第5話 慈善か偽善か

「こんにちはクレイガーさん」

シャルロッテは微笑んでそう挨拶した。


「やあどうも」

クレイガー氏は相変わらず無愛想にそう返した。


クレイガーのオフィスは相変わらずの忙しなさだ。クレイガーと同世代と見える中年男が怒鳴りながら若手記者を追い立てまくっていた。


「忙しそうで何より」

その様子を見てシャルロッテはそう言った。


「うちみたいなところはスピードが生命だからね……おいエリーズまだ居たのか!」

クレイガー氏はその若い女性記者にそう怒鳴った。


「すいません!今すぐ!」

エリーズという女性は頭も下げずに大慌てで事務所から出ていった。


「お厳しい」

シャルロッテは眉を上げてそう言った。


「どうもあいつはどこか抜けてるんだよ。だからなのかいつも変な事に気がつく」

クレイガー氏はそう言って唇をひん曲げた。


「そしてそれがウケる。使わない手はない」

クレイガー氏は微妙な顔でそう言った。


「だから花形記者になったと」

シャルロッテはそう言って笑った。


「あれがうちの花形とは認めたくないな」

クレイガー氏は微妙な顔をした。


「数字は正直ですわ」

シャルロッテはそう言ってやりこめた。


熱烈な民主主義者であるクレイガー氏は当然政治に興味がある。しかしまだまだ王政支持は強く、あまりはっきりと王政批判を書いてもウケない。その矛盾を救ったのがエリーズだった。彼女の視点は鋭くも変わっていて、それが読者にウケたのだ。


「聞いたよ。ヤーデン卿から家財道具一切を巻き上げたって?」

クレイガー氏はあながち冗談でもなく言った。


「人聞きの悪い」

シャルロッテはやや憤慨した。


「私は民主主義者なので貴族という存在には好意的ではない。卿の決断は立派だ」

クレイガー氏はそう前置きした。


「チャリティ・オークションだって素晴らしいアイディアだと思う、しかし……」

クレイガー氏はそこまで言って言い淀んだ。


「身寄りのない老人から金品を巻き上げるような真似には賛同できないと?」

シャルロッテは微笑みつつも鋭い目でそう問うた。


「そこまでは言っていない、だが」

クレイガー氏は眉根を寄せてそう言った。


「そこまでではなくても、私以外にもそのように感じる者は多いだろうな」

クレイガー氏は言葉を選んでそう言った。


「批判は覚悟の上です。多くの人からあざといと思われるのも甘受しましょう」

シャルロッテは視線を外してそう言った。


「しかしこれはチャリティなのです」

シャルロッテはびしりとそう言った。


「それについても些か疑問が出ているね」

クレイガー氏の言葉は鋭い。


「我がコルオーモ家は既にふたつの学校を立ち上げました。ひとつは女学校です」

シャルロッテはクレイガー氏を見てそう言った。


「それについては批判の余地もない」

クレイガー氏はそれを認めた。


「恵まれない人たちへの支援はクレイガーさんもご理解頂けたのではなくて?」

何かを言いかけるクレイガー氏の口を封じるようにシャルロッテは言った。


「もちろんだ、君は立派だ」

クレイガー氏は両手を広げてそう言った。


「だが、それが実は一部を懐に入れているとなれば問題だぞ」

クレイガー氏は鋭くそう言った。


「それどころかむしろそれを目的とした企画なのではないか?という噂もある」

クレイガー氏の言葉は鋭い。


チャリティ・オークションを行い、その売り上げで恵まれない人たちが通う学校を設立するという事業計画に、当初クレイガー氏は感激して自社で広告を出してくれた。しかしその一部が不正横領されているとなれば彼の面目は丸つぶれなのだ。


「あなたの理念が理解されないように」

シャルロッテはそう前置きした。


「私の理想も多くの人々から誤解を受けます」

シャルロッテはぴしゃりとそう言った。


帰りの馬車の中でシャルロッテは憤慨していた。世の人間はどれほど「予定通り」の人生を歩んでいるのか聞きたいくらいだわ!彼らの人生には凶作もなければ、学校で何の問題も起きないのかしら!?何事にも予備費は絶対に必要なのよ!

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