練された動きだ。

 オークジェネラルは後退するが、素早いアランの動きに対応できない。何度か剣に斬られ、最後の刺突は腹部に深く刺さった。


「ブモォォォ!」


 痛みに呻いたようにも見えるが、「捕まえた」とほくそ笑んでいるようにも見えた。

 危ない、とアランに注意を促そうとするが、それよりも早くアランが叫んだ。


「今だ!」


 オークジェネラルは腹に刺さった剣を抜こうとしているアランに、上から槍を振り下ろした。

 だがこれこそアランの狙いだったようだ。

 攻めに転じたように見せかけて、実際はオークジェネラルから重たい一撃を引き出そうとしていたんだ。

 アランは剣を手放し、盾を両手で構えた。防ぐだけでなく、盾から衝撃波のようなものが飛び、オークジェネラルは槍ごと弾かれる。

 俺は隙だらけになった敵に接近し、その頭部に右手を向けた。

 アランは俺の攻撃なら仕留められると信じて任せてくれたのだ、それを裏切るわけにはいかない。

 オークジェネラルの真下から炎と風魔法を操る。森に火が移らないように上を向き、細いレーザーをイメージして放つ。

 充分な時間をかけて作られた魔法は確かな威力を持ち、オークジェネラルの頭部を消し飛ばし、空高くまで昇ってから消失した。


 首から血を流しながら倒れてきた身体を避ける。

 アランのおかげで傷はもちろん、汚れも殆どなく戦いが終わった。血と泥に塗れて戦っていた過去が嘘みたいだ。


「驚いたよ。こんなに早くBランクの依頼をこなせるなんて思いもしなかった。特に最後の魔法は凄い火力だったね。一撃で仕留めるとは……。ミーシャちゃんもありがとう。君の援護があれば多数を相手にしても安定するね」


 最後のは「仕留めろ」って意味じゃなかったのか。まぁ期待を超えるのはいい事だ。

 アランに褒められたミーシャは無言で頷く。喋らないミーシャの代わりに俺が話す。


「アランこそすごい防御力だな。何度か助けられたよ。それより、オークの討伐証明は耳だったな。手分けして作業を――」


「その必要はないよ」


 受付嬢に説明された通りに討伐証明を持ち帰ろうと思ったが、アランが腰のポーチからルービックキューブみたいな物を取り出した。あれは……昨日ショップで見たぞ。


「……金貨二十枚」


 ボソッと呟いたミーシャ。

 それが聞こえたのか、アランは苦笑いしている。


「まぁ……暫くBランク冒険者として活動していたからね、必要な物はちゃんと買うようにしてるんだ。この箱の容量ならここのオーク全てそのまま持ち帰れるから僕に任せてよ」


 そうだ、魔物を持ち帰る為のマジックポーチ……いや、アイテムボックスと言っても過言ではない性能だ。


「このボックスは血抜きもやってくれる便利物なんだ。オークの首を切って、この輪っかを足に通してからボックスに入れる。そうするとボックスの中でオークが逆さに宙吊りされるんだ。流れた血は予め入れておいたバケツに溜まるから、後で捨てる必要があるけどね。血抜きって五時間くらいかかるらしいんだけど、僕ら冒険者は五時間も同じ場所にとどまることは殆どない。だからこのボックスはおすすめだよ。入れておくだけで下処理をし、そのお陰で素材を高値で売ることが出来るんだからね」


 確かにそれは便利だな。

 オークも食べる為にああいう処理が必要なんだろう。もちろん肉を売らない場合は他の魔物みたいに燃やして終わりなんだろうけど、それは勿体無いもんな。俺もいつかあのアイテムボックス買お。


「……ん? そういえばエモが転移魔法はまだ開発されていないって言ってたけど、そのボックスの中に魔物が収納されるのは転移とは違うのか?」


 アランは箱の蓋を開いて、それで魔物に触れている。そうすると魔物は吸い込まれる様に箱の中に消えていくが、どう考えてもあの箱に入る大きさじゃない。


「……? もちろん転移じゃなくて収納だよ? 僕は詳しくないんだけど、容量拡張魔法の副次効果で、開け口よりも大きな物でもこうやって簡単に入るようになってるらしいね? それより、二日目なのにエモさんとも知り合いだなんて、よほど興味を持たれたんだね」


 なんか噛み合っていないというか、俺の疑問が共有出来ていない感じだ。

 アランやこの世界の人にとっては、マジックポーチやアイテムボックスが身近になり、何故そんな現象が起こるのか、という疑問が湧かないのだろう。

 確かに俺もなんでも「魔法だから」と納得してしまいそうだが、それは思考放棄と同じ事だ。この世界の常識を身に付ける事は大事だが、思考放棄に陥らないように気を付けよう。


