第15話 新たなペット


 神殿から出ると、いつものメンバーとメッシーが迎えてくれた。

 ジークが可憐の肩の小鳥に視線をやる。


「その小鳥も女神様からの贈り物でしょうか?」


「はい、小梅ちゃんと名づけました。メッシーと同じく元魔獣です」


「……メッシーの時も思いましたが。もしや、その小鳥と戦われたのですか? 頬にすり傷が」


 ジークが可憐の頬に手を伸ばしかけ、思い直したように手を下げる。


「はい。でも、見事勝利しましたから心配しないでください。女神様も、私が絶対に乗り越えられない試練は与えませんので」


「……承知いたしました」


 ジークの表情は晴れないが、試練に言及しても可憐を困らせるだけだと思ったのか、それ以上は何も言わなかった。


「この鳥はコーメチャンっていうんですね~」


 重くなった空気を変えるように、イアンが明るい声で言う。


「ちっさくてかわいいな~」


 イアンが可憐の肩の小梅ちゃんにそっと手を伸ばす。


 ドスッ


 やはりお約束通りの展開で、イアンは指先をつつかれた。


「いってぇ!」


「お前には学習能力がないのか……」


 呆れたようにジークが言う。

 可憐は慌てた。


「こらっ、小梅ちゃん! 人を攻撃しちゃダメ!」


「ハァーイ」


「絶対にダメだよ、人を攻撃する子は連れていけないからね!」


「ハァーイ」


「ごめんね、イアン」


「いえいえ、大丈夫っすよー。仲良くなる前に触ろうとしたオレがいけないんです」


「もう副団長ってば面白すぎぃ」


 セーラがくすくすと笑う。

 そんな楽し気な彼女の後ろからのそりと出てきたのは、子犬のメッシー。

 メッシーは小梅ちゃんをじっと見つめる。その視線に気づいた小梅ちゃんは、可憐の頬にすりすりと頭をすりつけた。まるで見せつけるかのように。


「グルルル……」


「メッシー、唸らないの。仲良くしてね」


「メッシーはコーメチャンに嫉妬してるんですよぉ、うふふ」


「そっか……寂しい思いをさせてごめんね。でも仲間が増えたからといって、メッシーのことが大好きだということに変わりないよ」


 そう言って可憐はしゃがみ込み、メッシーを優しく撫でる。

 気持ちよさそうに撫でられるメッシーだったが、今度は小梅ちゃんが肩の上で挑発的に左右に体を振るのを見て再び唸りだした。


「グルル……」


「オ~ホホホ」


 小梅ちゃんが高笑いする。

 その笑い方があまりにも女神に似ていて、もしやこれは女神が飼っていた鳥なのではと可憐はげんなりした。


「小梅ちゃん。挑発はやめて」


「ハァーイ」


 相変わらず返事だけはいいが、本当に伝わっているかどうか怪しい。

 どう解決したものかと悩んでいると。


「カレン様を主人と定めたお前たちが、カレン様を困らせるのか? 特に鳥」


「ピ……」


 ジークに冷たく見据えられ、小梅ちゃんが首を縮める。


「カレン様を警護する責任者として、無駄に混乱をもたらす者の同行は認められない。共に行きたいのならカレン様を困らせるな」


「ハァ~イ……」


 渋々のように、小梅ちゃんが返事をした。

 メッシーと小梅ちゃんはしばし見つめ合う。やがてメッシーが可憐の膝に手をかけて、肩の上の小梅ちゃんにそっと鼻を近づけた。

 小梅ちゃんはしばし考えたのち、その鼻の上をつんと優しくつつく。

 とりあえず仲直りしたようだ。


「いつもすみません、ジークさん。私が飼い主なのに」


「たいしたことではありません。こんなことでもお役に立てているのでしたら幸いです」


 可憐とジークもまた見つめ合い、微笑みあった。


 旅の仲間に一羽を加え、可憐たちの旅は続く。



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