第22話 第四の神殿
負傷者たちを近くの町で待機させ、可憐といつものメンバーは第四の神殿へと向かった。
アンドリューは一緒に来ていない。町に着くと同時に、別行動に戻ると彼自ら言い出したのだ。
可憐が助力の礼を述べると一瞬だけうれしそうな顔を見せ、そのまま町の中に消えていった。
変にしつこくしないその距離感が上手いと可憐は思った。
少々格好つけ感はあるものの嫌な人間ではないし、明るい性格で思ったよりも人間味がある。好意ではないにしろ、好感は抱き始めていた。
そうして一行がたどり着いた第四の神殿は、『水の神殿』。
森の湖の真ん中に、静かに佇んでいた。
湖は恐ろしいほど透き通っていて、底まで見ることができる。
白く輝く鱗を持つ魚が水底に影を映しながら優雅に泳いでいる様は、どこか幻想的だった。
湖の上に架けられた神殿へと続く橋を通り、騎士たちは扉の前で待機する。
「じゃあ、行ってきます」
「はい。どうかお気をつけて」
可憐は小さくうなずくと、青い扉を押し開けて神殿の中へと入る。
神殿の中はひんやりと涼しく、湖の水を引き込んでいるのか通路と円形の聖壇以外は水で満たされていた。
聖壇の中央で手を組み、祈りを捧げる。
水面が輝き、女神の『よく来たな、わが娘よ』という声が響いた。
「女神様」
『なんじゃ』
「できることなら……第四の力は癒しの力をいただけませんか」
『ほぉ、なぜじゃ』
その声音に、授ける力を指定されたことに対する怒りは感じない。
むしろ、どこか面白がっているように聞こえた。
「私を守るために、怪我をした騎士たちがいます。中には、命の危険がある人や、おそらく騎士を続けることが不可能なほどの怪我を負った人も」
『それが騎士の仕事であろう。その怪我がそなたのせいだとでも?』
「私のせいではありません。ですが、私のための怪我です」
『そなたは面白い考え方をする』
ふふ、と女神が笑う。
『そなたには聖女キックを授けようと思うておったが』
なんでまた物理攻撃!? と叫びたいのを必死でこらえる。
『まあそなたが望むなら、いかにも聖女な癒しの力でもよかろう。受け取るがよい』
キラキラと輝く雪のような光の粒が、可憐の両手に降り注ぐ。
光は、手の中に染み込むように消えていった。
『癒しの力は有効かつ強力な力だ。切り落とされた体の一部をつなげることすらできるぞ』
「それはすごいですね。これで騎士を助けることができそうです。ありがとうございます」
『切り落とされてからそう時間が経っていなければ、以前と同じ動きを取り戻すことができる。そなた自身で試してみるか?』
「そ、それは遠慮します」
可憐が慌てて首を振る。
この女神が言うと冗談に聞こえないから恐ろしい。
『ふむ、そうか。まあよかろう。欠損部分を再生することもある程度はできるが、大きなものは難しい。一度に再生できるのはせいぜい指一本程度であろう。無から物質を生み出すのはかなりのエネルギーが必要だからの』
「なるほど……」
『治癒の技はエネルギーの消費が大きい。そなたの寿命を削るようなものではないが、かなりの疲労を感じるであろう。心して使うがよいぞ』
「承知いたしました」
『ああそうじゃ、今回の試練じゃが……』
その言葉にぎくりとする。
まさか体の一部を切り落とされるのかと、気が気ではない。
『早く負傷者のもとに駆けつけたいであろうから、この神殿では試練を与えぬ』
「! ありがとうございます!」
『その代わり――』
続く女神の言葉に、可憐は情けない顔をする。
「そ、それは必須で……」
『もちろんじゃ。ちゃんと――と言うのも忘れるでないぞ? まあたいした試練ではあるまい。与えた力を有効活用せよ。騎士たちの役に立ちたいのであろう』
「……わかりました。女は度胸ですから」
『よい言葉じゃの』
おほほほほ、と女神が楽しそうに笑う。
その笑い方はやっぱり小梅ちゃんに似てるな、と思った。
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