第78話 属性使い殺しの巣窟
蛇島がダンジョン内の環境を変えた目的は、すぐに察することができた。
「チッ、そういうことかよ……!!」
当たり前のことだが、毒沼は過酷な環境だ。
俺らにとって有害なように、ダンジョン内に生息するモンスターも生き残るのは厳しいだろう。
事実、毒に耐性を持たないモンスターは、次々と毒に蝕まれ命を落としていた。
しかし、だからこそ頭角を現すモンスターが出てくる。
たとえ死の大地であってもしぶとく生き残れる高い環境適応能力を持ち、それでいて冒険者の脅威となるモンスターが。
その最たる例が——、
「っ!」
——遠隔斬撃を起動。
斬りつけた地面を伝播して、斬撃が対象へ向かって飛んでいく。
そして、前方百数十メートル先。
俺らの進路に立ち塞がる黒い巨大スライム——ダークネスカオスジャンボスライムの核に放った斬撃が発生し、瞬く間に肉体を崩壊させてみせた。
その光景を目の当たりにした東仙さんは、
「……凄いな。ジャンボ個体のダークネスカオススライムを一太刀で仕留めるとは」
「俺からしてみれば奴はカモなんで。けど……」
「うん、前の二人にとってはかなりキツい相手ではあるね」
言って、天頼と春川さんに視線をやった。
恐らく、蛇島がダンジョンを毒沼だらけの環境に変貌させたのは、ダークネスカオススライム、ならびにそのスフィア種を大量に発生させる為だ。
属性使い殺し——俺にとっては雑魚同然だが、属性魔術の使い手である二人にとっては天敵も天敵だ。
奴らが蔓延るだけで、攻撃手段の殆どを封じられてしまう。
おまけに強酸性の溶解液で身体を構成しているせいで、不用意に接近するわけにもいかない。
「蛇島さんの狙いは二つ。春川さんの封殺、それと——僕の消耗だ」
「東仙さんの消耗……ですか?」
「ダークネスカオススライムを倒すには、属性に関係しない術式や溶解液をものともしない飛び道具を使う必要がある。そうなると、必然的に僕が戦わなければならなくなる」
「なるほど」
征士郎さんならどうにかなるかもだけど、毎回槍を投げて対処するとなると、他のモンスターが攻め入る隙を作りかねない。
ダンジョン内に出現しているモンスターは、スライム以外にもたくさん——それもS級に区分されている奴らもちらほら——いるし、そいつらの相手は征士郎さんが現在進行形で受け持っている。
そんな状態で征士郎さんの負担を増やそうものなら、途中で体力が限界を迎える危険性がある。
つまり、スライムとスフィアを相手できるのは、東仙さんしかいないわけだ。
——でも、裏を返せば、それほど春川さんが警戒されている証でもある。
属性魔術は、威力と範囲共に優れた術式だ。
もし存分に力を発揮されようものなら、簡単に自身の元まで辿り着かれるだろう。
だからこそ、属性術使い対策にダークネスカオススライム系統が湧いてきやすいように環境を作り変えた。
仮に来なかったとしても、厄介な相手であることには変わりないしな。
そう思うと、自分で言うのはなんだが……付いてきて正解だった。
おかげで東仙さんと春川さん、それと天頼の負担をグッと減らせるのだから。
隊列を離れると同時、打刀を鞘に納める。
進行方向上にダークネスカオスジャンボスフィアが出現したからだ。
魔力を鞘口辺りにに生成、圧縮し、狙いをスフィアに定める。
瞬間、鞘から刀を引き抜き、遠隔斬撃を宿らせた圧縮魔力をスフィアに向けて射出する。
放たれた圧縮魔力がスフィアにぶつかると、その瞬間に発生した遠隔斬撃が核を両断してみせた。
「……なんとかなったか」
小さく安堵の息を溢しつつ、すぐに隊列へと戻る。
すると、東仙さんが興味深そうに、
「——飛ぶ斬撃、か」
「そうっす。とは言っても、擬似的なものですけど」
「知ってるよ。生成した圧縮魔力に遠隔斬撃を宿らせ、射出する——昔、岩代さんが同じことをやって見せたから」
「っ、親父が……!?」
「うん。僕と阿南がまだ新人だった頃にね。ついでに原理も教えてもらったよ」
東仙さんは、懐かしむように目を細める。
「遠隔斬撃は基本、地面を這ってしか斬撃を飛ばすことができない。だから、圧縮した魔力に斬撃を宿らせ、それを射出することで空中にいる相手にも攻撃を届かせるようにした」
「……その通りっす」
マジで俺がやってることそのまんまだな。
……そうか、親父も俺と同じ壁にぶち当たってたのか。
「——だけど、飛ぶ斬撃はスキルの応用であって拡張ではない。実践した後、岩代さんはそう言っていたよ」
「なっ、それってどういう……!?」
「言葉の通りだよ。拡張したスキルは、本来の性能よりも次元が一つ変わる。阿南の強化障壁にカウンター機能が付いたようにね。そして、岩代さんは性能を拡張させた遠隔斬撃を実践してみせた」
「……どんなだったんですか?」
「——次元が違ったよ、本当に。必殺の斬撃に大化けした。正直言って、あれを繰り出されたら、今の僕でも防げないかな。まさに不可避の一太刀だよ」
マジかよ……!
組合筆頭ですら防げないって、イカれすぎだろ……!!
「……って、今こんな状況で話すようなことじゃなかったね」
「いえ、気にしないでください」
寧ろ、教えてくれたことに感謝したいくらいだ。
俺のスキルには、まだ成長の余地があることが分かったのだから。
「——とりあえず、急ごうか」
「っす……!」
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