ふるいにかける

メイとマリコは幼馴染で、就職して家が離れても交流を続けてきた。連休や長期休暇のタイミングで年に1、2回は新幹線に乗り、どちらかの家で過ごしている。今回はメイがマリコ宅へ足を運び、新しくできたテーマパークや観光を楽しんでいた。しかしまぁ、どこに行こうと、話題は結局思い出話や互いの恋愛、職場の愚痴に落ち着くのだった。今日もこうしてたくさんの苺がのったパフェを食べながら、マリコがマッチングアプリを辞めた話を始めた。きちんとパフェを味わって、美味しいと感じたのなんかはじめの数口だけだ。


「えー!なんで辞めたん?出会いなくない?」

「そうなんじゃけど、疲れちゃって。あんまりいい人と会話続かんし、会ってもなんか微妙なんよねぇ」

「あー……わかるかも。なんかこの年になってくると、相手が遊び目的かとかだけじゃなくて、既婚者じゃないかも疑わなきゃだし、疲れちゃうよね」

「そうそう。周りもみんな結婚しちゃってさ、遊ぶ友達おらんから寂しいんじゃけど、おひとり様極めるのもありなんかなって思って」


今しがた大きな苺を口にしたメイは何度も頷いて賛同を示した。パートナーができると、みんなそちらを優先して、ただの友達とは疎遠になってしまう。自然の流れなのかもしれないが、残された方は寂しい。かと言ってアプリで適当にパートナーを見つけるのは怖い。実は相手が彼女持ちだったなんて話はざらにあるし、下手すれば不倫だと訴えられるようなことになるかもしれない。最悪の場合は殺される。自分の目で嘘を見極めるしかなく、慎重になってしまう。


「メイは誰かいい人おったん?」

「ううん。なんかさー、ずっとアプリしてたら理想高くなる気がする」

「あー、確かにねぇ」

「1回条件いい人とマッチングしていいとこまでいくとさ、普通の条件の人後回しにしちゃうっていうか」

「もっといい人いるんじゃないかって思っちゃうよねぇ。決めきれない」

「そー……すごい会話続いて、期待して会ったらしょうもないことでがっかりしちゃって。そこで切っちゃうんだよね。自分だって大した人間じゃないのにさ」


メイは既に10人近くの男性と会っていた。中には3回会った人もいるし、交際を申し込んでくれた人もいた。それでも、付き合うには至らなかった。

もっといい人がという気持ちよりも、小さなことが目についてしまって足踏みしてしまうのだ。食べ方が汚いとか笑い方がいやらしいとか、距離間の詰め方が急だったりアルコールの楽しみ方が違ったり。友人や同僚なら気にならないことまで嫌だと思ってしまう。学校や職場、飲み会など対面での出会いなら既にそういうことはわかった上でデートをするが、アプリだとデートで初めて知ることになるから効率が悪い。そして些細な価値観の違いがわかった時点で切ってしまう。付き合ってからすり合わせて上手くいってる人もいるのだろうけど。

メイがそう告げるとマリコもうんうんと共感する。


「私なんか初手で自分は名乗らないくせにこっちの名前聞いてくる人ブロックしとったよ」

「わかるー!私本名が二文字じゃから、相手にタケです!とか言われたら、いや絶対あだ名じゃん、フルネームじゃないじゃんって思って切っちゃう。ずるいもん」


2人で笑い合って、メイは何口か続けてアイスを食べた。ついお喋りに夢中になって、いつもすっかり溶け切ってしまうのだ。向かいを見れば、マリコは今日もいつものように上手いこと食べ終えている。それを自覚しつつも、再びメイが口を開いた。


「そういえばメッセージなしのアプリあるらしいよ」

「え?どういうこと?」

「いきなり電話して、すぐに会うんだって。先輩がそれで結婚してた」

「まじで!?怖すぎ!勇気あるねぇ。え~気になるじゃん」


言いながらマリコがスマホを取り出して検索し始める。一方メイは無事に下のシリアルゾーンへとたどり着いたことに安堵した。


「うわ。ねぇねぇ、話変わるけど、すぐそこで事故だって」

「え!?」


驚いて思わず大きな声が出てしまった。周りの視線を感じて、ペコペコと小さく会釈をする。ほら、とマリコがスマホの画面を見せてくれて、メイは火照る顔を手でパタパタと仰ぎながら一緒に覗き込んだ。


「えー危なぁ……近いの?」

「うーん、ちょっと。もう、また高齢者だよ」

「……ほんとだ。えー、ケガしてる人いるじゃん。最悪」


ざくざくと残りのシリアルを口に運ぶメイに、マリコが続ける。


「言いにくいけどさぁ、こういう事故とかで誰か死んだりした時にさ、子どもじゃなくて良かったって思っちゃうんだよね。じじばばならまあ……かわいそうではあるけど、そこまでっていうか」

「マリコそれ、中学の時も言っとったよね」

「え、嘘。言ったっけ」

「うん。あー、まぁ、確かに?って思ったの覚えてるもん」


まじかぁ、とマリコが苦笑して、2人の話題は中学時代へと遡っていく。2人はきっと、残りの休日も同じように過ごしていくのだ。古い思い出も新しい思い出も共有しながら。

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