第3話 過去

☆(矢口基介)サイド☆


正直を言って俺は何を言っているんだか。

俺自身の事なんぞどうでも良い。

思いながら俺は親。

つまり父親の事を思い出す。

だけどもう離婚しているからどうでも良いけど。


「.....」

『やめて!お父さん!!!!!』


この世界は皮肉ばかりだ。

というか俺が皮肉を作っている様なものか。

思いながら俺はベッドに深く沈み込む。

すると外から歌声が聞こえた。


「.....?」


俺は窓を開けてからベランダに出る。

するとその歌声は横の犬養さん.....もとい。

佐賀富真紀の声だった。

聞き惚れる歌声に俺は暫くボーッと聴いていると「あう」と声がした。

その声の方角を見ると俺を見て真っ赤になっている真紀が。


「.....き、聞いてたんですか?」

「ああ。ビックリするぐらいの透き通る声だな」

「こんなの当たり前の事なので」

「そうか。アイドルだしね」

「そ、そうです」


そして真紀は「すいませんでした。うるさかったですか?」と聞いてくる。

俺はその言葉に首を振る。

それから「うるさくないよ。.....逆に何がうるさいか分からない」と答える。

というかしまった。

歌声に魅了されて口が軽々しくなっている。


「すまん。こっちこそ。歌声に魅了されて口が軽々しくなっている」

「え?.....あ。そうですけど.....全然良いですよ。私は多分貴方と同年齢です」

「真紀は17歳なのか?」

「そうですね。私は17歳ですよ」

「.....そうか。じゃあこれからは敬語をストップするか」

「私は敬語が好きなのでこのまま使いますが。.....そうですね。矢口さんは敬語を使わなくて良いですよ」

「分かった」


それから俺は真紀を見る。

真紀は「そういえばここからの景色は最高ですね。確かに」と俺に言ってくる。

俺は「そうだろ?.....俺は結構好きなんだ」と答えた。

そして黄昏る感じで遠くを見る。


「矢口さん」

「.....何だ?真紀」

「私、高校に行きたいんですけど.....どう思いますか?」

「.....そうだな.....そういう経験をした方が良いと思うけど.....でも何で俺に?」

「それは.....何故でしょうね」

「そうか。分からないなら大丈夫だぞ」


そんな感じで俺達は外を見渡す。

すると「貴方には何でも話せる気がします」と真紀が言った。

俺は驚きながら真紀を見る。

真紀は俺を見ていた。


「.....貴方は普通の人と違う気がするんです」

「まさか。ただの凡人だよ俺は」

「.....でも絵画を描いてらっしゃったって.....賞を取ったって」

「何の役にも立たない薄っぺらいもんだよ。それも」

「.....そうですかね?私はそうは思いません」

「?」


「私は凄い才能だと思います」と俺を真剣な顔で見てくる。

俺はその姿に「!」と浮かべながら真紀を見る。

すると真紀は「私。.....矢口さんは凄い方だって思います」と言葉を発した。

それから俺の目を吸い込む様に見てくる。


「.....才能は活かすべきだと思います。何か嫌な事があったんだとは思います。だけどせっかくあるなら」

「.....君は本当に優しい子だ。感謝だよ。.....だけど俺はもう絵は描けない。描いても描いても後悔しか無いから」

「矢口さん.....」

「でも本当に感謝だ。俺にそう言ってくれて」

「.....私は実直な意見しか言えませんしね」


そう言いながら自嘲して俯く真紀。

俺は「そうか」と返事をしながら空を見上げる。

すると飛行機雲が通っていた。

その様子を眺めながら「入るか」と真紀に告げる。

真紀は「はい」と返事をしてから入ろうとした。

その時だった。


「あ。すいません。矢口さん。実はですね。カレーライスを多く作ってしまいまして」

「.....うん?そうか」

「それで食べてくれませんか」

「え?良いのか?」

「はい。.....誰かに食べてもらって感想を寄せてほしいので」

「そうか。じゃあ取りに.....」


その言葉に「いいえ。私の提案なので私がお届けします」と真紀はニコッとした。

それから「じゃあ待っていて下さい。3分ほどで届けます」と笑顔になった。

俺はその姿にドキッとしながら「あ、ああ」と返事をする。

すると真紀はそのまま鼻歌交じりで室内に入って行った。


「.....いちいち可愛いんだよな。やっぱり究極の相当なファン持ちの美少女だわ」


そんな事を呟きながら俺は室内に入る。

すると2分経った時にインターフォンが鳴った。

それからドアを開けるとそこに真紀が鍋を持って立っていた。


「はいです」

「お、おう。本格的だな」

「そうですね。取り敢えず美味く作るにはやはり鍋とかにもこだわらないとですね」

「.....そうか」

「時に1人ですか?お夕食を食べるの」

「そうだな。俺は1人暮らしだから」

「うーん。成程ですね」


そして考え込む真紀。

それから「その。ならせっかくなのでカレーを温めるのにお部屋に入っても良いですか?」と俺に聞いてくる。

俺は驚愕してから「い、いや。良いよ。汚いし。それに男の部屋だぞ」と答えながら部屋を見る。

真紀は「そうですか?でもいかがわしいものが無ければ大丈夫ですよ?.....親も関係無いですし」とウインクする。

その言葉に可愛く感じながら悩んだ。

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