【後日談】太陽が沈まない国カスターニャ

第78話 男子会は宮殿で 新郎と親友と賢弟と裏切り者と

 マリアンヌ事件が明けて一日。記録や調査に協力していたらあっという間に夜になっていた。

 イバンは部屋に踏み入った瞬間に天蓋付きのダブルベッドに飛び込む。


「ひゅー! 相変わらずでけえベッドだぜ!」


 行儀がなってない最年長を礼儀正しい最年少は諫める。


「ちょっとイバン兄ちゃん! カルロスお兄様の部屋なのにくつろぎすぎ!」

「カルロスの部屋だからくつろげるんだろ。宮殿はトイレまでキラキラで落ち着かねんだわ」

「だからってベッドに飛び込む? 本当イバン兄ちゃんは子供っぽいよね」


 真面目な弟に思わずカルロスは笑みをこぼす。


「良かったらアルフォンスも飛び込んでくれていいんだよ?」

「するわけないじゃん! お兄様まで僕を子ども扱いしてくれないでよね!」

「あはは、すまない。僕は君くらいの年はよく飛び込んでたんだけどね」


 ここは宮殿内のカルロスが子供の頃から使っている私室。客人もめったに入らないプライベートな空間に二人を招き入れていた。


「ガキの頃はよく来てたっけな……泥んこの靴下のままで昼寝もしたっけ」


 イバンは背中でベッドの感触を感慨深げに確かめる。


「……まさか、もう一度ここに入れるとはな」


 イバンは無実とはいえ責任を負わさられる形で左遷された身。兄弟のように育ったカルロスとも二度と会えない覚悟で王都を去った。


「……それは僕も同じだな」


 アルフォンスも同じ気持ちだった。彼もまた一切罪のない、出自が複雑という理由だけで家族と離れて暮らす身となった。


「すまない……まだまだ僕が未熟なばかりに……君たちに責任を押し付けてしまった……」


 カルロスはバツの悪い顔に。


「おっとっと! しんみりさせちまったな! 景気のいい話でもしようぜ。んじゃアルフォンス君、一つ頼む」

「ええ!? 僕!? そういうのイバン兄ちゃんでしょう!」

「年功序列って知ってるか? 年上の言うことは素直に聞くもんだぜ」

「じゃあ僕のほうが序列は上なんじゃない? なんたって王族の血を引いてるからね」

「あっはっは! 言うようになったじゃねえか、がきんちょのくせに!」

「だから! 子ども扱いしないでよ!」


 騒々しいやり取りにカルロスはぼそっと呟く。


「賑やかだな……」

「えっとごめん、お兄様、騒ぎすぎちゃった?」

「あ、いや、そうじゃないんだ。ただ、久々に家族や友人を招き入れて嬉しかったんだ。ここに入ってくるのは給仕とアレクシスくらいだからな」

「なんだ、カルロス。俺以外に友達いねえのか? 俺はいっぱいいるぞ。紹介してやろうか」

「紹介は一向に構わないが、君よりも意気投合して親しくなっても嫉妬してくれるなよ」

「あっはっは! 兄弟そろって生意気だぜ!」


 イバンはおもむろにベッドの匂いを嗅ぐ。


「うーん、こりゃまだだな」

「何をやってるんだ?」

