1.ロア
木漏れ日が差し込む森の中、木々の隙間を白い影が通り過ぎる。
張り巡らされた木の根の上を、その影はぴょんぴょんと跳ね回る。
一匹のウサギが森を駆けていた。
ふと、ウサギが足を止めた。
前傾姿勢から後ろ足で立ち上がり、木の葉が茂る空に鼻を向ける。
外敵がいないかと、ウサギが辺りの臭いを確認していると―――
瞬間、黒い回転物が飛来する。
その一方には、鋭く砥がれた刃が。
もう一方には、使い込まれた握りが。
それはナイフだった。
無為に回転していたように見えたナイフは、ウサギの首筋に到達したその瞬間、刃を完璧に毛皮へ食い込ませた。
肉を引き裂きながら回転を続けるそれは頸椎に到達してなおその勢いを失わず、ウサギの頭と胴体を切断する。
そうして回転するナイフが通り過ぎた後、そこに残っていたのは、ただの肉だった。
ナイフが血を纏って回転を続け、地面へと近づいていく。
間も無く土にナイフが突き刺さるかと、その瞬間。
「グルルァウ!!!」
辺りに、獣の咆哮が響き渡る。
空気の振動が、木の葉を一枚、揺らす。
そして、そこにナイフはなかった。
そのナイフは、空を飛んでいた。
刺さるはずだった地面の上に、ナイフに付着していた血だけが舞っている。
くるくる、先程と同じ向きに回りながら、進行方向だけを逆にして飛んでいくナイフ。
ナイフが向かう先、咆哮の主が右手を伸ばして待ち構えていた。
伸ばした髪は眩しい橙色。
背中には大きなリュックサック。
腕にはブレーサーを着け、動きやすいよう軽量化された革鎧を着ている。
顔立ちは少し幼く、しかし野生の中で磨かれた鋭さが浮かぶ。
開かれた眼には翡翠のような輝く瞳。
そしてその頭上には、風に揺れる狼の耳。
脚の間から、ゆらゆらと動く尻尾が見える。
総称して"獣人"と呼ばれる生物の一種―――狼系獣人族だった。
「うん、上手い!」
自分に向かって飛んでくるナイフに全く物怖じせず、むしろ掴みにかかりながら彼女は満足げに言葉を発した。
周囲に人はいない。
自分を慰めるための言葉だった。
返ってくる―――否、帰ってくるナイフは、彼女の手を一切傷つけずにすっぽりと収まる。
そう、まるで彼女がナイフを呼び寄せたかのように。
手の中でナイフを回転させながら、彼女は仕留めた獲物に近付いていく。
「晩ご飯だね…ごめん、ありがと。」
――――――
慣れた手つきでウサギの皮を剥ぎながら、彼女はまた独り言を落とした。
「この子にもだいぶ慣れてきたなー。」
空は青さを明日に託し、深い黒で一面を満たしている。
焚火から上がる火の粉が、簡易金網を通り抜けて瞬く星のように上へ上へと昇っていく。
森の中を通る道の端、彼女は今日の寝床をここと定めた。
金網の上に切り分けた肉を並べると、彼女は小さく「ワゥ」と吠えた。
すると、少し遠くに降ろしてあったリュックサックの止口の隙間から、砥石と研磨剤が滑り出てくる。
ひとりでに彼女の手の中に研磨道具が収まると、今度は太股のナイフシースから先程使ったナイフを取り出す。
肉がゆっくりと焼けていく音を聞きながら、彼女は武器のメンテナンスに入った。
焚火の炎が彼女の頬を照らす。
橙色の髪が暖かな光に照らされて、一層美しく輝く。
金網は既に片付けられていた。
食事を終えた後もメンテナンスは続く。
そのナイフの刀身は鏡のように炎の光を反射し、鋼色を淡く染め上げている。
