epC.深海のような夜を貴方と

# Ⅴ ほっとここあ。

温かいカフェで、俺はココアをちまちまと飲んでいる


窓についた水滴がガラスを曇らせていて、手で拭き取ると、そこは銀世界だった

いい加減寒いからやめてくれ、と少年は思う


「雪…きれいですね」

目の前で頬杖をつき、同じくココアを少しだけ喉に流し込む少女

彼女のライラックとシアンのヘテロクロミアは、外の風景ではなく瑠璃の少年の姿を捉えては離さない

もちろん雪なんて一目もしない


2人で特に意味もない会話を続けること3時間

先ほど「外は銀世界」と表現したが、実際には暗闇のほうが正しい

クリスマスの影響で街はカラフルな光がポツポツと輝いている


「はぁ…クリスマスまでには恋人ができてる方針だったのに…」

既に冷めきったココアを飲みながら、少年は目を逸らし悲しそうに言う


「えっ、結局みんなフったんですか!?」

少女は目をまん丸にして驚く

なぜなら、少女は見てしまったのだ


柊雨宛ての大量のラブレターを___


何度も女性の先輩や同級生、後輩が柊雨を呼び出していたことも知っている。偶に男性も来ていた

毎回、柊雨に直接言うのは少女だ。彼女は自分をうまく利用されることに少し不満もあったのだ


「え…みんなって誰のこと?」

少年はとぼけた顔で言う


これは告白してきた人間は皆、記憶するまでもない。と思っているのか、

それとも、ただ告白に気づいていない鈍感な男なのか

彼の普段の性格から察するには、後者だろう


「んふ……あははっ!冗談冗談〜♪」

突然、彼は笑いながらそう言った


「くじらの驚いてる顔も好きだからさ」

笑った勢いで出てきた涙を手で拭いながら言う彼

さりげなく“好き”という単語を入れる彼に、少女は(これがガチ恋製造機か…)と思う


「あぁ、はい。そうなんですね。柊雨くんのことだからそうだろうと薄々気づいてましたから…」

頬を膨らませて、くじらは言う

「嘘だ!」と少年は指摘するが、くじらは悔しさのあまり一向に認めず、言い争いが始まる



「ふふ。ずっと…こうゆう風にくだらない事を言い合えたらいいですね」

言い争いの中、突然少女は頬を緩めて呟く

少女の言葉に、少年はほろ苦くて淡い笑みを浮かべる


困ったときは助け合うが、お互いに深く関与してはいけない

人間じゃない二人わたしたちは、常に生きるためを考え、細心の注意を払わなくてはならない

こうして気楽に話せる間柄も、多くは作れないのだ


「あ、いま寂しいこと考えてたでしょ!」

俯いて考え事をする少女を覗き込む少年


「僕がくじらの味方になるから、くじらは無理しなくていいんだからね」



2人は冷めたココアを飲みながら、また外を眺める



✧︎  ✧︎  ✧︎


「ねぇ、イルミネーション見に行こうよ」


「あの…“いるみねーしょん”ってなんですか」

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