「いや、今、アレクシスがこの部屋に来るって言っただろう?」

「まさかイバン兄ちゃん、恋が叶わないからって落ちた髪の毛を拾ったりしてないよね?」

「するか、馬鹿野郎! とっくに吹っ切ってるからな! あといい加減失恋いじりやめろや! 全然気にしてねえけど! 気にしてねえけど今度いじったら許さねえからな!」

「じゃあなんで匂いなんて気にするんだ?」

「そりゃお前、若い男女が部屋で二人きりになったら、なあ?」

「んなっ!!?」


 カルロスは顔を真っ赤にする。とっくに成人済みだが根本的な部分はピュアのまま。幼少から受けてきた情操教育も潔癖に近い。


「す、するわけないだろう! そういうのは結婚してからで!」

「なんだ、王族ってのはお堅いんだな。婚前交渉もなしか」

「お兄様、婚前交渉って何?」

「お、アルフォンス君、婚前交渉に興味がおあり? イバン兄ちゃんが教えてやるよ。婚前交渉ってのはな」

「イバン! 僕の弟に何を吹き込もうとしている!」

「おいおい、そこまで怒ることかよ。まったく王族ってのはお堅くて面倒だね。そういう家に生まれてこなくてよかったぜ」

「それでイバン兄ちゃん、婚前交渉ってなに? 教えてくれないの」

「すまんがカルロスお兄様に口封じされちまった。でもカルメンなら教えてくれるはずだ。今度聞いてみると良い」

「うん、わかった」


 アルフォンスは純粋な目でイバンを見ていた。


「イバン……君ってやつは……それだからカルメンに目の敵にされるんだぞ……」


 後処理がどれだけ大変になってもこればっかりは手助けしないとカルロスは心に決める。


「それで兄弟。本当のところはどうなんだ?」


 イバンは馴れ馴れしく肩を組んで顔を近づける。


「答えは同じだ。僕とアレクシスは清い関係を保ってだな」

「お前の気持ちはどうなんだ? 興味は大ありだろ」

「興味自体は否定しない。僕も一人の男で、アレクシスも魅力に溢れている女性だしな。抱きしめたいし……抱きしめられたいなあ……」


 カルロスは筋肉のことを思い出してだらしなく笑う。


「そうかそうか、個人の趣味趣向のことはこの際突っ込まない。野暮ってもんだ」


 突っ込んだところで藪をつついて蛇を出すようなもの。そそらない話をわざわざ聞き出したりしない。


「しかしな、俺は僭越ながら友人として家臣として経験者として夫婦の在り方は口出しさせてもらうぜ」

「経験者って……君は未婚だろうに」

「だが女性の経験は俺のが豊富だ。そうだろ?」

「ああ、豊富すぎて背中から刺されないでくれよ」

「おっと俺はそういうのとは無縁だぜ。後腐れのなく別れてくれる女が好きだし、避妊魔法などのアフターケアもばっちりだ」

「……どうしてだろう、頼もしく聞こえるがクズにも思える」

「価値観の違いだね。いやいや王族の君のが少数派だぜ? 結婚して一か月経ってから、なんて貴族の間でもきょうび流行らん。思い出してみろ、アレクシスはそもそも庶民の生まれ。男女の価値観も緩いほうかもしれないだろう」