握りには先程までなかったテープが巻かれている。
「ちょっと滑らなさすぎるかな…?」
彼女はそう呟くと、巻かれたテープを剥がした。
納得がいく握り心地になるまで、これを繰り返す。
彼女は武器が好きだった。
――――――
簡易的な寝床から這い出すと、空が明け白んでいく移ろいを見せていた。
慣れた手つきで痕跡を片付け、荷物をリュックサックに詰め込んでいく。
また今日も、彼女の放浪が始まる。
また今日も、一人旅が始まる。
独り旅が。
彼女はそう思った。
そう思っていた。
――――――
太陽が頭上近くに登り詰め、さんさんと降り注ぐ光が身体を暖める。
森の道を東に向かって歩いていると、獣の耳が奇妙な音を察知した。
自然の動物が発する音ではない。布擦れの音、荷物が揺れて金属がぶつかる音、間違いなくヒトが関与している。
そして、話し声。
『…着の身はまあ、見たこたないが、悪くない。』
『しかしよ、こんななんもねえ所で寝てるとかフツーあるか?』
『どっかの懸賞金狩りが張った罠かもしれねえな。』
『…だが、めったに見ない綺麗な顔だ。逃すには惜しい…。』
『そもそもずっとこんな危険な稼業でやってんだ。今さらビビるなんてよ。』
瞬間、駆け出していた。
背負ったリュックサックのホルダーから何本か武器を引き抜き、残りの部分を路傍に放り投げる。
右手に手斧と槍。
左手に直剣。
一人で戦闘を行うには明らかに多すぎる武器の量。
だが、彼女にとっては、彼女に限っては、これで良かった。
獣の視力を以てして、遠目に人間を捉える。
いかにも悪辣な見た目をした男が三人。
そしてその左側、横たわった少女が一人。
乱れては勝てるものも勝てない。
軽く息を吸って、呼吸を整えた。
左手の直剣を振りかぶり、少女から一番遠い男に狙いを定める。
眼の
―――ひゅん、ひゅん、ひゅん。
徐に聞こえ出した風切り音に、男たちは不思議そうな顔を浮かべる。
そして一拍。
「避けろ!!!」
半身になって躱そうとした男は、しかし一瞬間に合わない。
浅い弧を描いて飛来した直剣は、さもその場で振るわれたかのように華麗な軌跡を辿り、剣撃を放つ。
宙を舞う鮮血。
再度一拍を置いて、右腕を肩から失った男が痛みに叫びながら倒れ伏した。
「クソ、やっぱ罠か!」
「相当腕立ちだぜ、こりゃ。全然見えん、遠すぎる。」
倒れた男には目もくれず、剣が飛んできた方向を睨む二人の男。
片方は長剣を、もう片方は弓をそれぞれ取り出す。
倒れた男の方も救いは求めず、苦悶に呻きながらもどうにか肩口を縛ろうとしている。
元からそういう覚悟はあったのだろう。
「どうだ、分かるか?」
「全然。」
いくつかの季節をこの稼業で乗り越えてきた男たちは、経験則…という程でもない、当然の理屈に従って、西側の道の先———剣が飛んできた方向を睨み続ける。
後ろ側など、当然警戒しない。
そもそも脅威の存在があるかどうか不透明な方角を警戒する余裕など男たちにはなく、また何かあれば倒れた男が知らせると踏んでいた。
そして、響く。
「グルルァウ!!!ッガア!!!」
北側、男たちから見て3時の方角。
森の中から、咆哮。
「なんだ!?」
「そっち見てろ!」
見通しが効く方向を弓の男に任せ、剣の男は森を睨む。
人間の戦闘に於いてはあまりにも不自然なその音に、男たちの警戒心がより尖る。
そして警戒する目に生まれる死角、そこからそれは襲い掛かる。
森を睨む剣の男。
