第14話 VS魔鳥
大きい、と可憐は思った。
翼開長が三メートル近くあろうかという巨大な鳥が、神殿の天井付近を旋回している。
まるで可憐を獲物として狙っているかのように。
否、実際に狙っているのだろう。
「と、鳥さん。私を襲っても何もいいことはないよ。大人しくしてくれたら、おやつのドライフルーツをあげるから。美味しいリンゴだよ~」
もちろん鳥は答えず、しばらくぐるぐると旋回し――突然可憐に向かって急降下した。
「うわああ、聖女バリア!」
鳥と可憐の間にとっさに聖女バリアを展開するも、鳥の鋭い
「よ、弱い!」
それでもバリアで突進のスピードは
攻撃を避けられた鳥は地面すれすれを滑るように飛び、再び高く飛び上がった。
「聖女パンチ!」
試しに
「えーい、じゃあ新技・聖女の歌!」
日本の小学校で習った某曲を裏声で歌う。
神殿の中ということもあって可憐の声はよく響き、鳥は弱ったようにバランスを崩し、ぐっと高度を下げた。
「今だ! 聖女パンチ! パンチ! パーンチ!」
連続パンチのうちの一発が羽に当たり、きりもみ状に落ちてくる。
さらに連続パンチを繰り出すが、落下中のモノに当てるというのは案外難しいもので、それは外れてしまった。
鳥は器用に空中で方向を変え、可憐に向かって突進してくる。
「ヒィィ聖女バリア!」
再度バリアを張ってわずかな時間を稼ぎ、今度は逃げずに真正面から聖女パンチを放つ。
至近距離でカウンター気味に入った聖女パンチの威力は絶大で、鳥は壁に叩きつけられた。
そこからすぐに飛んで逃げようとする鳥だったが、再び響いた聖女の歌にまた脱力したようにバランスを崩す。
だが可憐がむせたことで歌が途切れ、再び天井付近へと逃げてしまった。
(動きながら歌い続けるってきっつい……!)
もともと可憐は体力のあるほうではない。
運動とは無縁だったし、地方都市在住なので通勤も車だった。
この世界に来てからは体を動かさなければならないことが増え、体重も以前よりはかなり落ちたとはいえ、戦闘をいつまでも続けることは不可能である。
長引くほど、可憐にとっては不利になる。
(もう決着をつけないと……)
一か八か、とポケットに手を入れる。
そして再び歌いだした。
鳥が少し弱った様子を見せる。だが決着をつけたいのは鳥も同じらしく、一度大きく羽ばたくと可憐に向かって滑空してきた。
だが聖女の歌のおかげか、動きが少し鈍い。
可憐はギリギリまで鳥を引きつけ――ポケットから取り出したドライフルーツをぽーんと投げた。
つられた鳥が方向転換する。
可憐は思い切り足を踏ん張り、最後の大技を繰り出した!
「聖女パンチ! あたたたたたたたた!」
鳥がドライフルーツを嘴でキャッチしたと同時に、可憐の連続聖女パンチが炸裂する。
さすがにこれにはたまらず、鳥はついに床に落ちた。
ピクピクと羽を震わせ哀れな様子を見せる鳥だったが、この状態でも油断してはいけないのは
聖女の歌でさらに弱らせ、容赦なくとどめの聖女パンチを繰り出すと、今度こそ鳥は白い小鳥へと姿を変えた。
「ふぅ……」
小鳥が起き上がり、ぷるぷると震えながら可憐を見上げる。
白い小鳥は、頬に赤く丸い模様があった。
「オカメインコだ、かわいい! 羽毛が全部白で頬に模様があるのって珍しい」
白とオレンジがかった赤のコントラストが美しい小鳥を見ながら、可憐は小梅おにぎりを思い出していた。
「でも小梅おにぎりじゃ長いから、小梅ちゃんにしよう。今日からあなたは小梅ちゃんね」
「ピ」
わかった、というように小鳥が鳴く。
そしてぴょんと可憐の肩に飛び乗った。
甘えるように小さい頭をすりすりと頬にすりつける様が愛らしく、可憐の胸がふわりと温かくなった。
『なかなか戦いのセンスがあるではないか。
聞こえてきた楽しそうな声に、温かくなっていた胸が一気に冷える。
可憐は「アリガトウゴザイマース」と棒読みで礼を述べた。
『その鳥じゃが』
「はい、魔獣の世界には戻しませんし焼き鳥にもしません。私が責任を持って飼わせていただきます」
『わが娘は反抗期らしい』
くく、と女神が楽しそうに笑う。
反抗期の年齢などとっくに過ぎているが、さすがにこうまで振り回されれば誰でも不快になる。
だが神という存在にはそんなこともわからないらしい。
可憐はため息をついた。
『見事な戦いっぷりを見せてくれた礼に教えてやろう』
女神が聖女の歌の特殊な使い方について説明してくれる。
可憐は考え込んだ。
『なんだ、嘘ではないぞ? 女神は嘘をつけぬのだ。今言った通り、危険はない』
「嘘だと思っているわけではありませんが、ちょっと気が引けるというか……」
『良い運動になるし、元の性質がわずかに残っているからそのほうが生き生きするぞ』
「そんなものですか……」
『そんなものじゃ。ほんにそなたは面白い。ではな、愛しい娘よ』
神殿が静まり返る。
どうやら女神は去ったらしい。
「……行こっか、小梅ちゃん」
「ハァーイ」
「わぁ、お返事上手だね。会話もできたりして?」
「ハァーイ」
会話は難しそうだが、かわいいペットが増えたことは素直にうれしいと思えた。
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