epB.青い薔薇は花弁を落とす
# IV stardust
生徒は希望制で、寮に入ることが出来る。
俺はもう1年間この「モルペウス寮」で生活している。
前に居た同居人達は…(考えるのはやめておこう。)
今日は新一年生が寮に来る日だ。
徹底して“カッコイイ先輩”を作り上げなくては。
肺にいっぱい溜め込んだ空気を、悩みと一緒に吐き出してみる。
「よし、いける!」
常に切羽詰まった気分でその微かな音を感じ取る。
トン…トン…と、静かに靴下の音が近づいてくる。
✧︎ ✧︎ ✧︎
カラカラと開く扉の先には、ミントグリーンの爽やかな髪が靡く…1人の少女がいた。
「あ!初めまして!」
俺はすかさず挨拶を交わす。こうゆうのは第一印象が大切だからね。
「
少女は口を小さくぱくぱくとさせている。
だけど、俺は目が悪いため読唇術を使おうとしても、口の動きは全く見えなかった。
眼鏡を付けていないとほとんど見えないだなんて...
やっぱり、時代はコンタクトなのかもな……と俺は悟った。
暫くの間、唯、互いを見合う沈黙が続いた
「……」
俺は常に小さく笑顔を作り、少女の言葉を待っていたが、
一向に進歩しないこの状況は、気まずさが増えるばかりだ。
思い切ってここは俺から話すべきなのかもしれない!
「ここの寮に入る新入生の子?よく迷わずこれたね!」
突然話をしたからなのか、ミントグリーンの少女は最初より表情が強ばっている。
「緊張しなくたって大丈夫!ほら、こっち座って」
俺の隣を手でトントンとさせると、少女は大人しく部屋に入ってきた。
座ったのは俺から2メートル程離れていたけど。
「あのさ!名前、なんて呼べばいい?俺まだ新入生の名前覚えられてなくってさ〜…」
「……睦月です。…睦月透亜。」
少女は『最低限の情報は話してやった。』と言うような口調で短い自己紹介をする。
まだ緊張はほぐれないようだ。
確かに、俺も知らない先輩と2人きりの状況なんて居心地が悪すぎる。すぐにでも帰っているところだ。
ここは“カッコイイ先輩”の俺が何とかするしかない…!
「それじゃあ透亜、よろしく。」
人間は自分の名前を呼ばれるとなぜだか幸せな気分になるらしい。
俺は最高級に美しい微笑みを披露する。
この笑顔は今まで色んな人に漬け入ることが出来たくらいだ、
「俺の名前は柊雨。2年10組だよ。」
俺も自己紹介は、相手に合わせて端的に済ます。
少女の顔色を伺ってみると、ほとんど表情が変わっていない。
きっと自己表現が苦手だったり、人と関わりを持つことに慣れていないのかもしれない。
それからは、他愛のない話を(俺が一方的に)少女と続けていた。
ふと、また廊下から足音が弾みながら近づいてきていることに気がついた。
スキップをして、鼻歌を歌っているみたいだ。
音を聞き分けながら、俺は少女と話を続ける。
「(一種の訓練なのか…?)」
足音はついに扉の前まできた。
✧︎ ✧︎ ✧︎
俺の目の前に現れた少女は、雪が降り、地面に溶け残った氷のように透き通った髪をサラサラと揺らしている。
少し不揃いな前髪の隙間から見える、切れ長なサファイアブルーの瞳とぱちり、と目が合う。
「…よ、よろしくおねがいしま…す……!」
ぎこちなく挨拶する少女。性格は先程会ったばかりの透亜と似ているな、と考える。
となると、また俺から積極的に話す方が効果的だろう。
「初めまして。それから、よろしく!俺は柊雨、こっちは透亜。君は?」
声は優しくして、少女を怖がらせないように俺は細心の注意を払った。流れるように自己紹介をして相手の名前もさりげなく聞く、とても自然なキャラが創れている。
この調子なら本当に上手くいってしまうのではないか、と邪念が浮かび上がるので追い払う。
「…月雪瑠花です!
瑠花は自分の名前を、空中に指で書く。
「わかった、瑠花。どっか自由に座って待ってていいよー!」
まだ来ていない同じ寮の人間はあと1人。
その人間が来るまで、俺は透亜と瑠花が少しでも仲良くなれるように共通の話題を探したり、各々でくつろいでもらう。
暫くすると、その最後の人間の足音が聞こえてきた。
✧︎ ✧︎ ✧︎
「こっこんにちは〜」
少女がゆっくりと扉を開けながら入ってくる。
おどおどとした少女は、俺の隣に座る瑠花の姿をみて安堵したように感じる。
俺は気付かないふりをして、少し遅れてまるで今、気がついたような演技をする。
これで最後のメンバーが揃った。
これから始まる新たな寮生活は、どんな色を塗っていくんだろうか。
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《補足》モルペウス寮 メンバー
睦月透亜、月雪瑠花、星宮玲、柊雨
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