背後から、かしゃんと武器の音が聞こえた。
瞬間、音の方向へ振り返ると―――
―――眼前に迫る、刃。
べきょ、という嫌な音が弓の男の耳に入る。
道の先を諦め、剣の男の方向へ矢をつがえたまま振り向く。
地面に落ちていたはずの直剣が、剣の男の顔面に突き刺さっていた。
からん、剣の男の手から剣が落ちて音を立てる。
そして剣の男も、のけぞるように崩れ落ちる。
刺さった直剣は、さも持ち手がいるかのように顔へと押し込まれてゆく。
辺りが鮮血でまた赤く染まる。
直剣はそのまま頭蓋を切り裂き、回転しながら森の方へと飛んでいった。
「ふざけんな。」
あてずっぽうに矢を放ち、そして弓をぶん投げる。
訳の分からない方法で遠くから武器を操るのなら、武器を弾けない武器なぞそもそも話になるまい。
脳を直剣で掻き回された男の足元から、遺品となった剣を拾い上げる。
「来い。」
彼女の手元には武器が二本。
帰ってきた直剣をキャッチせず見送って、そのまま手斧を投擲する。
が、その男は。
「ふッ」
先の咆哮から警戒方向をある程度絞り、反射神経で強引に防ぐ。
飛んできたなにかを地面へ叩きつけるように剣で弾くと、脚と脚の間の地面に手斧が突き刺さった。
そして素早く一歩下がる男。
単に怖気付いたのか、それとも"引き戻し"に気付いており警戒したのか、ともかく彼女は男への警戒心を引き上げる。
「ガアッ!!」
咆えながら、槍を両手に構え突進。
「す…ッと!」
男は槍を逸らして流し、彼女の懐へと這入り込む。
槍のリーチではこの距離で有効打は打てない、と踏んでの攻勢。
その瞬間の判断は、危険に身を晒して生き残ってきた者の勘。
しかし、突き出された槍に添えられた彼女の手は既に左手のみ。
もう片手には先の手斧。
逆袈裟に振り抜いた剣は手斧に阻まれる。
「ンだよそれっ」
刃を滑らせて強引に斬り込もうとするも、彼女は上手く身を引いて距離を取る。
「食ら、えっ」
そして横薙ぎに槍を振り回し、そのままの勢いで槍を横回転させながら投擲する。
「ぐぅっ」
横に広く回転しながら飛来する槍に対して縦に剣を構え受けるも、衝撃を抑えきれずに体勢を崩す男。
「グルァウ!!」
一つ咆えて、彼女が突進する。
右手に手斧一つ構えて―――そして後ろから近付いてくる直剣を背負って。
上段から手斧の振り下ろし。
男はなんとか剣を構えてそれを防ぐ。
次の瞬間、彼女は握り締める手を離した。
手斧がすっぽ抜け、彼女の身体だけが沈み込む。
「もらったッ」
その瞬間に機を見た男は、足元へ沈んだ頭へ向かって強引に剣を振り下ろす。
しかし、身体のバネで戻ってきた彼女の手には、直剣が握られていた。
二者の剣がぶつかり合う。
上段から振られた剣を、下段から斬り上げて防いでいる。
二本の剣の競り合いは、重力を味方につけた男が優勢。
「ッこの、沈め!!」
渾身の力を込めて叩き付けんとする男。
しかし彼女は手首を返し、傾けた刃を滑らせて受け流す。
「ガウッ!!」
そうして抑えを失った力に身を任せ、空中へひらりと跳び上がり、前方宙返りを決める。
そして空中から下方へと振り下ろされるその手には、槍が握られていた。
「ラアッ!!」
「クッ、ソ!」
思いっきり槍を下へ投げ降ろす。
回避をしようと身体を無理やり動かすも、バランスを崩されていた男の体幹は無茶な動きに耐えきれず、そのまま地面へ倒れ込んだ。
ガスッ!
