履修登録
「あーあ。やっちまった」
ベットの上でそうつぶやいた。1人暮らしだからもちろん返事はない。
履修登録。大学生が一番最初に乗り越えなければいけない壁だ。
時間割の組み方によって今後1年間の行動が大きく制限される。
部屋の時計は午後6時を指している。締め切りは1時間前。
このままでは1年間を棒に振ってしまう。
さすがにそれはマズイ。
どうにかするべく大学から送られてきた封筒をひっくり返し、プリントに片っ端から目を通す。
”取扱説明書”と書かれた1枚の紙に目が留まった。
はて、なんの説明書だろう。読んでみたが理解ができなかったので、2回目は音読してしまった。部屋には俺1人だからセーフっしょ。
こどものいたずらと思える内容だが、やけに文章はかしこまっていた。
履修登録間に合ってたらどうなっていただろうか。そんな考えが頭をよぎった。
読んだところデメリットが生じるわけではないようだ。仮に何も起こらなかったとしても、デメリットはない。じゃあ、やってみるしかないだろう。
そう思い”取扱説明書”を破り捨てた。
俺は自分のアパートにいた。時計の針は正午を指している。
スマホで日付を確認する。4月10日。履修登録の最終日だ。
最終日まで後回しにするのは昔からの癖だ。何回も直そうと思ったが、これが難しい。
とりあえずこの時間ならまだ間に合いそうだ。
俺は大学に行くための用意を済ませアパートを出た。
大学までは歩いて10分。雨が降っているから15分かかるかもしれない。
傘をさして大学に向かう。
大通りに出るまでの道は狭く、車一台がギリギリ通れる幅しかない。
もう少しで大通りに出る。そんなとろで後ろからクラクションの音が聞こえた。
振り返ると車が猛スピードで近づいてくる。
免許を持っていない俺でもあのスピードでは止まることが容易ではないことくらいわかる。
ヤバい。
と思った次の瞬間、激しい痛みとともに俺の意識はぶっ飛んだ。
「うおっ」
気が付くとアパートに戻っていた。時計の針は午後6時5分を指している。
散らかった書類の1番上には破られた”取扱説明書”が乗っている。
どっちにしろ履修登録できないじゃないか。とツッコミを入れつつ、寝過ごした自分に感謝する。
書類の山から”履修登録の手引き”を見つけ、パソコンを立ち上げて教務課に問い合わせのメールを送った。
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