第50話 憧れの
立て続けのSランク冒険者の登場に、周囲の視線が春川りおんへと向けられる。
しかし、それを全く意に介することなく彼女は、部屋の中を進んでいく。
うわ……改めて間近で見ると、オーラ凄えな。
それに十八と俺らと大して歳変わんねえのに、めっちゃ大人びているし。
——春川りおん。
登録者百二十万人——いや、この前のアウトブレイクの一件で一気に人数を増やしたから、今は百四十万だったか——を誇る超人気配信者。
光属性と闇属性の術式を操る”二天魔術”の使い手であり、戦い方としては天頼とかなり似通っていて、強大な魔力に物を言わせてスキルでゴリ押すタイプだ。
多分、天頼が順当に成長した先にいるのが彼女なのだろう。
考えていると、ふいに春川りおんの足が止まり、ゆっくりと俺達に視線が向けられる。
そのまま柔和な笑みを浮かべながら、軽やかな足取りでこちらに歩み寄ってくる。
「——天頼四葉ちゃんとSAくん、だよね? はじめまして、春川りおんっていいます」
「っす、こちらこそはじめまして——」
「は、はじめまして、天頼四葉です!! お会いできて光栄です……!!」
若干、裏返った声で天頼は勢いよく頭を下げた。
ほんのりと頬が赤くなり、傍目でもガチガチに緊張しているのが窺える。
——天頼がこんなになるの珍しいな。
なんつーか、恋焦がれる少女……違うな、最推しを目の前にした強火オタみたいな顔してやがる。
少なくとも、初めて見る表情であることは確かだ。
「そんなに畏まらなくてもいいよ。もっと気楽に、ね?」
「え、えっと、あの……そ、そういうわけには……!!」
「ふふ、気にしなくても大丈夫だよ。私も前々から君と……四葉ちゃんとは仲良くしたいなって思ってたから」
言いながら春川りおんは、優しく天頼の手を取って、
「だから……もうちょっと肩の力を抜いて欲しいな」
「は、はい……っ!」
うわ、すっげ……何、この魔性。
それにホストかって思うくらい距離の詰め方エグいな。
天頼、めっちゃ蕩けた顔してんじゃん。
顔立ちも中性的だし、ちょっと男装すればそこらのイケメンよりも確実に女性を口説き落とせるぞ。
少なくとも俺の数十倍はモテるだろうなあ……。
内心、苦笑していると、春川りおんが俺に顔だけ向けて、
「安心して。君の相棒を取ったりしないよ。私にそういった趣味はないから」
「あ、うす」
じゃあ、天然の魔性ってことか……?
だとすれば、余計にタチ悪いじゃねえか。
「——それと、誰にでもやるわけじゃないからね」
「……あの、サラッと心読まないでくれません? 正直、ちょっと怖いっす」
こちとら顔隠してるんだぞ。
なのに、なんでわかんだよ。
ちょっと引いてしまう。
しかし、それすらも見透かしたように春川りおんは、無言のまま微笑んでいた。
それから、ようやく平常心を取り戻してきた天頼が意を決したように口を開く。
「あ、あの……私、ずっとりおんちゃんのファンで、りおんちゃんに憧れて配信者になったんです……!!」
へえ、そうだったのか。
今初めて知った。
……ああ、だからやけに春川りおんの事を意識していたのか。
「そうだったんだ。君ほどの冒険者にそう言ってもらえるなんて嬉しいな。配信者冥利に尽きるよ」
「いえ、私の方こそこうしてお話しさせて貰える機会を貰えて嬉しいです! そ、それで……その、りおんちゃんが良ければなんですけど……今度、お時間が合う時にコラボとかさせて貰ったりとか、出来ます……か?」
「ん、コラボ……?」
おいおい、随分と唐突に吹っ掛けるな。
いくらなんでも慌て過ぎだぞ。
春川りおんも首傾げてるじゃねえか。
「あっ! ごめんなさい! 会っていきなりコラボしてくれって烏滸がましいですよね! 大丈夫です、今の聞かなかったことに——」
「——いいよ」
「……へ?」
「やろっか、コラボ配信。さっきも言ったけど、私も四葉ちゃんと仲良くしたいと思っていたから。それに……噂のSAくんの戦い振りを間近で見てみたいし」
おお……マジかい。
まさかの承諾貰っちゃったよ。
きょとんとする天頼をよそに、春川りおんは、
「それじゃあ、早速だけど細かいスケジュールを詰めようか。私はいつでも大丈夫だけど、四葉ちゃんはいつ頃空いている?」
「あ、その、えっと——」
逆にぐいぐいと来られて、天頼がたじたじになった時だった。
「全員、揃っているな」
部屋の入り口から聞き覚えのある低い声。
阿南さんが部屋に入って来ていた。
その後ろには、東仙慶次をはじめとした組合直属の冒険者達の姿もあった。
全員、制服姿だからか警察とか海上保安庁みたいな役人っぽさがあるな。
つっても、確か冒険者組合って公的機関じゃなくて財団法人とかそんなだった気がするけど。
「冒険者の皆、今日はわざわざここ組合本部まで集まってくれて感謝する。これより表彰式を執り行うので、別室に移動して欲しい」
「……残念、コラボの話は一旦お預けか」
「っすね。ま、天頼に少し考える時間が出来て丁度いいんじゃないですか?」
「そうだね。じゃあ、移動しようか。続きはその後で」
言って、春川りおんは阿南さん達を追って待機部屋を後にする。
「だってよ。行くぞ、天頼」
声をかけるも、
「……えっ、あ、うん」
どこか気の抜けた返事が返ってくるだけだったので、
「——ほら、行くぞ」
背中をポンと叩いてから、皆んなの後をついていくことにした。
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