どうにか首を捻り、頭を狙った槍先を間一髪で躱す男。
しかしそのままの勢いで、彼女は男の頭を踏みつけた。
「ぐあ、この野郎っ」
「グァウ!!」
彼女が直剣を呼び戻し、男の首に狙いを定める。
さながら斬首刑の形。
「ああ馬鹿、ついてねぇ…っ。」
男が吐いた悪態は、男の首と共に宙を舞った。
――――――
…起きて、ねえ!大丈夫!?」
狼の少女が倒れていた少女を必死に揺り動かしていると、その少女は目を徐に開けた。
ぼんやりとした瞼の奥で、金色の瞳が彼女を見つめる。
意識を覚ますように、少女は肩程までの黒髪を頭ごと揺らした。
「ん…え…?あな、たは…?」
「気付いた!?よ、良かった…どっか変なところとか、ない?平気?」
「わ、たしは…う、ん。へいき。」
服が乱れていないか、彼女は少女の服をまじまじとチェックする。
黒地に金色の鎖の意匠が入ったフード付きの上着を着ているその少女の服装は珍しい…どころか見たことのないものだったが、幸い特に乱暴をされた様子はなかった。
…しかし、肝心の本人が頬を赤らめている。
「えっと、あ、の…そんな見られると、恥ずかしい…。」
「え、あ、ごっ、ごめんね!」
咄嗟に身を引く狼の少女。
羞恥心はすぐに引いたようで、すぐに鎖の少女は辺りの惨状を見回し始めた。
「これ、は…。っ!?」
開ききっていなかった目に散らばった赤色を映し驚く様子を見せる。
「キミを襲おうとしてたんだよ。こんな所で寝てるから…。」
「寝、て…。」
「そう、寝てたの。危ないよ。どうして一人でこんなところに、それも無防備なカッコでいるの?」
「う、ううん…。」
悩む素振りを見せる鎖の少女。
(やば、ちょっと責めるような口調になっちゃったかも…。)
狼の少女は少し焦ったが、しかし問題はそこではなかった。
「ワタシ、なんで…寝てたの?」
「え?」
「思い出せないの。ぜんぜん。どうして?なに、これ…。」
「どういう…あ、まさか。何も、憶えてない?」
「ワタシ…、ワタシ、どうしてこんなところにいるのか、なにをしようとしてたのか。…どこに住んでたのか、どうやって生きてたのか、わからない…。全部、全部、ぜんぶわかんない……!!」
鎖の少女が、頭を抱える。
記憶喪失。
こんな道端で倒れていた素性の知れない少女が、記憶喪失。
それだけでも厄介極まりない不思議な現象なのだが、しかしもっと不思議なのはその焦りようだった。
「やだ、やだ、なんで?ワタシ、なにも憶えてない!どうしてっ!?」
「わっ、待って、大丈夫!?ちょっと、落ち着いて!深呼吸!ほらっ、手を―――」
「近づかないでっっ!そんなの無理…っ、ワタシ、アナタのことが分からない!!この世界も分からない!!自分も分からない!!なんにも信じられない!!こんな世界知らない、知らない!!!ワタシが、"できる"ことじゃないっっ!!!」
鎖の少女が頭を抱え目を見開いて激しく取り乱す。
正気とはまるで思えない激しい狂乱ぶり。
記憶を失ったという事実は、ここまで人の心を傷付けるものなのか?
それも、トラウマのようにじわじわ苛むでもなく、気付いた直後でここまで?
