雨の影法師

いすみ 静江

第1話 差出人のシルエット

 AyaアヤKouコウは、パリのシャルル・ド・ゴール国際空港に降り立った。

 Ayaは、黒いフレンチスリーブのワンピースに赤いリップが映える。

 Kouはいつものワイシャツに黒いジーンズで身を纏っていた。


「Kou、アナウンスのアクセント、訛りも懐かしい感じがするわ」

「帰郷を感じられていいとの声が、利用者からあるのかも知れないな」


 目的のトランクを受け取りに行く。


「さて、土方ひじかたむく様からの葉書一つで本人を探せるかしら?」

「それがAyaの仕事だろう?」


 Kouは情報屋で、Ayaはその専属依頼引受人だ。


「サイトシーイング」


 なんてほらを吹いて空港を後にする。


「依頼者は誰よ?」

「それ俺かもな」


 ザ、ザザザザ……。


「あら、流石にKouがいると外はバケツをひっくり返したようね」

「Aya、俺が居なくなってしまったら――」


 Ayaの真っ赤な傘をふわっと広げる。

 あいあい傘作戦をKouは折り畳み傘を出してするりと抜けた。


「Kouは、居なくならない! ずっと逢えなかったとしたら、晴れの日が続いたからよ。いつも雨の日には、ぶらりと現れてくれるわ。どの国にいても、どんな時間でも」

「万が一だ。俺がAyaに仕事を持って来られなくなったら、それからの生活はどうするんだ?」


 Kouは、傘に自分の視線を隠した。

 

「今、傍にいてこんなに幸せなのに。複雑な関係でもいいわ」

 

 雨がますます本降りとなって来る中、Ayaは腕組みを迫る。

 コンマニ秒で払われ、「いけずー」と美人台無しに口を尖らせた。


「ほら、物件探しに行きましょう!」

「実行役程危険性はないが、情報屋にもリスクがある。メリット、デメリット、よく両方とも考えてみてくれ」


 暫くタクシーに揺れた。


「Kou、狙っている車がある? 遠出するときに乗りましょう」

「先ずは、住む家からな。Ayaは自転車でもいいだろう」

「えー。飛ばし屋を縛る気?」

「安全第一、健康にもよし」


 不動産のやり取りは即決だ。

 Ayaは、モンマルトルの近くに瀟洒な緑に覆われた洋館を買った。

 丸っとキャッシュでお支払いされ、売り主も目を丸くしている。

 この所、休む暇もなく依頼があり、中でも、台湾の由緒正しきリー家当主、幼きリーリンをお守りし、彼女の大切なパートナー、三毛猫のToiトワMoiモワも救い出した件は大きかった。

 凛は感謝を表したかったのだろう。


「何部屋もあって、過ごしやすそうね」

「ああ、これでAyaとは別の部屋で過ごせるな」

「いけずー」


 Ayaは、訳あって彼と結婚できないのを我慢していた。

 だから、この同居が楽しみで仕方がない。

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