「さて、周囲は片付けたけど、すぐに街へ帰るかい? それとも少し休憩する?」


 アランは手際よく収納を終わらせて俺の元へ戻って来た。

 そろそろお昼か。


「今日は昼食を作ろうと思っていたんだ。食材は多めに用意してあるし、アランも食べるか?」


 そう聞くと、アランは目を丸くした。


「えっと、ここで?」


「あぁ、近くに強い魔物の気配は無いしな」


 そう言うと、「じゃあお供させてもらおうかな」と微笑んだ。


 ミーシャが持っていたパンを食べ切る為に、昼食はシチューを作る。

 硬くてボソボソなパンでも、温かいシチューにつければ食べやすくなる。

 地魔法で石の調理台を作り、そこに調理器具を並べる。

 ついでに椅子とテーブルも作って二人を座らせておく。

 ポーチには薄いまな板や包丁も数種類入っている。ゴブ太はフィオナから料理を教わっていたと言っていたが、結構本格的だったのかもしれない。

 今朝買った野菜をカットしてると、アランとミーシャが興味深げにこっちを見ているのに気が付いた。


「えっと、何か手伝う事はないかな?」


「アランには貴重な道具を使わせてしまったし、色々教わったからな、そのお礼だと思って気にしないでくれ」


 そう言いながらコンロ型の魔道具に火をつけ、鍋にバターを入れてから玉ねぎや鶏肉を炒めていく。

 市販のルゥがあれば楽だけど、流石にそんな物はなかった。顆粒のコンソメなどもない為、異世界での料理は簡略化出来そうにない。

 だが食に妥協できない俺は、多少値は張ったが香味野菜やスパイス、料理酒として白ワインなども買っておいた。


「驚いたな……とても良い香りがするよ。手際もいいし、料理は慣れているのかい?」


「まぁな……そういうアランは苦手そうだな? 料理なんて使用人の仕事だろ?」


 煮込みながら話を聞く事にした。

 俺が揶揄うとアランは苦笑する。


「否定は出来ないね……。でも、僕の事は貴族じゃなくて冒険者として見てほしいな」


「確かに貴族って傲慢や貪欲なイメージだけど、お前は違うよな。でもなんで冒険者になろうと思ったんだ? 冒険者って泥と血に塗れるような仕事だろ? お坊ちゃまがやりたがる仕事じゃないよな」


「ガイストさんが君を常識知らずと言った理由がわかったような気がするよ……。貴族に対するイメージは、まあ仕方ない部分もあるけど、冒険者に対するイメージは間違っているよ。確かに冒険者という仕事が確立してすぐの頃は君の言う通り、血に濡れた殺し屋とか、敗北者の終着点とか、酷い言われようだったらしい」


「いや、俺はそこまで言ってないけど……でも、それが変わるような何かがあったのか?」


「まさか、勇者の存在すら知らないなんて言わないよね……?」


「し、ししし知ってるに決まってるだろ? ほら、その、あれだろ? 魔王を倒しに行くやつ」


「魔王? いや、邪神だよ。それに、討伐に赴いたのは初代の勇者パーティだから、冒険者とは関係ないかな。彼らは国が選んだ猛者だからね」


 チッ、外したか。それにしても、本当に勇者と邪神なんてのがいるんだな。まさに異世界だ。


「でも二代目は違った。彼はS級の冒険者で、誰かが彼を勇者に選んだわけじゃない。彼の行いこそが人々に勇者と呼ばれたんだ」


 一体何をしたんだ? と質問したいが、それを聞いたらまた常識知らずと言われるだろうな。

 出来上がったシチューを皿に盛りながらアランの話を待つ。


「……ふふ、君が知っているか知らないかは聞かないよ。でも一応話すと、彼はこの大陸に攻めてきた邪神を迎撃し、討伐したんだ。たった一人でね……あぁ、ありがとう」


 シチューと小さく切ったパンを配る。パンは石のように硬いが、フィオナのノコギリみたいな包丁を使ったら簡単に切れた。

 三人で席について食べ始める。未だ周辺に魔物の気配を感じない為、落ち着けるな。


「美味しい……」

 嬉しそうなミーシャが呟く。


「本当だ、これは……凄いな。リュート、君は僕をおぼっちゃまと揶揄したけど、僕はこれ程の美味を感じた事はないよ。君の方がよほど良い物を食べているんじゃないかい?」


 驚くアランを宥めてから話の続きを促す。

 料理を褒めてくれるのは嬉しいが、この世界の事を知るチャンスだ、前のめりで話を聞く。


「あぁ、それで、邪神が攻めてきた場所なんだけど、それがかつて勇者パーティのリーダーが暮らしていた村なんだ。邪神はその村を滅ぼした後、帝都に向かおうとした。けどそこで二代目の勇者に討伐されたんだ。因みに、その滅ぼされた村は、今は自由都市として生まれ変わった……そう、まさにここリベルタの街だよ」


