第4話 第一の神殿
道中特に危険に見舞われることもなく、一行は第一の神殿へとたどり着いた。
砂丘の真ん中にある別名『火の神殿』とも呼ばれる第一の神殿は、夕日を受けて赤々と輝いている。
火の神殿と言いつつ近くに海があることに、可憐はわくわくした。
夕食には魚が食べられるかもしれない、と。
砂地に入る前に馬車を停め、そこからは歩いて神殿に向かう。
ジークが先頭を歩き、可憐、ツインテールが愛らしい女性騎士セーラ、陽気な副団長イアンと続いた。
普段はこの四人で行動し、他の黒騎士二十名は目立ちすぎぬようばらけながらついてきている。
いざという時は集合して可憐を守る手筈になっていた。
可憐たちが歩く石畳は、不思議なことに砂をかぶることもなく真っすぐに神殿へと伸びている。
まるで可憐を
(いよいよ神殿……)
神殿の巨大な扉の前で、皆が足を止める。
「申し訳ございません。我々はここまでになります」
ジークが頭を下げる。
「祈りを捧げるって、何をすればいいのでしょうか」
「中に聖壇がありますので、そこでただ祈ればいいとのことです。聖女様は女神様の娘。その祈りに母なる女神が答えてくださり、力をお授けくださるそうです」
「そうなんですね……」
結局具体的にどうすればいいのかさっぱりわからなかった。
とりあえず行ってみるしかないと決意する。
「カレン様」
「は、はい」
「もし危険でしたら、私を呼んでください。禁を破ってでも助けに行きます」
その言葉に可憐はきゅんとする。
役目とはいえ、そんなに情熱的な言葉をかけられたことがなかったから。
だが、神殿に入ってはいけないという騎士が可憐を助けに神殿に駆け込めば、きっと彼は罰せられるだろうと思った。
(本当に死にそうになるまでは呼ばないでおこう)
そう決意しながらも、可憐は「ありがとうございます」とだけ述べた。
「聖女様、頑張ってくださいねぇ」
「オレたちもいざとなったら助けに行きますからね!」
「二人ともありがとう!」
セーラとイアンの言葉に励まされ、可憐は一人神殿へと足を踏み入れた。
中は、だだっ広く天井が異様に高かった。
教会のように祭壇や参列者が座る椅子などもなく、ただ最奥に女神像と、三段ほど高くなっている場所があるのみ。そこが聖壇だと思われた。
思っていたよりもずっと殺風景な空間である。
天井付近にある窓を彩るステンドグラスだけが、この空間に花を添えていた。
ゆっくりと奥へと足を進め、聖壇に立つ。
目の前には、巨大な女神像。
やり方もよくわからないまま、その場に跪いて手を組んだ。
「聖女可憐、ただいま参りました。どうか結界を強くしてください。そして私に力をお授けくださいませ」
その祈りが届いたのか、女神像がきらきらと輝く。
ファンタジーな光景に、可憐は目を見開いた。
『よく来たな、わが娘よ』
落ち着いた女性の声が、可憐の頭の中に直接響く。
「め、女神様……!」
まさか神様の声を聞けるなんて……! と、組んだ手が感動に震える。
『そなたの祈りに応え、結界の一角を強化しよう。また、そなたに技を授ける』
「ありがとうございます……!」
技ってどんなのだろう、やっぱり聖女らしく回復魔法かな、と思っていたら。
『そなたには“聖女パンチ”を授ける』
「……はい?」
『だから聖女パンチじゃ。相手を殴る聖女パンチ。ああ、人間にはさほど効かぬぞ。だが魔獣に対しては特効がある。何せ聖なる力だからな』
「パンチ……ですか? なぜ回復魔法でもなく、物理攻撃?」
可憐には珍しく、思っていることをそのまま口に出してしまう。
女神様が低い声で『ほぉ?』と言った。
『そなた、わらわが授ける技に不満でもあると申すか』
「い、いえいえ、滅相もございません」
『パンチでは不服か、パンチでは。相手を殴る技じゃ、一番大事であろう』
なんで相手を殴るのが一番大事なんだろうと思いつつも、これ以上女神の不興を買うわけにはいかないのでさすがにそれは口に出さなかった。
「不満などあろうはずがございません。殴る技が大事です。ありがたく頂戴します」
『ふむ。やはり不服なようだな』
なんで!? 人の話を聞いてます!? と叫びたいのを必死でこらえる。
『聖女パンチがいかに優れた技か、そなたには身をもって知ってもらう必要があるようだ』
笑いを含んだ声で、女神様が言う。
嫌な予感しかしないので、可憐は必死で首を振った。
「いえいえいえそんな、そんなこと」
『
背後に異様な気配を感じて振り返る。
広いホールの真ん中に魔法陣のようなものが現れ、胴体だけで二メートルはありそうな黒い狼らしきものが現れた。
目は爛々と赤く光り、全身に黒いモヤのようなものをまとっている。
可憐は腰を抜かしそうになった。
「めめめ、女神様?」
『さあ、聖女パンチと言いながらあの魔獣に向かって拳を突き出せ。直接殴らなくても大丈夫じゃ』
「あの、あ、あれを引っ込めてください。もう二度と文句は言いませんので」
『見事
おほほほほ……という笑い声を最後に、いくら呼び掛けても女神は返事をしなくなった。
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