第12話 起死回生のアレクシス嬢
「ゲーコゲコゲコ!! 俺様に逆らうからこうなるゲロ!! 当然の結末であーる!」
勝ち誇るアッパレガエル。腹を叩きながら小躍りする。
「くそが……」
イバンは血を流しながらも立ち上がり、短刀を抜いた。
「おや、まだいたのか、イバンとやら。立ち上がらなければ忘れていたところだったであーる。せっかく女に助けてもらった命を散らすとは、人間とは斯くも愚かであーるか」
戦意は立派だが立つのもやっとでふらふらと揺れている。
「黙れ、蛙如きが……惚れた女を飲み込まれてみすみす逃げ帰られるかよ」
「その心意気、わからなくもないであーる。同族が鷹に捕食された瞬間、悲しみや怒りを感じなくもないであーる。よかろう、女との再会を許してやる。ただし胃の中で……なっ……!?」
突如アッパレガエルに異変が起きる。
「まさか小娘、生きて……!? ぐおおう!!??」
喉を抑え、苦しみ藻掻く。
「井の中はあなたのほうですわ」
喉からアッパレガエルではない、聞き覚えのある声。
「アレクシス! しぶとく生きてやがったか!」
「ご心配をおかけしましたわ。実は食べられるのも狙いの一つでしたの」
「はあ!? わざわざ食べられるリスクを負ってまですることなのか!?!」
「ええ、でもおかげさまで目的は達成できましたわ。ぬめぬめにはなれましたが、こうならないとできないこともありますので」
アッパレガエルは恐怖で震える。
「ななななにをするつもりでゲロ!? なんだゲロ、急に喉が焼けるように熱く、ひぃっ火ぃーーーーーーーーーー!!!!!」
大きな口から炎が噴き出る。
その炎からフェニックスのようにアレクシスが姿を現す。
「いかがですか、身を焦がし炭になってしまいそうなほどの私の情熱の炎は。淑女たる私は武闘派ではなく魔法派なんですのよ?」
「のど……カラカ、ラ……やけどして……」
内部からの攻撃は大ダメージを与えた。水分たっぷりの巨大な蛙の体内を枯らしてしまうほどの火力だった。
「ちなみにですが、これでも手加減したほうなのですよ? ええ、その気になれば一瞬で消し炭にもできますの」
「え、え、なんで、ころさな……」
「もちろん、決まってますわ。ボコボコのタコ殴りにするためですわ」
「やっぱ……武闘派……じゃん」
アッパレガエルは涙を流しそうになったがその水分も残ってない。
アレクシスは渾身の右ストレートを放った。
「これは目的のためとはいえ、粘液に穢れた私の分!」
お次は左ストレート。
「これは同じく汚れてしまったカルロスから贈ってもらった魔封じの腕輪の分!」
お次はラッシュ。
「コルセット! タイツ! 靴! ドレスも歓迎会のために仕立てたものです!! どれも愛しのカルロス様に褒めてもらうために用意したお気に入りでしたのよおおおおお!」
一撃一撃が岩をも砕くほど重い。
「そしてこれが、私を身を挺して守ってくださったイバン様の分ですわあああああああああああ」
フィナーレは回し蹴りで飾る。
「げこおおおおおおおおお」
巨体が回転しながら宙を舞う。
ドスーーーーン!
今度は頭から不時着する。ぴくりぴくりと足が震える。
「ふう、すっきりしましたわ」
アレクシスは爽やかな笑顔を見せた。
「さてさくっと駆除するとしましょうか」
笑顔のままで怖いことを言う。
アッパレガエルは逃げなかった。
「殺すなら……一思いにやってほしいでケロ」
むしろ介錯を嘆願した。
「……最近はお腹が空いて狩りをしても割に合わないケロ……飢え死には変わらないケロ……それにどうせ頑張って生きたところで番にもなれないケロ……生まれ故郷から離れた土地で孤独に生きる意味を考えたケロ……だけど何も浮かばなかったケロ……」
アレクシスは息を飲んだ後に、ゆっくりと吐いた。
「異種族ながら同情はいたしますわ……ですがあなたをこのまま生かすわけにはいきません」
「……お前は優しいケロな」
アッパレガエルは目をつむった。
優しくもあり厳しくもある淑女の手に炎の渦が生まれる。
「さようなら、孤独の殿様」
悲しき弱肉強食の世界。
蛙の身体を炎が……包まれなかった。
「ストーップ! 火葬、ストップだ!」
とどめを止める者がいた。
それはほかでもない深手の傷を負わされたイバンだった。
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