第77話 帰ってきたアレクシス嬢 ~面食い淑女は永久に不滅~
アルフォンスが魔法の単眼鏡で星落としによって落下してきた隕石が木っ端微塵に砕け散ったことを確認した。だがしかし衝突した前後のアレクシスの姿を視認するまでには至らなかった。
カルロスは隕石破壊の瞬間は大聖堂の広場にいた。はるか頭上で瞬いた星の光を見届けた。
「アレクシス……」
光が消えた後も満天の星を見上げ続ける。
「君は、僕がどんな王になりたいかずっと覚えていてくれたんだね。夜でも雨の日でも民たちを笑顔にさせる太陽になりたいと僕が言ったことを……君は実現させたんだね」
震える彼の肩にイバンは手を乗せる。
「カルロス……お前の気が楽になるなら俺のことを憎んでくれたっていいぜ」
「……いいや。あの時の君はそれが正しかったと判断したのだろう。僕は君を責めたりはしないよ」
アルフォンスが心に穴が空いてしまった兄の手を握る。
「兄様……許されないことかもしれませんが、僕はずっと兄様の手を握っています。それなら少しは寂しさをまぎれますよね」
「ありがとう、アルフォンス。こんな心優しい弟をもてて僕は幸せだよ」
カルメンはアルフォンスの肩に手を乗せる。
「カルロス。拙は貴様が嫌いだ。どんなに厳しい言葉を投げかけても笑顔を崩さなかった貴様が気に食わなかった。だが勘違いしていたようだ。いつも笑顔の貴様も、涙を流すんだな」
「やめてくれ、カルメン。いつも厳しく律してくれる君が優しい言葉を投げかけたら、本当に……涙が……止まらなくなるじゃないか」
王として感情的になってはいけない。もっとも見せてはいけないのは涙だ、と心に誓っていたのに涙が止まらなかった。
慟哭。星になった彼女の名を何度呼ぶ。
「アレクシス!! アレクシス!! アレクシーーース!!!」
誰も哀れな彼を止められなかった。皆、彼と同じ気持ちだった。
広場に待機していた親衛隊と大司祭も思わずもらい泣きしてしまう。
「陛下、申し訳ありませんぬ……我々が、我々が不甲斐ないばかりに……」
「おお、アレクシス嬢……どうか、安らかな眠りを……」
そんな悲壮感溢れる場所に、ボロボロになったアレクシスは到着する。隕石を粉砕した疲れからか、筋肉は収縮し、縮んだ姿になっていた。
「いやー今回はまぁじ寄りのまぁじで死ぬかと思いましたわー!! ですがそこは淑女の中の淑女の中の淑女! 星落としも私の敵ではございませんでしたわー! 無事に生還してみせましてよー! おーほっほっほ!」
親衛隊と大司祭は揃って絶句した。あの鼓膜を劈くような高笑い、間違いなく本物。
肝心の仲間たちはまだ気づいていない。
「おい、カルロス。どこからかあいつの高笑いが聞こえたぜ」
「奇遇だな、僕も聞こえた。幻聴だろうけど、心が満たされるよ。あぁ、アレクシス……君は僕の心の中でずっと生き続けているんだね」
「はいはーい、カルロス様ー! 私の名前を呼ばれましたね!? はい、私こそがあなた様を愛しあなた様に愛されるアレクシスですわよー!」
しかし彼女の声は届かない。幻聴として片づけられてしまう。
「むう、皆さま、誰かの死を悼まれているようですわ……誰かお亡くなりになられたのかしら。ちょっとカルメン? 誰がお亡くなりになられましたの?」
アレクシスはカルメンの肩をちょんちょんとつつく。
「そんなの決まってるだろう……アレクシスだよ」
「そう、アレクシスさんが亡くなられましたの。どうか安らかに……って、私のことじゃありませんの!! ちゃんと生きてますわよ!!」
両頬を掴んで無理やり目と目を合わせる。
「あ、アレクシス!!?? 貴様死んだはずでは!!??」
「勝手に殺さないでくださいまし!!!」
「いや待て、ありえない。貴様が偽物の可能性も否めない。正体を現せ」
カルメンはアレクシスの眉間に銃口を突きつける。
「本物が本物って言ってますのに!?」
「偽物ほどそう言うものだ。じゃあ証明してもらおうか。本物のアレクシスならカルロスの歌を即席で作れるはずだ」
「そんなの言われなくてもとっくに作ってますわ! 私! カルロス様のために歌います! どうして~そんなに~素敵~な~の~♪」
歌えとまで言ってもいないのに勝手に、やけに拳のきいたオリジナルソングを初披露する。
「ああ、もういい。こんな頭の悪いことするのはお前しかいない」
「もういいですの? 十番まで作ってありますのに」
「しかも長いな!?」
こうして無事に生還したアレクシスは仲間に迎えらえる。
「ったくお前ってば本当に面白い女だよ」
イバンは目尻に溜まった涙をウィンクして弾き落とす。
「そうそう、お姉さまはこうじゃなくちゃ! 不可能を可能にする淑女だもんね! おかえりなさい!」
アルフォンスは無邪気にアレクシスに抱き着いた。
「こらーアレクシス! アルフォンス様から離れろ! 拙を心配させたことを許すが、アルフォンス様への接触は許さん! もう人妻なのだから気を付けろ!」
カルメンはそう言ってアルフォンスを引きはがす。
そして涙を流していたカルロスは、
「アレクシス……無事でいてくれて何よりだ。もう、手の届かない場所に行ってしまったのかと心が張り裂けそうだったよ」
笑顔を取り戻した。
「……カルロス様。こんな時に何ですがやはり笑顔が一番ですわね。泣いた顔も怒った顔も眠った顔も素敵ですが、やはり笑顔が一番。こんなイケメンの、それも旦那様がいらっしゃるのにどこか遠くへ行く場所がありませんわ」
アレクシスはカルロスの胸に顔をうずめる。
「ただいまです、カルロス様。心配をおかけしました」
彼もまた彼女の背中に手を回し強く抱きしめた。
「おかえり、アレクシス。もう君をこのまま離したくない」
そんなカスターニャ王国出身の女が抱きしめられながら囁かれたい言葉No1を聞きながらも、
「えっ、それは困りますわ!」
アレクシスはやんわりと拒絶する。
「え、どうしてだい?」
「胸の中に顔を埋めたままではカルロス様のお顔が見えませんもの!」
「ははは、君ってやつは」
アレクシスはいついかなる時も面食い。
今までも、これからも。
面食い淑女は永久に不滅。
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