「う、うん、まあ、一理あるかもしれない」

「そうだろう? もしかしたら婚前交渉がなくて『カルロス様から夜の誘いが来ない……私もしかして魅力ないのかも』って思ってるかもしれないわけだ」

「なんだ、今の。アレクシスの真似か? 全然似てないな」

「俺の声真似のクオリティは今はどうでもいいんだよ! アレクシスは自信家に見えて心にこっそりとコンプレックス隠してるほうだろう?」

「それは……わかる。筋肉解放した姿が大いに魅力的なのに隠していたのは自信がなかった、からなのもかしれない」

「な? だから言葉だけじゃなく行動でも示してやりなってことさ。心細くしてるかもしれないぜ」

「しかし……いきなり男女の関係を進めたいのは山々だが彼女の気持ちが……」

「おいおいおいおい! 男だろう、お前。覚悟を決めろよ」

「……駄目だ。やはりアレクシスの気持ちを差し置いて僕の劣情を優先するわけには」

「なんだ、なんだ、アレクシスのことをもっと知りたくないのか。見たことのない肌、聞いたことのない声……はい復唱」

「うう、見たことのない筋肉、聞いたことのない筋肉音……」

「俺も筋肉音は聞いたことないな……」

『僕も知りたいですね。アレクシスさんの全てを』

「なあ、アルフォンスもそう思うだろう」

「え? 僕が何?」


 会話に入ってこないと思っていたらアルフォンスは机の上にあったアルバムを開いていた。


「……待て、今の声、もしや元宮廷魔術師のエリック・ベルンシュタインか?」


 カルロスは気づく。誰よりも彼に近く、長く付き合いがあった。


「……っ!?」


 イバンは慌ててアルフォンスの首根っこを掴みベッドに放り、その次にカルロスをベッドに投げて対魔法加工が施されたカーテンを閉めた。そして窓際から外を観察する。


『警戒しなくてもよろしいですよ。今の僕にあなたたちに危害を加えることはできません。立て続けにイレギュラーが起きたものですからね』

「どっからしゃべってやがる!? 隠れずに出てこい!」


 イバンは目を凝らすが発見には至らない。虫の姿に変身している可能性も考えてくまなく探すがやはり見つからない。


『そもそも僕はその場にいません。呪いをかける気も毛頭ありませんのでご安心ください』

「信じられるかよ、裏切り者の言葉が! 一人の女性の人生を台無しにした糞野郎が!」

『あれは彼女が望んだことです。僕は背中を一押ししただけです。雨による催眠魔法の拡散、リヴァイアサンの血と……あと星落としでしたっけ』

「どう考えても崖から突き落としてるじゃねえか、下種が! どこだ、どこにいる!?」


 虫に化けている可能性も考え、目を凝らすも影すら掴めない。

 その中、いち早く声の在りかに気づいたのは、


「エリック・ベルンシュタイン。あなたは鉱石魔術が得意だったね。まさかよりにもよって尊敬する我が父上から受け継いだ指輪から話しかけるとはね」

御見事ブラボー。見ないうちに成長されましたね、カルロス君』


 指に嵌めた結婚指輪の宝石が本来の輝きとは異なる怪しい光を点滅している。


「ええ、あなたを師として仰いだ日からずいぶん経ちましたので。あなたは……成長というよりも変わられてしまった。もうあなたに師事できないこと非常に残念に思います」

『僕ももっと君の家系に代々伝わる冶金魔法について調べたかったですよ。非常に残念です』

「裏切者がいけしゃあしゃあと! カルロスに何の用だ!? 今さら宮廷魔術師の肩書惜しくないだろう!」

『やあ、イバン君。忠臣のペペ君は元気にしてますか?』

「ああ、元気だよ。宮廷魔術師たるもの国民を裏切るとは何事かとカッカしてるさ」

『エスコバル一家は勤勉で誠実ですからね。怒るのも仕方ありませんね』


 苦笑している顔が容易に浮かぶ。それほどまで親しかった人物が裏切った事実がいまだに受け入れがたい。


「エリック。君は今、どこにいるんだい? カスターニャ王国内かい?」

『詳細は省きますが命からがら国外へ退出しましたよ。五十年こっそり貯めていたヘソクリもすっからかんです。現在位置は話しませんよ? 黒鷲部隊隊長のフェランが飛んできそうなので』

「へっ、それ相応の痛い目はあったみたいだな。ちょっとばかしスカっとしたぜ」


 イバンはベッドに尻を落とす。


『挨拶はこれほどにして本題に戻りましょうか』

「ああ、我が愛妻アレクシスについてだな。先に礼を言おう。星落としによる隕石を粉砕した後、助けたのは君だね?」

『……これは驚きです、そこまでお見通しでしたか』

「あの時彼女も結婚指輪を身に着けていた。命の危機、そして拉致する機会をあなたが見過ごすわけがない」

『拉致とは人聞きの悪い。馬車から降ろす時手を引くようにご招待をするつもりでしたよ。ただイレギュラーが起きたので目的は半分しかクリアできませんでしたが。馬車から下した後の彼女は自分の足であなたの元へ行ってしまわれました』

「エリック・ベルンシュタイン。これは王としてではなく一人の男として言うよ。今すぐにアレクシスから手を引け。彼女は僕の物なんて図々しいことは言わないが少なくとも彼女の愛は僕の物だ」

『ふふ、かつての虚無症に蝕まれていた僕ならあっさり手を引くでしょう。でも今は違う。僕は彼女が欲しい。何もない真っ暗な空間だった僕の心に突然、そう彼女は太陽のように現れたのです。僕もまた彼女によって心に太陽を宿された人間なんですよ。これを聞いたらさぞお怒りになるでしょうね。うふふふ、激怒した彼女もまた素敵でした』

「……君は何もわかってないな……それを聞いたらアレクシスは悲しむんだよ……」


 カルロスは今から彼女が傷つき悲しむことを憂慮する。


『ほう、わかってないですか。それではあなたはどこまで彼女を知っているのですか』

「珍しいね、エリック。君がムキになるなんて」

『おや、言われてみると確かに。そうですね、感情を出してしまうほど彼女は特別なのでしょう。月と違い、唯一無二の太陽なのですから。そう、まさに太陽。天文学的確率で彼女のような特別は生まれるのです。彼女が異常なまでの執着を見せる事柄がありますよね』

