第6話 おっさん、今後の方針を定める
「では一番最初に死ぬのは、この二人と」
「は、はい」
僕は坂橋先生が生徒たちの名前と死亡時期についてまとめた紙に目を通す。
すると、近いうちに二人の生徒が命を落としてしまうことが分かった。
その子たちの名前は――
「
「はい。学校でも知らない人はいないくらい、仲の良い男女です」
「お、カップルですか? おっさん若人たちの恋愛話とか興味あります」
「真面目にやってください!! 生徒たちの命がかかってるんですよ!!」
「す、すみません」
ちょっとしたジョークを言ったら、めっちゃ叱られた件。
まあ、子どもたちの命がかかってるとしたら、叱りもするよね。
「死ぬまでの時間は34日後。つまり、猶予は一ヶ月もあるわけですね」
「一ヶ月も、って、たった一ヶ月ですよ!?」
「ええ。少なくとも、一ヶ月は大丈夫ということです。原因を特定して取り除く必要がありますね」
死ぬと言っても色々な死に方がある。
病死、事故死、落下死……。ああ、毒で死ぬこともあるかな。
「……やっぱり、多少の無理をしてでも僕の保護下に置くべきでしたかねぇ」
「でも、子供たちを人質に取られたあの状況じゃ仕方なかったと思います」
「いえ、できるにはできたんですよ。生徒たちを救出して連れてくることは」
「え? な、ならどうしてっ!!」
僕の言葉を聞いてバッと椅子から立ち上がる坂橋先生。
おっと、今のは失言だったかな。でもまあ、言っておくべきことだよね。
「簡単に言うと、僕が死ぬからです」
「……え?」
「僕は一時的に強大な力を扱えるようになるユニークスキルを持っているんです。生徒たちを連れ出すことも容易だったでしょう。ただ、代償として魔力どころか寿命やら魂やら、あらゆるものを持って行かれます」
「それは……その、すみませんでした」
「いえ、謝ることでは。子供たちの面倒を見切れないとか色々な理由はありますが、結局は自分の命が惜しくて子供たちを置いてきたわけですから。責められる謂れはあります」
まあ、その他にも生徒たちを助ける手段があるにはあった。
転移魔法で生徒たちを丸ごと連れ出すとか、向かってくる兵士たちを全員ボコって正面突破で城を出るとかね。
でも大人数での転移魔法は、いくら僕でもリスクというものが生じる。
座標設定をわずかでも間違えると、空中や土の中に転移しちゃったりするし。
正面突破しようにも、加減を間違えると相手を殺してしまう。
僕は極力人殺しにはなりたくない。
やはり確実なのは【神化】を使うことだが、僕は自分の命が惜しいのだ。
「じゃ、じゃあ、ひとまず後藤君と愛花ちゃんをここに連れてくるというのは……」
「おすすめはできませんねぇ。二人だけ連れてきたら、残りの生徒たちへの警備が厳重になるでしょう。それを正面突破もできますが、確実に何人かを殺すことになる。僕が嫌です。仮に何往復かするとしても、大勢を連れてきたら食料やら寝泊まりする場所やらが無くて詰みます」
「ならどうすれば……」
「先程も言ったように、徹底して死因を取り除くしか無いかと」
問題はその死因が分からないこと。
「彼らは今、アトランティス王国の城にいます。あれだけ王様を脅しましたし、お姫様の怯え具合からしても、僕との約束を破ることは無いでしょう。つまり、王国による殺害ではない」
「じゃあ、事故死ですか?」
「あるいは病死ですが、それだと二人同時ということは無いでしょうし、まあ、そうでしょうね。あと考えられるのは、王国に属さない人物による殺害でしょうか?」
「王国に属さない……他国、と」
「ええ、アトランティス王国が勇者を抱えていると知れば、その力を恐れる他国が刺客を送り込んできたとしても不思議ではない。それこそ、魔王軍からの刺客だって有り得る。ただ、どちらにしろ殺害なら僕のかけておいた保険が効くはずなんですがね。相手がドラゴンとかだと無意味てますが」
刺客という言葉を聞いて、坂橋先生がぶるっと身体を震わせた。
「刺客、ドラゴン……。な、なんだか怖いですね」
「そこは慣れてください。こっちの世界ではままあることです。特に勇者のような力ある人間だと尚更ね」
「柊さんも、同じような経験が?」
「ははは、世界中から指名手配されたこともありましたよ。刺客なんて道を歩けばエンカウントしましたとも」
「本当に昔何やったんですか!?」
「秘密のあるおっさんは良いおっさんなんですよ、坂橋先生」
元の世界に帰る手段を探すためとは言え、割とえぐいことしたしね。
環境破壊は無論、盗掘や王の墓荒らしとか。
ぶっちゃけ指名手配されるだけのことは散々やってるのだ。
あとは女性関係で揉めたりしたことも一度や二度じゃなかったかな。
「ああ、そうだ。一応、先生に一つだけ聞いておきたいことが」
「なんですか?」
「もし、生徒がこっちの世界で問題を起こしたら、どうします?」
「え?」
「例えば殺人。例えば強盗。例えば放火」
「じょ、冗談はやめてください!! あの子たちがそんなことするわけ――」
僕は坂橋先生の言葉を全力で否定する。
「することもあるんですよ、こっちの世界だとね」
「っ、そ、そんなの……」
「おかしいでしょう? ええ、僕もそう思いますよ。真っ当な倫理観を持っていると、こっちの世界では簡単に壊れます。だから人は、その世界の倫理観を受け止め、それを自らの倫理とする。身を守るための殺人はオッケー、生きるための強盗はオッケー、報復のための放火はオッケーってね」
実際、かつての僕のクラスメイトにもそういうダークサイドに堕ちてしまった者がいる。
当時の僕はそれを咎めたが、今にして思うと彼らなりにこの世界を生き抜く方法だったのだと思う。
「もし、生徒たちを道を踏み外してしまった時、先生はどうしますか?」
「……」
坂橋先生は考えるように俯いた。しかし、俯いたのは一瞬だった。
「引きずってでも、元の道を歩ませます」
「……ふむ? それが生徒のためにならないとしても?」
「はい。……私の自己満足かも知れませんが、私は先生ですから。子供たちが道を誤ったなら、元の道に戻してあげるのが、教師である私の使命です」
なるほど、自分が教師でありたいがためのエゴってことか。
これくらいの覚悟があるなら、大丈夫そうだな。
「先生は問題なくこっちの世界でも生きていけそうですね」
「それ、褒められてます?」
「モチのロン」
さて、雑談はここまでにしよう。
「今晩、闇夜に乗じて生徒たちに接触を図りましょう」
「わ、私も!!」
「ええ。僕だけだと後藤君と八神さんの顔が分かりませんしね」
僕は諸々の準備を済ませ、坂橋先生を連れて夜中に城へ侵入するのであった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
スキル紹介【生徒名簿】
生徒たちの死亡時期を知ることができる予知系スキル。
「おっさんのスキルが気になる」「このおっさんマジで何したんだ」「先生かっこいい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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