出会いの奇跡

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 世界には、豊かで平和な国がたくさんある。


 けれどこの時代になっても、宇宙に人が飛び出すようになっても、そうではない国がたくさんある。


 私達は、そんな国から飛び出すことができないから、何かの拍子に簡単に死んでしまうのだ。





「どうか幸せになってくれ」


 そういって、私の父と母は死にました。


 もう二度と、二人の料理を食べたり、昔話を聞いたりすることはできません。


「どうか幸せになってね」


 そういって、お師匠様は死にました。


 もう二度と、何かを教えてもらったり、結果をもとめてもらえる事はありません。


「どうか幸せに」


 そういって、恋人は死にました。


 もう二度と、彼と手を繋いだり、抱きしめあったりする事はできません。






 たくさんの人が死にました。


 私の身の回りにある世界では、死はありふれたもの。だから、みんな驚くほどあっけなく死んでしまいます。


 そんな中で、両親にも、師匠にも、恋人にも恵まれた私は、きっと幸せだったのでしょう。


 だから、私は託された祈りと願いを、叶えなければならないのです。


 たくさんの幸せをくれた彼等の為に、生き延びて幸せにならなければならないのです。






 でも、ああごめんなさい。


 どこかで何かが燃えている。


 近くで銃声がひびいている。


 誰かの悲鳴が聞こえてくる。


 誰かの怒声も、家の中まで聞こえてくる。


「どうかあなたは幸せに生きて」


 ごめんなさい皆。


 子供を助けるためなの。


 私が囮になって、助けなければならないの。


 皆が思う様に幸せに生きていけなくてごめんなさい。


「おぎゃあ、おぎゃあ!」


 私は小さなその命を地下の中に隠しました。


 皆が託してくれた命は、私がまた、この子に託すから。


 この愛しい命に出会ってしまったら、自分の命を捨てる事も惜しくはないわ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

出会いの奇跡 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