第77話 刹那のフリーフォール
「
降下開始と同時、阿南さんが大盾を構え、スキルを発動——受けたダメージを衝撃波に変換して自動で反撃する障壁が展開する。
グランザハークの魔力ブレスを真っ向から受け止められる耐久を誇る障壁だ。
有象無象であるモンスターの大群を突っ込むくらい造作ないことだろう。
……でも、わざわざ拡張させたスキルを使うんだ?
障壁を展開する時間は、せいぜい十数秒程度のはず。
だったら、強化した障壁で十分のはずだ。
疑問に思うも、
「
傍らで東仙さんが術式を起動する。
刹那、視界が一転——、
「……は?」
周囲の景色が上空から地上へと切り替わっていた。
凄まじい轟音と一帯を飲み込む程の強烈な衝撃波と共に。
「今……何が、起こった……!」
少し遅れてふわりと地面に着地してから、俺は目を見開く。
瞬間移動……いや、辛うじてだけど風景が移り変わるのは確認できた。
となると、超が付くほどの高速移動……なのか。
でも、落下してる感覚なんて無かったぞ……!
あまりの展開に困惑を隠せずにいると、
「僕の術式で落ちる時間を短縮させてもらったよ」
東仙さんが答えをくれる。
「これが、引斥魔術……!」
——組合筆頭の術式か……!!
数百メートル単位で六人一斉に高速移動させるとか出鱈目過ぎるだろ。
……とはいえ、だ。
今の技術は、いつでも使えるってわけじゃない気がする。
というのも、生身でやろうとすると恐らく、衝突した際の衝撃に身体が保たないからだ。
認識するのもやっとな程の高速移動だ。
いくら身体強化で肉体の強度を上げていたとしても、激突した瞬間に肉片となるだろう。
一応、東仙さん一人だけならどうとでもなるかもだけど、流石に六人同時というのは無理があると思われる。
そこで、阿南さんがスキルを発動させた。
障壁を張ることで、高速移動中にモンスターと直に衝突するのを避け、加えて地面に激突した際に生まれる衝撃を肩代わりしてくれていた。
——いや寧ろ、これが本命だったのかもしれないな。
だからこそ、カウンター性能を持つ反讐硬壁を発動させたのだろう。
スキル拡張——。
性能の解釈を発展、飛躍させることで、本来以上の能力を引き出す高等技術。
敢えて高速移動で地面に激突することで、衝突のエネルギーを衝撃波に変換して周囲に発散させた。
おかげで周囲に出現していたモンスターは悉くが肉片と四散していた。
「ありがとう、阿南。おかげで無茶が通せたよ」
「礼はいい。それよりも、また新たなモンスターが出現する前にダンジョンに入るぞ。ここからが本番だ。全員、気を引き締めてかかれよ」
周りを警戒しながら阿南さんは、入り口へと歩き出す。
呼応するように、全員の集中と警戒が高まる。
征士郎さんが阿南さんの隣に付き、その後ろを天頼と春川さんが追う。
いつでも遠隔斬撃を放てるように刀に魔力を籠めつつ、俺は東仙と一緒に最後尾に付く。
自然と当初に考案していた隊列の並びとなっていた。
夜空のダンジョン。
月夜に照らされた広大な平原が広がるダンジョン。
しかし、眼前に広がる光景はというと、至る所に毒沼が溢れる——死の大地と化していた。
「なんだよ、これ……! なんで、こんなに変わってるんだよ!?」
先導する阿南さんと征士郎さんを追いかけながら、俺は思わず叫ぶ。
以前、ネットに上がっている画像やダンジョン配信で見た風景とは、あまりにもかけ離れていた。
「まず十中八九、蛇島さんの仕業だろうね。多分、僕らの足を鈍らせて突破を遅らせるのが狙いじゃないかな」
「だとしても、階層一帯を毒沼にさせる魔力なんてどこに——っ!?」
言いながら、ふと気づく。
「まさか、行方不明になってた冒険者達から奪った魔力で賄ったのか……!!」
「恐らくはね。きっと、鬼垣が凝魔結晶を生み出す為に使った魔力も彼らから搾取したものだ」
眉間に皺を寄せ、東仙さんは首肯した。
「そうじゃなきゃ、あれほど巨大な凝魔結晶を作り出せたことに説明がつかない」
厳堂旧研究所の地下に収容されていた冒険者達だが、未だ誰一人として意識を取り戻していない。
二十四時間体制で魔力を搾り取られていただけでなく、強制的に魔力の生成量を増幅させる薬を投与されたからだという。
その後遺症で身体が大分衰弱してしまっているらしい。
まだ実力が伴っていなかっただけで、元々の魔力量は一級品だった彼らから長期間に渡って魔力を奪えばこうなっても不思議ではない。
けど、八十層以上も毒沼で溢れさせるだけの魔力量を彼らから奪った魔力だけで補えるのか……?
いや、余計なことを考えるのは後だ。
今は一刻も早く八十七層に辿り着いて、凝魔結晶を破壊する。
それから、この地獄を生み出した蛇島を——殺す。
俺がこの手で、必ず。
密かに決意を改め、階層を駆け抜ける。
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