第2話 ターキーにスープ

「ちょっとおいで。Aya」

「私達、もうお式を二人で挙げたのですものね。キスかしら?」

「そう言うのはナシ」


 真紅のエプロンがキッチンで腕を振るっていた。


「Aya。日本、台湾、フランス、ドイツ、イタリアと来て、今日はフランス入りだ」

「感慨深いわね」


 彼女からくんっと香って来る。

 どうやら今日はターキーらしい。

 Kouの好物で今夜を祝うのだろう。


「パスポートに異変はないか?」

「異変ですって……?」


 Ayaはウエストポーチから取り出した。

 至って変わりはない。


「不自然な感じは見受けられないわ。Kouには何かあったの?」

「所持者の国籍、氏名、生年月日、性別、旅券番号、証明写真等が必要だな」


 Ayaは、そのどの項目にも問題はないと思う。

 オーブンが呼んでいるからと飛んで行った。


「ごめん、Kouもこっちで続きを聞かせて」

「分かったよ。ターキーには降参だしな」


 肩を竦めつつ後を追った。

 日本流に揃いのスリッパが愛らしい音を立てている。


「ドイツのリューゲン島で李家に依頼された事件を解決したけれども、もう狙われないわよね」

「李家の莫大な権力と財産だ。今後の動向には注意してもいいだろう。――ああ、熱いのは俺が手伝う」


 ターキーはAyaが「私のお仕事なの」と言い張ったもののKouも持った。

 

「二人の共同作業です。ちゃーん。あはは……」


 テーブルにセッティングした。

 Ayaの楽し気な姿に、はち切れんばかりの笑顔とはこのことかとKouは微笑を隠せない。


「それと同時に、土方むくさんの件もきちんと見届けられなかった。彼女は、医師であり父のれい殿や家族が見守る中で病院にいた。問題は重くなり、深刻な治療に当たっていたな」

「そうなのよ。私も初めての神友しんゆうの様子を知りたいわ」


 二人して、もう一度葉書を眺める。


「この葉書にも『モンマルトルにいらしてください。お土産があります』としかないからな」

「お土産なら、こちらから贈らせていただいたものもありましたわね」


 Kouも喜ばれるだろうとお勧めしていたものだ。


「土方むくさんの祖父、俺の師匠な、酷い愛車だったものだからな」

「Kouのお見立ては、最高!」


 ひっつくAyaは、剥がされてしまった。


「おいおい、ターキーが冷めるぞ。ワインは俺が選んでおいたから」

「じゃあ、先ずは乾杯いたしましょう! 私の大好きなスープも沢山拵えましたわ」


 怜悧なKouがしかめっ面をしてみせる。


「スープとワインの相性については、保証しないよ」

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