 一呼吸おいてからアランは話を続ける。


「国を救った勇者は、褒章として自由都市の創設を要求したんだ。当時各所に点在していた冒険者ギルドを纏めるために、その都市にギルド本部を置きたいと。その際に勇者が言った言葉は、今でも多くの歴史書や英雄譚に綴られている」


 少し声色を変えてからその言葉が告げられた。


「冒険者がよく思われていない事は存じております。徐々に力をつけていく我々を厄介に思う国や勢力がある事も想像に容易い事です。しかし我々は全ての人々の味方です。種族や国に関係なく、魔物に殺されそうな人がいれば助け、魔物の襲撃に遭う村があれば守りに行く。これこそが我々の責務。どうかご理解ください。冒険者とは平和を守る者。だからこそ冒険者の私は邪神を討伐したのです」


 そういえば冒険者登録する時に、冒険者として国や一般人と敵対するのは禁止って言われたな。あれは勇者が決めた事なのか。


「でも当時の冒険者ギルドは一枚岩じゃなかったんだろ? 勝手に冒険者を代表するような発言をして反感は買わなかったのか?」


「まぁ……どれだけ素晴らしい人に対しても唾を吐く人は存在するからね。記録として残っているのは、勇者がギルドのトップになった年は冒険者になる人、冒険者を辞める人、その両方が最も多くなったらしいよ。これを『冒険者の浄化』とか、『新しい風が吹いた』なんて書かれているけど、この表現は間違いじゃないのかもね。この時期を冒険者革命期と呼ぶ人もいるくらい、冒険者という職業が大勢に認められ始めたんだから……あ、ご馳走様。また君の料理を食べたいと切実に思うよ」


 食べ終わった食器を水魔法で洗ってからポーチにしまう。


「勇者の偉業は語ればキリがない。だから最もよく知られる話をさせてもらったけど……君は知らない様子だったね。とにかく、僕は多くの冒険者と同じように、様々な英雄譚に心を惹かれ、憧れから冒険者を目指したんだ。ただ、最近は自分の成長を感じられなくてね……。皆んなは褒めてくれるけど、僕は自分が出来ない事がわかっているし、今の戦いで君に勝てないことも理解した。リュート、僕は強くなりたいんだ。そのために――」


「静かにしろ」


 遠くから何かが移動している気配を感じる。耳を澄ますと、茂みをかき分ける音が聞こえた。

 話を遮られたアランだが、俺が言う前に直ぐに警戒態勢にはいる。

 しかし、音を聞く限り大きな魔物ではなさそうだ。危機感知も反応していない。

 いや、そもそもこの感じは――


「誰か、助けて、って言ってるよ」


 白耳をピクピク動かしながらミーシャが教えてくれた。


「人間か!」


 俺たちは走り出した。

 逃げる人は街に向かってるようで、俺たちに気付いていない。

 わざと音を立てて近づくと、「ひっ!?」と驚いたような声が聞こえた。


「って、アニキ!? よ、よかった、頼む、助けてくれ、仲間が、ミーナとテッドが危ないんだ!」


 酷く慌てた様子で俺に縋るのはマルスだ。俺より若い三人組のパーティを組んでいた筈だが、今は一人か。


「方角はどっちだ!」


「多分、あっち……でもこの森迷いやすいから、正しいかわかんなくて……」


 大体の方角がわかれば魔力や危機感知で探れる。即座に走り出そうとした俺を、遅れて来たアランが止める。


「待つんだ! 何も知らずに飛び出しても被害者が増えるだけだ! マルス、敵の詳細を話せるかい?」


「う、ウルフだ! 群れに囲まれて、キングウルフまで来た! 二人が俺を逃して……」


 アランの言う事はわかるが、こうしている間に手遅れになってしまうかもしれない。仲間を失う辛さはよく知っている。

 誰もあんな思いをするべきじゃない。


「リュート! 待て! いくら君でも――」


 風の魔法を操り、速く移動する事だけを考えて走り出す。

 二人が無事でいることを願いながら。

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