五分の遅刻③

 それ以来、彼とは挨拶をする仲になった。

 クラスメイト以上友達未満。そう書き表すのが妥当だったと思う。

 近すぎず遠すぎず。居心地のいい、ほど良い距離感だった。


 ただ1つ、決定的に私たちの距離を縮める出来事があった。

 あれは1年生の春休みのことだった。


 電車に乗って都心へ買い物に行く際中の駅のホームで彼に偶然会ったのだ。

 私はびっくりしたが彼もびっくりしていた。

 話を聞いたところ、彼も都心に用事があるらしい。

 

 電車が来るまではまだ時間がある。

 沈黙も苦ではないが、なんだか話したい気分だった。


「たしか野外活動の後も駅のホームで話したよね」


 我慢できずに話しかける。


「なんかごめんなさい大会をした記憶があるんだけど」


「そうそう。私の遅刻がきっかけでさ―」


 そこまで言って、しまった、と思った。

 何してんだ私。

 都心に出かけるってのに、過去の、しかも不機嫌だった時の話とか聞きたくないでしょ。

 よし。ここは笑ってごまかして話題を変えなければ。

 

「そういえばさー」


 都心まで一緒行かない?そう口にしようとした時、彼は私に被せるように口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る