第3話 許嫁との邂逅

「こんばんはシャルロッテ」

ウィンスロン公爵ドノヴァンは相変わらず恭しすぎる声と態度でそう言った。


「こんばんはウィンスロン公爵」

シャルロッテもニコヤカな笑顔で一礼した。そうすると彼は微妙な笑顔を浮かべた。


「他人行儀すぎやしないかい?シャルロッテ?」

ウィンスロン公爵は自信たっぷりにわざと困った笑顔を浮かべてそう言った。


「あらそうかしら?」

シャルロッテは出資者に対して、彼が望むように親しみを感じさせる演技をした。


「全く、君は本当にミステリアスな女性だ」

ウィンスロン公爵はそう言いながらシャルロッテの手を取った。鳥肌とまでは行かないが口角が引きつったのは自覚した。だが出資者に失礼はできない。


「全くのおてんばかと思えば礼儀作法は遵守する」

ウィンスロン公爵はそう言ってまたしても笑顔を浮かべてシャルロッテを見つめた。


「私がおてんば?」

シャルロッテは嫌味にならないようにそう言った。


「おてんばさ」

ウィンスロン公爵は自信たっぷりにそう言った。


「女性の身でありながら競売を主催するなんて」

ウィンスロン公爵にとっては、伯爵令嬢が自らチャリティ・オークションを企画し、それを運営するというのは「はしたない」という認識なのだ。


「女は裁縫をしていろと?」

シャルロッテはこれこそ嫌味を込めてそう言った。


「まさか」

ウィンスロン公爵は笑顔を大きくした。


「花と茶を愛でてたまに社交ダンスなんてね」

ウィンスロン公爵にとってそれは全く悪意のない冗談だった。彼の本音はそんな事ではなかった。女は褥に居て子供を産み育てればいいのだ。


──そういうのは他の人に求めて

シャルロッテはそう言いかけて自制した。


それを言えばこの微妙な婚約関係の破棄に繋がる。それそのものはむしろ歓迎だが、せめてチャリティ・オークションが終わるまではそれはできない。そして彼女の都合はそれで良くても、家の都合でやはりそれは言い出しづらい。


「素敵ね」

シャルロッテは口が曲がりそうな思いで言った。


「君だってきっと気に入る」

ウィンスロン公爵もさすがに馬鹿ではない。少なくともシャルロッテが今現在そんな生活を望んでいない事くらいは判っている。


「…………」

シャルロッテは無言で作り笑いを浮かべた。


シャルロッテは彼を嫌っているわけではない。彼自身以外の彼の全てを愛していた。なので彼女は関係者全員が各々幸福になる夢想をしただけだった。

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