たそがれどき

平日夕方のテレビは、ほとんどが情報番組で占められている。いくつかニュースを扱った後は各地のデパートやイベントの特集が組まれ、穏やかな時間が流れる。そんな中、テレビの上方に速報テロップが流れた。


──新幹線が火災の為──駅間にて緊急停止。


それまで笑顔で現地のリポーターと話していたキャスターが顔を引き締め、テロップと全く同じ内容を繰り返す。詳しい情報が入り次第お伝えします、と。


しばらくして、中継が一区切りしたところで再度難しい顔をしたキャスターが原稿を読み上げる。


「先程お伝えしました──新幹線が緊急停止したニュースについて、新たな情報が入ってきました。新幹線の火災は放火によるものだということです。既に容疑者は乗客や駅員によって取り押さえられ、その身柄は警察に引き渡され──」


視聴者提供と記されたモザイクだらけの車内映像が映る。撮影者も避難しているのだろう、揺れる映像には悲鳴や叫び声が飛び交い、奥からたくさんの人がなだれ込んでくる。画面が切り替わると、数名の男によって犯人らしき男が地面に抑えつけられていた。


「連休前の平日ということもあり、当時車内には多くの乗客が乗っていたようです。負傷者も出ており、現在病院に搬送されているとのことです」


SNSを開けば、トレンドに放火事件が急上昇し、モザイク無しの映像や画像がいくつか投稿されている。


──怖っ。新幹線乗れないじゃん

──うわえぐっ。めっちゃ燃えとる

──これで新幹線止まってたんか

──地元じゃん。あの辺だと〇〇病院かな。友達働いてる。

──特定班はよ

──みんな無事でありますように

──えっなんで動画撮ってる人おるん

──やっぱ新幹線も手荷物検査すべきでは

──ねぇ今日ライブなんだけど。詰んだ

──すごい、火消してあげようとしてる人いる

──スマホ向ける暇あったら逃げるか助けろよ。頭おかしい

──ひどすぎる

──ニュース見てたけど新幹線の消火器どこにあったか思い出せない……


その後も時間を置いて何度か同じ報道が繰り返され、その度に現場のリポーターや乗客のインタビューなどが加わっていく。多くの局がバラエティに移行する19時前にも、更新された情報が硬い声で告げられる。代り映えのしない視聴者提供の映像の後に、犯人の画像と名前、年齢が表示された。


「本日午後17時半頃、──発──行の──新幹線車内で発生した放火事件について、新たな情報が入ってきました。容疑者は──在住の──。動機はまだわかっていません。現在死者13名。亡くなられた方の身元はまだわかっていません。他にも多くの乗客が煙を吸っており、近くの病院で手当てを受けているとのことです」


──なんで犯人の写真て卒業写真みたいなのばっかなんだろ

──名前出たってことは犯人公務員ではないな

──かわいそうにねぇ

──1人で死ねばいいのに

──引きこもりの俺氏高みの見物

──気分悪くなった人はスマホ閉じて。情報シャットダウンするのも大事

──これも精神鑑定すんの?

──生きてても火傷やばそう

──あの病院じゃダメだな。〇〇だったら助かったかもしれないけど

──犯人無事なの?許せないんだけど

──友達と連絡とれない。めっちゃ心配

──ご冥福をお祈りいたします

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