第18話 襲撃
馬車がゆっくりと荒野を進んでいく。
「あーもう髪までザラザラする~。お風呂に入りたーい」
「もう少しで荒野を抜けられるから頑張れ、セーラ」
「はぁい副団長」
セーラはツインテールの片方をバサバサと乱暴に手で払い、ちらりと馬車を見た。
「それにしてもぉ。最近ますますいい雰囲気ですよねぇ、団長と聖女様」
「はは、そうだな。まあオレたちは静かに見守るだけだよ」
「もちろんわかっていますよぉ」
むふふぅ、とセーラが笑う。
馬車の外でそんなことを言われているとも知らず、馬車の中は相変わらず和やかな雰囲気だった。
「あ、そうだ、ジークさん」
「はい」
「白騎士団長の……えーと、アンドリューさんについて詳しいですか?」
「普段は接点はありませんが、アカデミー騎士科の同期だったので、ある程度は知っています。親しいわけではなかったので詳しいと言えるほどではありませんが」
「彼はどんな人なんですか? 急にあんな感じで現れたし、少し知っておきたいと思いまして」
ジークが少し考え込む。
「そうですね……。先日のように少々強引な面はありますが、悪い人間ではありません。責任感が強く腕も良い。人付き合いも上手いかと思います」
「なるほど。注意すべき点などはありますか?」
「……少々、野心的な面があるかと。とはいえ、そのために非道なことをする男ではないと思っています」
ジークが厳しい態度を取っていたのは、その野心的な部分を警戒してのことなのだろうと思った。
「彼が聖女にこだわるのは何らかの“野心”があるからですよね。具体的にどういうことを望んでいるんでしょうか」
「それは……」
ジークが言い淀む。
アンドリューの事情を勝手に話すのは気が引けるのだろう。
「ごめんなさい、色々聞きすぎました。今のは忘れてください」
彼が小さく頷く。
と同時に、足元で寝ていたメッシーが急に立ち上がり、窓枠に留まって外を眺めていた小梅ちゃんが可憐の肩に乗って羽をバタバタと動かした。
「どうしたの?」
「アブナイ」
「何が……」
ふとジークを見ると、いつの間にか壁に立てかけていた剣を手に取っていた。
窓の外を見る彼の鋭い瞳に、ひやりとする。
馬車が、ゆっくりと止まった。
外で聞きなれない笛の音が響く。
何が起きているか聞こうとしたが、馬車の扉が開いてタイミングを逃した。
「団長」
「イアン。襲撃か?」
「はい、おそらく野盗がこちらに向かってきています。他の団員は笛で既に集まりつつあります。赤い
「馬車を囲むよう騎士を配置しろ。絶対に野盗を馬車に近づけるな。カレン様をお守りすることを最優先にするんだ」
「はっ」
ジークが可憐に視線を移す。
彼は安心させるように微笑した。
「少々トラブルが起きましたが、心配いりません。こんな時のための騎士団です」
「ジークさん……」
「どうかご心配なさらず。野盗ごときに負ける黒騎士団ではありませんから。しばしお傍を離れますが、決して馬車からはお出になりませんよう」
「わかりました……」
彼は一礼し、馬車から出て行った。
「本当に心配しないでくださいね。特に団長はめちゃくちゃ強いですから」
イアンがいつも通り明るい声で言う。
可憐はうなずくことしかできなかった。
馬車の扉が、閉められる。
(野盗の襲撃って、怖すぎる。それより何より、ジークさんや他のみんなが心配……。でも、いくら私が聖女の技を持ってるからって、私が外に出ればその分みんなは私を守ることに注力しなければいけなくなる。大人しく待っていなきゃ……)
今初めて、神殿に入っていく可憐を見送るジークの気持ちがわかった気がした。
心配なのに、何か助けになりたいのに、自分はただ何もせずに待っていなければいけない。
(いつもジークさんはこんな気持ちだったのかな。何か、私にできることは……)
可憐を見つめるメッシーと小梅ちゃんが目に入る。
助けになれる方法が、ないわけではない。
ただ、いわゆるぶっつけ本番になるし、下手すれば騎士団の邪魔になってしまう。
可憐はひとまず戦況を見守るべく、窓の外に視線を移した。
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