第5話

 ああ、また一日が過ぎてしまった。

 そう思って窓を開けると、これまでのハイテクだった暮らしは、見る影もなくなっていた。

 「原始時代かよ…。」

 いや、至ってそこまで遡ったわけじゃないけど、でも侵略者は消え去るその瞬間に、僕達人間に、と言えるのだろうか、侵略者がもたらした、夢のような文明を捨てさせた。

 でも、車は使えるからエンジンを始動して今日は、妻の所へ行く。

 「やあ。」

 「…お帰り。」

 「うん、ただいま。」

 「帰れたんだね、良かった。」

 「ああ、戻れたんだ。それに、悪かったよ、ずっと苦しめてしまったんだと思うから。」

 「いいのよ、ねえ。私、ずっといろんな人を見てきたけど、立ち直れていない人ばかりで、どうすればいいのって、思った。」

 「そうだね、でも、僕は君と、そして友莉子ゆりこのおかげで、どうにか生き延びれたんじゃないかな。」

 「あ、そうよ。友莉子さんとはいつ会うの?今度一緒にお茶するって、言ったじゃない。」

 「うん、あいつから連絡来てるから、近々って感じ。」

 「そう、楽しみね。」

 「ああ。」

 そして、

 「久しぶり、元気だった?」

 「ああ、お前は?」

 「もう、お前なんて呼び方、奥さんに失礼でしょ?」

 「いいのよ、全然。もう、そんなこと気にしないでよ、笑えちゃうわ。」

 「そうだよ、もう、友莉子お前さ、僕とお前は元夫婦だけど、ビジネスパートナーなんだから。」

 「そうね、私も近々、仲良くしている人がいるの、もしかしたら、紹介できるかも。」

 「あら、良かったじゃない。ぜひ、お願い。」

 「うん。」

 僕は、結婚したんだ。

 だが、ずっと一緒にやって来た元妻である友莉子とはそういう関係にはならなかった。

 侵略者がいなくなり、平和になったのか、そうじゃないのか、よく分からない混沌とした世界で、でも僕と同じように大切な人を侵略者に奪われていたという女性と出会った。

 そして、僕はその人と恋に落ち、夫婦になった。

 友莉子とは、こうやって妻も交えて、たまに一緒にお茶をする。そんな関係を築いていて、そうか、友莉子も近々、結婚するのかもしれない。

 そうか、そうなのか。

 なんか、僕らはずっと大事なものを失っていた。

 でも、それを忘れたままで生きていける程強くは無かった。

 だから、僕は。

 「なあ、何で僕らって、結婚したのかな。」

 「それは…そうね。理由なんて特になかったのかも。ただ、私もあなたも、すごく辛かったじゃない。それで、ただ一緒にいたいって思ったんだと思う。」

 「そうだよな、僕は両親のことを忘れていて、でも死んでいただなんて、怖くて、嫌だったんだ。」

 「………。」

 「悪い、あまりこういう話は、しない方がいいよな。」

 「うん、ごめんね。」

 妻は、侵略者のせいで、夫を失っていた。

 つまり、ある日突然一人きりになっていて、でも今までに夫が存在していたという事実ですら、分からなかったのだ。

 それで、急に仕事を探して、生計を立てて、そうやって苦労を重ねてきた。

 しかも、とても愛していたのだという。

 けど、

 「私、あなたと結婚できて良かった。あのね、夫のこと、忘れてないの、でもそれとは違うのよね、私とあなたの関係は、また、違った存在なの。」

 「うん、それでいいんだよ。難しく考えたって、疲れるだけだから。」

 「そうね…。」

 そう言って、妻は僕の手を握った。

 もう、いい年をした爺さんと婆さんだけど、でも幸せだった。

 「行こう。」

 そう言って、じっと、前を見る。

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