第3話

 「ふふ、私達って若かったし、馬鹿だったね。」

 「そうだね、でも、あれが無かったらきっと、今こうやってお前と一緒にはいないと思う。」

 「そうね、確かにそうかも。」

 「そうだよ、絶対。」

 僕は、年を取った。

 お前も、そうだろ?

 僕と、元妻は一緒に店を大きくしていくことにした。

 最初は、侵略者の目にも止まらなかったのに、次第に存在感を示し始めて無視できなくなったようだ。

 そして、

 「あ、来たよ。」

 「行こう。」

 僕らは、空を飛ぶ乗り物に乗っている。

 夢のようだけど、でも現実だった。

 生きていく限り、苦しいことなど、不便なことなど、あまり無いようになったはずだったのに、僕らはすがるように働き詰めている。

 「なあ、引退しようよ。」

 「もうちょっと経ったらね。」

 「はあ…。」

 僕は、働き続けることに消極的だったから、今すぐにでも店を手放してもいいと思っていたけれど、でも元妻はここを離れたくないというのだ。

 「今日、病院でしょ?」

 「そうだけど、お前も?」

 「私も、そろそろガタが来てるみたい。」

 「僕も、そうだよ。」

 「二人して、いやあね。」

 「ああ。」

 と、ずっと一緒にいるけれど、結婚はしなかった。

 住まいも違う、ビジネスパートナーだ。

 そして、僕らの躍進によって、侵略者から排斥された人たちにも権利が与えられるようになった。それは、何もできることが無かった苦しい時代を過ごした僕らからしたら、とてもありがたいことだった。

 社会は、世界は、侵略者が来てから一変した。

 でも、僕らは生かされた。

 生きているのだ、だから、

 「僕は…店を辞めたい。」

 「え?」

 「お前が続けてくれよ。」

 「どうして?聞いてもいい?」

 「いいさ、僕はこれからお金を稼がない。それで、したいことをするんだ。」

 「…そう、お店のことなら私一人でも大丈夫だし、そう、したいことがあるんだ、すごいじゃない。やってよ、それ。」

 「ああ、分かってる。」

 僕は、この年になって初めて、この女と別れることにした。

 ずっと一緒だったけれど、本当の意味で一つにはならなかった。

 だから、僕は決めたのだ。

 「なあ、僕。あいつらのこと、調べようと思って。」

 「あいつら?」

 「侵略者、奴らのことさ。」

 「…うん。」

 「僕はやっぱり、分からなくて、なんかなあなあとなってるけど、あいつらはいったい、何だ?」

 「それは…。」

 「分からない、僕もそうだ。でも、おかしいと思ってる、だって、あいつらはなぜ、僕らを生かしたのか、そして、まだ、僕らはいつも、あいつらの影を恐れるように、生きている。」

 「そう…ね。」

 「だから、ごめん。」

 「…分かった、分かった。だって、私はいつも、君のこと否定してないでしょ?揉めたこともあったけど、ずっと一緒にやってこれたんだから。」

 「…じゃあ、明日行くから。」

 「うん、大丈夫。」

 そして、僕は一人になった。

 目途は、ついているんだ。


 「コンコン。」

 ドアを、叩く音がする。

 昨日、招待状を送った相手だろう。

 「はい、今行きます。」

 「こんにちは…。」

 ちょっとおどおどしたような感じで、頼りない。白髪の女性がそこに、立っていた。

 「どうぞ。」

 「…お邪魔します。」

 年齢は同じくらい、僕は彼女の目をじっと見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る