#Ⅲ Cherry blossom
しばらく待ったが、一向に迎えなどが来る様子もないから、俺は手に持った瑠璃の学生証をじっと見つめる。
不思議なことに、見つめていたらなんだか眠くなってきたので、俺は目を瞑った。
✧︎ ✧︎ ✧︎
目を開くと、そこには終わりが見えない程に広く美しい校庭と、その奥には無垢な白を纏い、そこにあることが当然のように堂々と座る校舎が一面に広がる
「ようこそ、代理学園へ!」
代理学園…か。
やけに明るい口調で俺の目の前に現れたのは、あの藪医者…じゃなくて可愛らしい少年だ。
まだ、名前も聞いていなかったような…
「招待状のときはありがとうございます。あの、まずは名前を教えてもらえますか?それから、この学園のこと全く知らないので説明してください!あと勝手に病室に侵入したこと、許してないですからね?」
名前を聞くつもりがつい、気になることを思いつく限り質問してしまった。
「そう慌てることはないよ。ボクは…あ!それより……これから入学式があるからこの地図の場所の向かって!遅刻したらどうなるか分かってるね?君はもう、この学園の生徒になるんだから。」
少年は地図を渡すと、足早に校舎の方へ向かっていった
だんだんと遠ざかる少年の背中に向かって言葉を落とす
「この学園の生徒になる‥か」
地図をみながら俺は目的地を目指す
幸いにも、俺は日本に来てから長いから、こうゆうことは得意だった
☆ ✧ ✧
別の星からきて、戸籍もなかった俺は生きるために必要な知恵を必死に駆使して生きてきた
人間に助けを求めるには、最低でもコミュニケーション能力が必要だった
異世界生まれの俺の顔も、この世界ではかなり好かれる方らしい
忌々しい故郷を思い出させるこの耳も、少しは役に立ったと思う
✧ ✧ ☆
「ここであってる‥のか?」
地図を見てたどり着いた場所は、おそらく学生がよく話をしていた体育館だろう
運動したり、''こうちょうせんせい''が喋る場所だ。
そういえば、よく道を歩く学生たちが噂をしていたな。
’’校長先生の話は長い。’’
体育館に入ってみると、すでにたくさんの生徒らしき人が椅子に座って待っていた。
少年にもらった地図に番号が書いてあったので、それを椅子の番号と照らし合わせて、自分の席につく。
入学式が始まるにはまだ時間があるみたいだ。
椅子に座って待っているだけだったから眠気が増してきた。
「___で、_____を守り、楽しく学園生活を送りましょう。そして、___」
気がついた時には、既にステージの上に知らない男が立ってい、難しい言葉を延々と話している。
俺は途切れ途切れな記憶を頼りになんとかその言葉を理解しようと頑張った。
「――これらをゆめゆめ忘れないでください。…夢だけに。なんちゃって!」
…何を言っているんだ
人間の話は深くて興味深いとずっと信じてきたが、こればかりは話がつまらないと言う肩書きを似合わせてしまい、申し訳ない…と思ってみる。
✧︎ ✧︎ ✧︎
後に知った事だけれど、どうやらつまらない話をする男は“校長”だったそうだ。
校長の話の後に、教師を全員紹介する時があった。
俺は、俺をここへ招待した少年が教師だったことに吃驚した。(名前は
吃驚したというのは、決して“少年が教師に見えないほど馬鹿らしい”とか“大人にしては小さすぎる”とかいう理由では無い。…多分。
入学式が終わり、その場にいた生徒たちはぞろぞろと自分のクラスへ向かう。
俺もその生徒について行き、自分の教室へと向かう。
席は出席番号らしい。
俺は廊下側の席に座った。
(担任がくるまで、他の生徒と仲を深めておくか…)
しばらく近くの生徒と話をしていたら、前のドアから堂々とした動作で教師が入ってくる。
この人間は…確か「たまば」だったような……
「はい、今日から私がこのクラスの担任の
教師こと眠目は、黒板にでかでかと名前をかいていく
“眠目”はパッと見たら人間は読むのに困るような苗字だな、と思った。
「今この時より君たちはクラスメイト――大げさな言い方をすると戦友だ。貴重な友との絆を深める第一歩として、まずは自己紹介をしてもらう」
何故人間の友と戦うことが必要なんだ。ここはお互い毛落とし合い、残った数人のみを卒業させるようなシステムなのか?
不思議ではあるが、人間との絆を深めることは大切だ。
特に仲良くしていれば、必要な時に助けをくれるし、味方にもなってくれるだろう。
名前、好きな教科、趣味、ひとこと
自己紹介で話す言葉はこの四つのみだそうだ。
自分の出番が来るまでに、俺は念入りに計画を立てる。
心の中でシュミレーションもしておこう。
次々に自己紹介が終わり、ついに俺の前の人の番になった。
最後にもういちど話すことを確認し、バレないように深呼吸する。
「___よろしく!!」
俺の前の席の人(自己紹介はほとんど聞いていない)は元気よく自己紹介を締め着席する。
担任は俺と目を合わせると、目の圧だけで「早く立て」と急かしてきた。
準備も完璧なことだし、俺も席を立つ。
声は大きくハキハキと。表情は笑顔で。
「はじめまして、柊雨って呼んでください!得意科目は音楽、趣味もそっち系です。みんな気軽に話しかけてね!」
我ながら完璧だと思う。最後にカッコよくウインクを決めてみた。
端的で、でも明るくて元気。これは誰からも好かれる性格だろう。
周りを見るに、反応も悪くない。俺は安心して着席した。
その後も自己紹介は止まることなく進んでいく。
その中で少し気になったのは、薄いマゼンタのような髪色に全体にオーロラを纏ったような雰囲気を漂わす少女だった。
「くじらって言います! 好きな教科は特にありません。趣味…趣味は歌、ですかね…? よ、よろしくお願いします!」
少女は微睡んだ表情で、柔らかく微笑む。
完璧ではない、人間味溢れる話し方をする少女に、俺はとても興味が湧いた。
「黒澤優香里です!好きな教科は体育と数学で、運動がすっごく得意だよ!僕は基本的になんでもできるから、みんなと仲良くしたいな、!よろしくっ!」
その後ろの少女は、明るい話し方で、とても楽観的な人間だった。一人称が「僕」なことは少し気にかかる。
あと…運動が出来るのは羨ましいな…と憧れた。
これからこの学園で、このクラスで、自分を演じながら生きていくことに緊張する自分と、楽しみにしている自分がいることが、僕の本心。
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