「お、それは俺もわかるぜ。イケメンだろ。それにしてもどういう理屈なんだ、イケメンを摂取すれば魔力が回復するって。面食いってレベルじゃねーぞ」

『そう、面食い。それが彼女のユニークスキルです。心を強く揺さぶられると魔力を発生させられます。それも無限にです。理論上でありますが無限の魔力があれば喉の渇き、空腹、睡眠も克服はできます。そこまで行くと彼女は生物というよりも水素を取り込んで燃え盛る太陽のような存在です』

「……」


 あまりのスケールの大きさにイバンは開いた口が塞がらない。


「あ、あの」


 アルフォンスが手をあげる。


「それはあくまで理論上ですよね。いくらなんでも魔力腺を酷使しすぎたら擦り切れちゃうじゃないですか。魔力腺の回復は魔力では無理。自然治癒でしか回復しません」

『いい質問ですね、アルフォンス君。もう少し君が大きければ家庭教師もできていたでしょうに』

「お兄様やお姉様を陥れる人に家庭教師はごめんだよ」

『おやおや、最近の僕は振られてばっかですね。それでは本題に戻りましょう。ところでこの星が生命に満ちている理由はおわかりですか? 太陽にほど良い距離を取っていること、また月が盾になっていること、そして大気にマナが満ちていること。他にもさまざまな要因がありますがその一つ一つはどれも奇跡であり、その奇跡がいくつも重なって、この星は成り立っている。彼女の身体もそうなのです』

「……祝福されし恵まれた肉体。なるほど、魔力腺も強化されていると。あんな素晴らしい姿になったのは彼女の意志でもなければ遺伝でもなかったと彼女から聞いている。君はもうその正体に気づいているのか?」

『おおよそ、ですが。彼女をもっと知りたいのでそちらの分野にも手を出そうと思っています。久々の感情ですよ。老化を克服してから久しく感じていませんでした。忙しいと思ったのなんて。止まっていた時計の針が動き出した? いいや、もっと相応しい表現がある。青春ですよ、これは。遅れてきた青春です』

「正直驚きだな。エリック、君は結構おしゃべりだったんだね。もっと物静かだと思っていたよ」

『すみません、彼女のことを考えると感情豊かになり饒舌になってしまうようです、うふふふ』


 謝ってはいるが悪びれてはいない。

 エリックにオタクのような気質があったと発覚する。


『ところで太陽がこの星を中心に周っていた時代よりも古い風習ですが、もしも彼女に二つ名をつけるとしたらなんとします?』

「なんだい、いきなり」

『ちょっとした気分転換です。教壇に立っていた時は眠くなっている人もいるかもしれないのでこうして意見を聞くようにしているのです』


 カルロスは腕を組む。


「うーん、悩ましい……魅力しかない彼女を表すには僕の辞書ではあまりに力不足だ」


 一方でイバンは即答する。


「面食いだろ」


 アルフォンスも即答する。


「面食いだよね」

「君たち! もっとよく考えたらどうだ!」


 宝石の向こうから拍手が聞こえる。


『あっはっは! 面白い。ところで僕の意見も聞いてくれませんか』


 エリックは一呼吸置いて、


『不滅なんてどうでしょう』


 その場にいた全員の表情が強張る。


「おいおいおい、エリックよぉ。言って良いことと悪いことの違いもわらかないほどに長生きしてボケちまったのか」

「そうだよ! よりにもよって厄災の魔女と同じ二つ名をつけるなんて!」


 厄災の魔女。それは宇宙の法則、天動説を地動説に#物理的__・__#に捻じ曲げた神に等しい存在。なぜそんなことをしでかしたのかは未だに明らかになっていない。ただ言えるのは星に存在した生命の九割を滅ぼした。人間だけでなく、妖精、魔族の築き上げてきた文明文化も一瞬にして無に帰した。


『当然の反応ですね。おおむね予想通りです。じゃあお尋ねしますが否定できますか? 彼女は今後も進化を遂げないと何故言い切れるのです? いつか神の領域に到達するやもしれないでしょう』


