第4/5話 ミリアの部屋
ミリアちゃんの部屋にいる。
男女がこういう密室に一緒にいるということは、つまりそういう意味である。
「簡単にほいほい部屋に入れていいのか?」
「味方になってくれるんでしょ?」
「そうだけども」
「信用してるから……本当」
うるうるした瞳でまるで助けを求めるように上目遣いで見上げてくる。
俺はそれに惨敗である。メロメロである。
この子を世界のすべてから守ってあげたいと思った。
「あのね、私が世界から排除すべき存在で、そうしないと世界が崩壊してしまう」
「う、うん」
「それでも私を守ってくれる人が欲しい」
けっこう強欲だった。
「ねえ、それって『世界系』だよね」
「うっ、わわわああああ、分かる?」
「うん」
「あっ、そうなんだ、それなら話速いよね。――私と世界、どっち選んでくれる?」
「もちろん、姫だよ」
「……うれしい」
ミリアちゃんがうっとりとして、そしてクネクネと動き出す。
なんだこの変な生き物。
いつもはもっと笑顔だけれど澄ました顔なのに、緩み切っている。
それはつまり、俺を受け入れていて、リラックスしていることを意味していた。
ものすごい尊いことだ。
「私、ラノベとか結構好きで。特にこの『私と世界の選択』ってキュンキュン来るの」
「さ、さようでございますか」
「うん。こういう話、学校じゃできないから、うれしい」
「そうですね」
「そうだよ。だってキャラじゃないでしょ。世界系だなんて」
「まあそうかも」
「私にも、変なイメージ着いちゃってるから、猫被らないと。てへ」
「お、おう」
これはちょっと他人には見せられない。
もうどう見ても飼いならされた家猫になっている。
俺に甘えて、にゃぁにゃあ言いそうだ。
「だって世界の敵なんだよ。私悪くないのに」
「まあそうだよな。だいだいは不可抗力とかだよね」
「そうなんだよ。私可哀想じゃん」
「はい」
「その私を世界で唯一、絶対に見捨てないで、一緒にいてくれる」
「お、おう」
「そういう彼氏になって欲しいの」
「けっこう束縛すごいですね」
「うん。独占しちゃうもの。世界を独占だよ。そりゃ私の愛は重いよ。でもその愛、欲しいでしょ?」
「はい、欲しいデス」
俺はそういう人間だった。
彼女のファンクラブ、ナンバースリーであり、彼女をガールなフレンドにしたかったのだ。
世界の誰よりも。
それがこうして今、AIとかいうトンデモ装置によって、実現しているのだ。
「えへへ、AI様様だよね。私には世界より自分を選んでくれる彼氏できてうれしい」
「そ、そうか」
彼女は結構喋る。
そのたびに、ぷるぷると唇が動いて、目が吸い寄せられる。
唇。
「んっ……」
気が付いたら顔を近づけさせ、彼女とキスをしていた。
はっと我に返ったときには、もうキスの後で、だんだん顔が離れていくところだったのだ。
「えへへ、キスしちゃった」
「あ、ああ」
「別にこれくらい、なななな、なんでも、ないよね」
「声、震えてるけど」
「だって、いきなり迫ってきて、ちょっと怖かったのに」
「そうか」
「キスしちゃったら、ふあわあああって幸福感が襲ってきて、すごいの」
「うん」
視線をさ迷わせ頬を赤くして、キスの感想なんて言ってくれる。
「これ、ダメだわ。私をダメにする」
「ふむ」
「体の接触って、こうなんていうか、境界線が溶けるんだよ」
「そうかもしれないね」
「唇から、登君を感じちゃって、二人が一つになるんだよ」
「お、おう」
しばらく沈黙が降りる。
「ちょっとスマホするね、自由にしてて」
「うん」
俺もスマホを触る。
新着通知などを見て回る。
「ミリアーごはーん」
「はーい」
声が掛けられたので、二人でダイニングに向かう。
「いただきます」
「……いただきます」
ミリアちゃんに続いて俺も席に座り、挨拶をした。
「たくさん食べてね」
今日は豚バラ肉の辛味噌炒めだ。
横にキャベツの千切りが付いている。
白いご飯に大根のお味噌汁だ。
「美味しいです」
「あら、ありがとう」
お母さまがやさしく笑う。
さすが親子、笑顔が似ている。
ミリアちゃんのお皿は事前に言ってあったのだろう、それぞれ少しだけよそられている。
「あなたたちが結婚したら、毎日食べられるわよ。どう?」
「いえ、まだわかりませんし」
「でも今、恋人実習から結婚する人、増えているんでしょう?」
「らしいですね」
そういう統計は出ている。
しかし続かないカップルも当然いる。
俺たちはどちらに転ぶのか。
彼女の独占欲は強い。
俺は浮気をする気がさらさらないので、今のところ問題はないが、今後、どの程度の束縛を要求してくるかで、分からない部分もあった。
ご飯を食べたらお風呂だ。
「お風呂できたから、一緒に入る?」
「うえぇっ、いいんですか?」
「まだだめだよぉ。今日付き合いだしたんだから、順番ね」
「なんだ、びっくりした」
「うふふ。ゆっくり距離詰めていこうね」
「あ、はい」
なんだかそう宣言されるのは、それはそれで怖い。
ミリアちゃんがお風呂から出てきたら、パジャマだった。かわいい。
俺も下着を貰いパジャマを借りて、お風呂に入った。
さてあとは寝るだけなのだが……どうすんべ。
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