第85話 天変地異の衝突
「
東仙さんが術式を発動させる。
薄い魔力のベールが生成され、周囲を覆う。
瞬間、毒竜らの勢いが少し弱まる。
こちらに近づくにつれて加速度的に鈍くなり、それでも強引に接近しようとすれば途中で軌道が捻じ曲がる。
まるで同じ極の磁石が反発し合った時のような曲がりようだった。
マジか、大蛇の突進すら難なく退けんのかよ……!!
これが引斥魔術——その片方、遠ざける力の術式か。
驚くのも束の間、東仙さんは続け様に蛇島と毒竜の周囲に魔力の塊を大量に散開させる。
放たれた魔力自体に攻撃性はない。
ただの魔力の塊だ。
だが——、
「
術式の三重——否、四重起動。
刹那、蛇島と毒竜らの身体が一瞬で圧し潰され、引き裂かれ、捻じ切れた。
九つ首の竜とコブラ型の翼龍は原型を留めないほどに四散し、超大型大蛇も頭部と首の大半が消し飛んでいた。
蛇島も毒竜らと同様に四散していたが、
「……ふむ、やはり届きませんか。全く、厄介な術式ですね」
すぐに肉体が再生する。
見るからにノーダメージ、やっぱり無闇に攻撃したところで意味はないようだ。
「そちらこそ。なにせ擦り傷で致命傷になるんですから……!」
「では、その掠り傷をつけられるように尽力するとしましょうか」
言って、蛇島は莫大な毒液を四散した竜たちに送り込み、再生させると同時、
「——ヴェネノ・イニクドゥス」
津波を彷彿とさせるほど巨大な毒の濁流を無尽蔵に発生させる。
具現化された斥力バリアが押し寄せる毒液を跳ね除けるも、復活した毒竜らが攻撃を畳み掛ける。
毒竜らはすぐに散開した引斥力によって破壊されるが、瞬く間に再生して攻撃を再開してみせる。
あまりの人海戦術っぷりに東仙さんの表情が微かに歪んでいた。
「くっ……!!」
——マズいな。
このままでは、均衡を保てるのも時間の問題だろう。
東仙さんと蛇島との魔力総量が違い過ぎるせいだ。
長期戦になったら、まず間違いなくこっちが負ける。
蛇島もそれが分かっているからこそ、このように物量重視で攻めているはず。
だから東仙さんの魔力が尽きる前に、蛇島を仕留めなければならない。
でも、どうやって蛇島の液状化を攻略すればいい……?
氾濫する毒液と三体の毒竜をやり過ごしながら。
それも時間をかけないで、どうやって——。
遠隔斬撃を放てるようにしておきつつ、思考していた時だ。
「
天頼が術式を発動させる。
蛇島のいる地点に岩石が大地を割って噴出し、畳み掛けるように火柱が空高く突き上がる。
岩石と火柱が混ざり合い溶岩となって毒の海を蒸発させた。
「天頼、お前何を……っ!?」
「——ここら辺を毒液ごと丸ごと吹き飛ばす!」
「おい、それって——!」
俺が言い切るよりも早く、天頼は再び同じ術式を二重で放つ。
毒竜がいるそれぞれの地点に擬似的な噴火が起き、氾濫していた毒の海が溶岩に侵食されていく。
異常を察知した蛇島は、すぐに溶岩を食い止めようと毒の濁流と大蛇をぶつけて消火を試みるが、東仙さんの生み出していた引斥力に阻止される。
そして、一帯がマグマの海と変貌したところで、
「
斥力バリアの内側に水の防御壁を展開し、
「
目の前に生成した水球から龍を呼び出した。
前に見た時は一匹の巨大な龍だったが、今回は複数体に分裂している。
斥力バリアを通り過ぎた瞬間、水の龍達は、打ち出されるようにしてぐんと速度を上げる。
分裂させたのは、東仙さんが生み出している引斥空間にバラバラにされない為。
それから生み出したマグマの海それぞれに水の龍をピンポイントでぶつける為。
——全部吹っ飛ばすって、やっぱそういうことだよな……!!
予感が確信に変わる中、水の龍がマグマに激突する。
刹那——水蒸気爆発による凄まじい爆炎と衝撃波が階層全体を飲み込んだ。
轟音と共に大地が激しく揺れる。
あまりの熱量に毒の竜が三体とも蒸発し、一帯に氾濫していた毒の海が一瞬間で干涸び、更地と化した。
「相変わらず滅茶苦茶な威力だな、おい……!!」
「ただ黙って見てるわけにはいかないから。でも——」
「……ああ、またすぐに元通りになるな」
当然、天頼の火力は申し分ない。
なんなら以前よりも爆発の規模も破壊力も大幅に上回っているくらいだ。
ただ、それ以上に蛇島の再生能力が脅威的だった。
こうしている間にも蛇島の肉体は再生し、毒竜らもたちまち復活する。
蒸発した毒液も新たにどんどん溢れ出していた。
「ちっ、キリがねえ……!」
それでも追撃をかけるべきか。
数瞬、悩んてから打刀を振るおうとして、
「——ここは、僕が受け持つ。その間に君達は、凝魔結晶を破壊してくれ」
東仙さんに制止させられた。
「なっ……!? それじゃあ、蛇島を倒せない——」
「僕らが最優先するべきは凝魔結晶の破壊だ」
……そうだ。
俺らがここまでやって来たのは、蛇島の凶行もそうだが、何よりもこの大災害を止める為だ。
そこは履き違えてはならない。
今は私情を捨てろ。
俺個人の感情で被害を拡大させるな。
拳を強く、強く握り締める。
——胸の奥から湧き上がる怨讐の火炎を抑え込む。
「……うす」
「うん、それでいい」
ふっと笑うと、東仙さんは俺と天頼に指先でそっと触れた。
「——游」
発動したのは、対象を浮遊させる術式。
さっきの高速移動の際に使っていた術式だ。
そして、
「頼んだよ、二人とも——撥」
俺と天頼を階層の奥へと弾き飛ばした。
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