第51話 組合筆頭

 表彰式を執り行う部屋は、広めの会議室のような場所だった。

 室内にはカメラが回っていて、記者らしき人間もちらほらと見受けられる。


「うげっ、メディアも来てんのかよ……!」


「当たり前でしょ。だって民間に被害が出る前に災害食い止めた人達の表彰をするんだから。それに戦功者は一般公表もしてるわけだし」


「……ああ、それもそうか」


 最初はショート寸前のロボットみたいになってたが、移動している間に冷静さを取り戻しており、いつものテンションに戻っている。

 いや、それどころか——、


「むふふ、りおんちゃんと念願のコラボ……!! やった、やったよアシスタントくん! 配信活動をやる上での目標が一つ叶ったよ……!!」


「おお……良かったな」


 なんか逆にテンション上がりまくって、また別方向にバグり出してやがる。

 まあでも会話が成り立つだけこっちの方がマシか。


(それにしても——)


「学校の音楽室みたく壁に写真が掛けられてると落ち着かねえな」


「あの人達って確か……冒険者組合に直接所属していた歴代の冒険者なんだっけ?」


「ああ。んで、その中でも当時一番強かった冒険者——所謂”組合筆頭”だな。ほら、あそこに東仙さんの写真あんだろ」


「……あ、ホントだ」


 一番端っこの写真を指差し、隣の写真も否応なく視界に映る。

 精悍な顔つきをした燻ったような銀髪の冒険者。


 ——ほんの少しだけ心に靄がかかる。


「あれ、東仙さんの隣の人……どっかで見たことあるような。うーん……名前なんていったっけ?」


「——岩代銀仁、十年前に死んだ先代の組合筆頭だ」


 答えた途端、天頼の表情が僅かに翳りを見せる。

 恐らく大災害が脳裏に過ったからだろう。


 ……まあ、正解なんだけど。


「ったく……最強が死んじまってどうすんだよ」


「……アシスタントくん、何か言った?」


「いや、なんも。それよりカメラの前だと暫く黙るから、何かあったらフォロー頼んでもいいか?」


「うん、いいけど」


 天頼は頷くと、訝しむように岩代銀仁と俺を交互に見つめた。






 *   *   *






 表彰式は特に何事もなく終了した。

 会場を出ようとした時に記者の人らに質問攻めされそうにはなったが。

 けど、その場に居合わせていた組合職員の人らや天頼が上手く助け舟を出してくれたおかげで、どうにか事なきを得た。


 ちなみにSランク冒険者三人は、依然インタビュー中だ。

 見た感じ抜け出すのにもう少し時間がかかるだろうな。


「あ゛ー、疲れた。記者の奴ら、どうにかこうにか俺を喋らそうとしてきたな」


「仕方ないよ。きみが喋るだけでちょっとした記事になるんだから」


「それで記事が作れるとか世も末だろ……」


 人気配信者のって枕詞がついていたとしても、たかがアシスタントだぞ。

 そんなのに需要があるとか有り得ねえだろ。


 ……いや、あれか。

 少しでも売れる可能性があるならやるだけやっとけ的なあれか。

 その気持ちは分からんでもないが、完全に選択ミスだぞ、それ。


 こうなるなら、スケッチブックとペン持ってくれば良かったな。


 今更ながらそんなことを思っていた時だ。

 通路の端でボスと阿南さんが何やら険しい表情で話し込んでいた。


「——十六人、か。しかもダンジョンは別々。確かに迅速に対処しないといけなさそうな案件だな」


「ええ、我々としても調査は進めていますが、思うように進んでおらず……どうか、龍谷さんのお力を貸して頂きたいのですが」


「そうしたいのはやまやまだが……生憎、クロも茜も県外に行っていて、もう暫く帰ってきそうになくてな」


 ……十六人?

 それにクロと茜って確か——、


「ボス、何の話してるんですか?」


「お前ら、戻ったか。……マサ、話していいか?」


「構いませんよ。他でもない龍谷さんのところの冒険者ですから」


 ボスと阿南さんって顔見知りだったのか。

 ちょっと意外ではあったけど、ボスは元々冒険者組合にいたって話だし、驚くようなことでもないか。


「うす。阿南さん、お久し振りです」


「SAか。ああ、防衛戦以来だな。遅れてしまったが、S級戦功おめでとう」


「あざます。阿南さんが協力してくれたおかげっす。阿南さんもA級戦功おめでとうございます」


 ありがとう、短く応えて阿南さんは天頼に視線を移す。


「四葉ちゃんも久し振りだな。元気にしていたか?」


「はい! それとこの前はありがとうございました。私とアシスタントくんを守ってくれたみたいで」


「気にするな。誰かを盾となって守るのが私の役目だからな。当然のことをしたまでだ」


「……あれ、二人とも知り合いだったの?」


 思わず訊ねる。

 だって阿南さん防衛戦の時、天頼のことめっちゃ他人行儀な呼び方してたじゃん。


「あれは公私を分けていただけだ。この子の事は、幼い頃から知っているよ。何せ、龍谷さんが十年前の大災害の中から助け出した子だからね」


「え、マジ?」


「あれ、言ってなかったっけ?」


「普通に初耳です」


 両親を亡くしたって話は聞いてたけど。

 ……あ、だからボスがいる前で昔のことを打ち明けたり、配信事務所でもないボスのとこに所属してんのか。


 色々と点が繋がっていく。


「——それでボス、さっき阿南さんと何を話してたんですか?」


 閑話休題。

 天頼がボスに訊ねると、ボスはゆっくりと口を開く。


「……最近、複数のダンジョンに渡って失踪者が相次いでいる」


「失踪、っすか?」


「ああ。原因は未だ掴めていないが、Eランク以下の冒険者がダンジョンに入ったきり戻って来ていない報告が何件も上がっているようだ」


 Eランク以下……ってことは、新人か若手ばっかってことか。

 

 ……なんか、嫌な思い出が蘇るな。

 森のダンジョンで上層から下層に転移させられたあの日のことが。


 その時の記憶が脳裏を過り、俺は小さく嘆息を吐いた。

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