第6話 子犬?に名付け
扉を開けてよろよろと出てきた可憐に、視線が集まる。
「カレン様!」
「聖女様! 大丈夫っすか!?」
「大丈夫、ありがとう……」
そう言いながらも足がもつれて転びそうになった可憐を、ジークがとっさに支える。
たくましい腕の感触に、可憐は疲れも忘れてドキドキした。
「カレン様! 中でいったい何が……!」
「えーと、大したことじゃありません。ちょっと女神様の試練が」
「あまりに出てこられるのが遅いので、心配になって扉を開けて入ろうとしたのですが、どうやっても扉が開かず……」
「あーそうなんですね。たぶん女神様のお力だと思います」
あのドS女神め、と思ったが、まだ聞こえていたらまずいので口にしない。
次の神殿で大変な目にあいたくないから。
(ほんとまともじゃない。まあ、まともな神様ならわざわざ異世界の人間を聖女に選んで一方通行の召喚なんてさせないか……)
とりあえず馬車に戻ろうと進みかけたところで、足元に温かいふわふわの存在を感じて視線を下げる。
「あ……そうだ、連れてきたんだった」
子犬の存在が、疲労困憊のあまり頭から抜けていた。
「この子犬は?」
「あー……女神様からの贈り物、でしょうか。元魔獣ですが今はただの子犬です」
「元魔獣!? へー……でも白くてふわふわでかわいいっすね!」
副団長イアンが、子犬のもとにしゃがみ込む。
「なかなか賢そうな顔してるじゃないか。よし、お手!」
ガブリ
お約束とも言える展開で、子犬はイアンの手に噛みついた。
「いてててて!」
「ご、ごめんなさいイアン! まだ躾も何もしてなくて」
女神は無害と言っていたのに、いきなり噛みつくとは。
ドS女神基準では無害ということだろうか、と可憐は泣きたくなった。
「いえいえー、お気になさらないでください。いきなり手を出したオレが悪いんすから。たいして痛くありませんでしたよ!」
「この犬こわぁい。スープの具材にしちゃいますかぁ?」
口調は粘着質な感じにかわいらしいのに、言うことは過激な女性騎士セーラ。
可憐は「だめです!」と慌てて止めた。
「カレン様の犬だ、スープの具材だなんて言うな、セーラ」
「はぁい団長」
ジークが子犬のもとにしゃがみ込む。
そのまましばし無言で子犬を見つめた。
「人は噛むなよ。主人であるカレン様にご迷惑がかかる。わかるな?」
ジークを見上げる子犬が、さらに瞳を潤ませ、小刻みに震えだす。
こちらに背を向けているため、彼がどんな表情をしているのか可憐からは見えなかった。
だが、子犬は明らかにジークに怯えている。
彼が手を差し出すと、子犬はその手をぺろりと舐めた。
「賢い犬ですね。これで大丈夫でしょう」
そう言ってジークが立ち上がる。
振り返った彼は、いつもと同じ優しい表情をしていた。
「扱いなれているんですね」
「そうでもありません」
ジークが苦笑する。
黒騎士二人は「さすが団長」と褒めたたえた。
「ところで、カレン様。この犬は連れていくのですよね?」
「はい」
「名前はもうお決まりですか」
「名前……」
たしかに一緒に連れていくなら、ずっと子犬ちゃんでは不便だ。
可憐は子犬を見ながら考えた。白くてふわふわで温かい、愛すべきもの……。
「
「シロメ、シ?」
「はい。あーでもちょっと呼びづらいですね。じゃあ愛称をメッシーにします」
「メッシーですね。了解いたしました」
「じゃあよろしくね、メッシーくん!」
「わん!」
こうして、旅の仲間に白飯略してメッシーが加わったのであった。
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