 カルロスは、大きな大きなため息をこぼした。見せつけではない。


「エリック。君はやはり何もわかっていない」

『ほう、神に届かんとする彼女にたまたま顔が良いからと選ばれた君が何がおわかりなのです?』

「彼女と話し合えばわかる。彼女は破壊と再生を望んではいない。いつだって望んでいるのは笑顔だ」

『その笑顔のために大厄災を引き起こすかもしれませんよ?』

「させない。僕が絶対に止めてみせる」

『……わかりませんね。どうして彼女は平凡なあなたを選んだのでしょうか』


 その時遠くから大きな足音が聞こえる。足音は次第に大きく、近づいてくる。


『おや、彼女のお帰りのようですね。今はあなたにお預けしときますが、いつか必ず彼女を迎えに行きますので。それでは失礼』


 宝石の放つ怪しい光が消えたと同時に、


「おらー! エリック・ベルンシュタイン! ここに隠れてるのはお見通し、いやお聞通しですわよー!」


 筋肉解放した姿のアレクシスがドアを蹴破って入室する。エリックの声を聞くや否や駆けつけた。


「やあ、僕の愛しのアレクシス。慌ててどうしたんだい?」

「あ、あれ、カルロス様!? というか、ここはカルロス様のお部屋ではありませんか! なんてはしたないのでしょう! 淑女失格ですわー! いやそれはともかく、ここにエリック・ベルンシュタインは来ませんでしたか?」

「エリック・ベルンシュタイン? 彼はここにはいないよ。姿も見ていない」

「おっかしいですわねー……かすかに声が聞こえたのですが……」


 アレクシスは小首を傾げた。


「さあて、新婦さんもご登場したんだ、そろそろ帰るとするか」

「うん、僕も宮殿内の別の部屋に戻るとするよ」


 イバンとアルフォンスはベッドから降りる。


「イバン様にアルフォンス様! いらしたのですか! 私は気にせずにゆっくりなさってもよろしいのですよ」

「充分すぎるほど長居させてもらったよ。あらかた語り尽くしちまったぜ」

「うん、僕もいっぱい話したから疲れて眠くなっちゃった。それに今回の一件のおかげで僕たちの立場はそれなりに改善されてね、また前みたいにいっぱいお話できるよ。まあ、王都にはずっといられないんだけどね」


 二人の地位はカルロスの、国の窮地を救った功績により見直されることになった。それでも一度与えられた仕事は簡単に放棄はできない。


「確認だが二人とも、二日後まではいるんだよな?」

「二日後? まあ昼過ぎくらいに王都を発つ予定だが」

「僕もそれくらいだね」


 その答えにカルロスとアレクシスは微笑む。


「それは良かった。なら早朝は空いてるよな?」

「朝なら暇してるが……何があるんだ?」


 カルロスはアレクシスの腰に手を回す。


「僕らの結婚式を開こうと思っている。場所はカスターニャ王国が成立するよりも前から存在する古教会ルーフイ礼拝堂で」

「予算とスケジュールの関係で招待するのは家族と友人だけですわ」

「パレードや讃美歌もない。国民にも打ち明かさずに警備も最低限だ。予算が……あいにく使い果たしてね」


 マリアンヌの仕業で真に愛する二人の結婚式にまで影響が出てしまっていた。


「延期すればもうちょっとマシなのできるんじゃないか?」

「資金は国民の血税だ。繰り返せば不満が出てしまう」

「ええ、二人で話し合って決めたことですので。小さくても結婚式を開けるだけでも幸せですわ」

「それに君はマシなんて言うが、僕はこれでよかったと思っている。人生の晴れ舞台で友と弟に祝福してもらえるんだからね」


 マリアンヌがしでかさなければ二人の結婚式の出席が叶わなかったのもまた事実。


「ったく、王様のくせに人がよすぎるぜ」


 イバンはため息をつき、


「栄えあるカスターニャ王国の国王が、こじんまりとした教会でこっそりと結婚式ねぇ……親友としてもいただけねえなぁ」


 そう小声で呟く。腕を組んでニヤニヤと悪巧みをする。


「結婚式すごく楽しみ。楽しみだけど……それが終わったらまたお別れなんだね」


 アルフォンスは耐え切れず涙目になるも袖をこすって我慢する。


「結婚式が終わったらまた離れ離れになってしまうのですね。私も寂しいですわ」

「寂しくなったらいつでも遊びに来てくれよ。俺はいつだって歓迎するぜ」

「僕も……と言いたいところだけどロデオに戻れるかわからないんだけどね……いろいろと失態犯してるし」

「兄として慣れた土地で一所懸命にやってほしいところだが……あまり口を出しては国に示しがつかない。こればっかりは元老院頼みだな。君の願いが叶うことを祈ってるよ」

「ありがとう、お兄様」


 アルフォンスは兄と抱擁を、イバンは友と握手を交わして帰っていった。

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