第52話 事務所本来のお仕事
——ボスと阿南さんの話を要約すると、だ。
ここ一ヶ月——特にここ一週間に集中して——の間に十六人の新米、若手冒険者がダンジョンに入ったきり戻って来てないという。
ダンジョンの出入り口に設置してあるゲートに帰還したログが残ってない事からして、その情報に間違いはないだろう。
暫く前から事態を把握していた冒険者組合は、直属の冒険者を派遣して捜索活動を行っているものの、未だ一人も発見できずに現在に至るという。
不審な点を挙げるとすれば、失踪した冒険者はいずれもソロで潜っていたEランク以下の冒険者ということ、それから複数のダンジョンで同じ事象が発生しているということか。
現状確認できる限りでも、既に都内八つのダンジョンで失踪者が出たとの報告が上がっているとのことだ。
「——なるほど、それでボスのところに話が来たってわけっすね」
「そう言う事だ。だが、クロと茜が別の依頼で県外にいるからどうしたものかと悩んでいたところだ」
龍谷迷宮探索事務所は、配信者をサポートする為の事務所ではない。
本来の業務は、ダンジョンに関するあらゆる依頼を引き受けて探索を行う、謂わばダンジョン専門の何でも屋だ。
天頼と上屋敷は、ただ事務所の看板を借りて個人活動をしているに過ぎない。
じゃあ、本来の仕事は誰がやってるのかというと、さっきからちらっと名前に出てるクロと茜という人物だ。
源田
この二人が事務所の正式な調査員で、ボスのところに来る依頼を受け持っているらしい。
存在自体は聞かされているが、まだ面識はない。
丁度、俺と入れ違うような形で県外の冒険者組合の依頼を受けて、最近になって新たに出現したダンジョンの調査しに遠征に出ているからだ。
そんな先輩方二人が帰ってくるのは、もうちょっと先のことだという。
だからこそこうしてボスが頭を悩ます羽目になっているわけだ。
「にしても、そう立て続けにポンポン失踪なんてするもんなんですかね? 普通、目撃者とかいてもおかしくないと思うんすけど……。しかも、アウトブレイクが終わってから件数が増えてるって——」
「ああ、冒険者組合としても事故ではなく、事件性が高いと睨んでいる。とはいえ、何が原因で失踪しているのか、その手がかりすら掴めていないのが現状でな。上層を中心に調査を進めてはいるが、恥ずかしながら進捗は皆無に近い」
阿南さんは肩を竦めて言う。
組合がお手上げ状態ってことは、マジで難航してそうだな。
(……新人冒険者の失踪、か)
始めて冒険者の失踪が発生したのが一ヶ月弱前。
俺が転移罠に引っ掛かって下層に飛ばされたのと時期が被る。
——偶然か、これは?
いや、今の話を聞いてると偶然の一言で片付けるのは尚早な気がする。
あの時、俺の他にも同じタイミングで転移罠で飛ばされた冒険者がいたし、その翌日にも似たような状況に遭った新人冒険者が二人もいる。
もし俺やその冒険者らが一連の失踪事件と関係していたとしたら、捜査の手がかりになるか……?
——とりあえず言うだけ言ってみよう。
「あの……阿南さん、ちょっといいですか?」
「ん、どうした」
「多分っすけど、失踪の原因は転移罠じゃないかと」
「転移罠だと?」
首肯して俺は続ける。
「結構前のことなんですけど、転移罠で下層に飛ばされちゃったんですよね。そんで同じくらいのタイミングで別の新人冒険者も同じ階層にいて、多分同じく転移罠によるものじゃないかと思ってるんすけど……天頼、その時のこと覚えてるか?」
「……あーっ!! そういえば、そうだ! あの子も転移罠で下層に飛ばされてたって言ってた!!」
「しかも、その次の日にも別のダンジョンでも同じ状況に遭った冒険者が二人もいたから、失踪のきっかけの一つには転移罠が絡んでるんじゃないかと。ただ、飛ばされた後に関してはさっぱりっすけど」
すると、阿南さんは暫し黙り込んだ後、
「なるほど……転移罠か。確かにそれなら上層に居ても人知れず失踪する原因になるか。普通に考えれば、転移罠の仕業とするには無理があるが、人為的に引き起こされたものであれば、その可能性は十分に有り得る」
「ふむ。そうなると人工で罠を設置できる人間……もしくは、組織がいるかもしれないということか。となるとやはり、今やっている依頼を中断して、一度クロと茜を呼び戻した方がいいか……?」
「そうしてくれると我々としては助かります。このまま対処が遅れるともっと多くの冒険者が被害に遭う可能性が高いですし。話の途中で申し訳ないですが、私はこれで失礼します。まずは、この情報を捜索チーム内で共有して被害の拡大を食い止めるのに努めます」
捲し立てるように言うと、阿南さんは「では」と一礼して足早に去って行った。
「……あ、行っちゃった」
またスキル拡張について聞きそびれた。
この話に一区切りがついたら色々質問しようと思ってたのに。
……まあ、いいや。また次の機会に聞こう。
ボスと知り合いみたいだから、頼めば話を聞く場を設けてるかもしんないし。
それよりも、気にすべきなのは——、
天頼にちらりと視線をやれば、向こうも俺を確かめるような視線を向けていた。
なるほど、考えていることは一緒か。
俺と天頼は示す合わすようにして互いに頷くと、ボスに向けて声を揃えて言う。
「「ボス、ちょっといいっすか(ですか)?」」
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