狼の少女は驚いたが、しかし気にする間も短く、狼耳が捉えた音に意識は向く。
じゃらじゃら、じゃらり。
彼女たち二人の周辺に、白く輝く巨大な"鎖"が生えてきていた。
環っかひとつが頭から腰まである程の巨大な鎖が、地面の輝く穴から伸びている。伸び続けている。
既に伸びきった鎖は荒々しく暴れだし、道と森を分ける木々をいとも簡単に薙ぎ倒していく。
巻き込まれればひとたまりもないだろう。
半分パニックに陥りかけながらも、とにかくどうにか鎖の少女を守ろうとした狼の少女は、気付く。
鎖の少女の服の鎖模様が、"鎖"と同じ色に光っている。
見開かれ潤んだ眼に宿る金色が、白い光に呑み込まれ薄れていく。
自分を守るように身体を抱いているその腕に、鎖が巻き付いていく。
「っキミ、それ…!」
咄嗟に狼の少女は手を伸ばす。
鎖の少女に触れようとしたその手はしかし、鎖の少女の手によって弾かれ、拒絶される。
「触らないでっっ!!!」
圧し潰されそうな苦しみを顔に浮かべながら鎖の少女が再度腕を振ると、腕に纏った鎖が伸び、狼の少女に向かって鞭のように襲い掛かった。
「うわっ、く、このっ」
咆える間もなく、迫る鎖を必死にブレーサーで弾く狼の少女。
荒れ狂う大鎖を相手取るよりはどうにかなるが、しかしそれは腕鎖に打ち勝てるという意味ではない。
鋭く振るわれる鎖が肌を掠り、擦れ痕を残していく。
このままだと。
打開しなきゃ。
狼の少女は焦り、目を泳がせた。
その眼が、不意に鎖の少女のそれと合う。
そして。
狼の少女は、直感で理解した。
これはきっと、彼女の本意じゃない。
溢れ出た感情に流されて、訳も分からずに暴れているのだろう。
少女が鎖の持ち主だ。
なら、逃げても仕方がない。
少女をここに置いていけば、荒れ狂う鎖は主人をその嵐に巻き込んでしまうだろう。
引き連れて逃げたとしても、少女が鎖の元である以上、きっと意味がない。
それに。
あたし、なんだかこの子を、放っておきたくない。
「…ねえ!」
「キミに、憶えていることは本当にないの?」
「ないっ!!ワタシに分かることなんて、なんにも…!!」
あの子の目から、涙がこぼれ落ちる。
「憶えてなきゃいけないのに!!忘れちゃいけないのに!!忘れちゃいけなかったのに!!!ワタシは全部、忘れてる!!!」
八つ当たりするみたいに、あの子は腕を振る。
がむしゃらに飛んでくる腕鎖をどうにか躱して防いで、あたしは声をかけ続ける。
「『忘れちゃいけない』って、言えるんならさ!キミは一番大事なことを憶えてるよ!…『忘れちゃいけない』ってことを憶えてる!」
「…っ!」
「それだけ分かってたらさ、それでいいんだよ!」
あたしは目の前の腕鎖を掴んで、思いっきり引っ張った。
あの子の腕が引っ張られて、体が引っ張られて、あたしの方へ近付いてくる。
「…どうして、それでいいなんてっ、言えるの…?ワタシが、それしか知らないって、ことはっ」
あたしはその子を引き寄せて引き寄せて、そのまま抱き寄せた。
安心させたいなら、抱きしめてあげるのが一番だ。
涙がぼろぼろあふれてて、声も体もすごく震えてる。
なんだか、助けになりたい。そう思った。
「……それさえ分かれば、キミは新しく、なにかを知れるでしょ?」
「…、ぁ。」
「キミは思い出せる。キミは取り戻せる。目指す場所がわかってるんだから。また、立ち上がれるよ。」
「………。」
ちょっとは落ち着いてくれたのか、その子の体の震えがなくなっていくのを肌で感じる。
辺りで暴れてた大鎖も、勢いが弱まってきてるみたい。
腕を緩めると、その子は体を引いて、あたしと眼を合わせた。
その子の眼に、金色が少しずつ、戻ってくる。
「…。どう?もう、平気になった?」
「うん。……ごめんね。」
「いいよ。」
「……アナタの名前、教えてほしい。知らないから、知りたい。」
「あたし?…あたしはね、ロア。」
その子は、あたしの身体に手を伸ばす。
革鎧越しに、手と鎖があたしの胸に触れた。
「ロア、だね。…ロア。憶えたよ。新しく。」
「…うん!良かった!」
「―――今アナタの名前を憶えて、思い出した。思い出せた。アナタのおかげで。名前…ワタシの、名前。」
「ワタシの、名前は———
———リコ《凛心》。」
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