第53話 徒労の情報収集
事務所に戻る途中、ボスに頼んで森のダンジョンの近くに降ろしてもらい、そのままダンジョン内に足を踏み入れることにした。
目的地は第三層。
以前、俺が転移罠を踏んでしまった場所だ。
(何だっていい、ちょっとした情報でも手に入れば……)
つっても、転移事件に巻き込まれたのはかなり前の事だから、その時の痕跡はもう残ってないだろうけど。
結果は大体見えているが、念の為一通り調べてみたところ——、
「……ま、やっぱなんもねえよな。無駄足だったか」
「そうだね〜。寧ろ痕跡が残ってる方が不自然なくらいだし」
周囲の魔力反応を探りながら天頼は答える。
天頼が見つけられないってことは、俺が見落としたってこともまずないだろう。
「というか……天頼まで付いてこなくて良かったのに。こうなるなのは分かりきってたわけだし」
「そういう訳にはいかないよ。話に首突っ込んだのは、私もなんだからさ」
「……まあ、そうだけど」
組合本部で俺と天頼がボスに頼み込んだこと。
それは、冒険者失踪事件の捜査への参加だ。
冒険者組合で人手が足りない、事務所も先輩方が出払ってしまっている。
けど、早く捜査を進めないとまた新たな犠牲者が出るかも知れない。
となれば、俺も天頼も捜査に加わった方が事件解決に繋がるかもしれない……そんんな考えが合致した結果、今に至るってわけだ。
——俺らが捜査に乗り出したところで、大した影響はないかもだけど。
俺も天頼もこういうことは完全など素人なわけだし。
まあでも、俺個人としては成果を挙げられるかどうかは二の次だ。
もし俺が転移罠を踏んでしまったことと一連の事件が関連しているのであれば、危うく俺は被害者Aになっていたかもしれない。
そう思うと、だ。
……単純にムカつかね?
話を聞いてしまったからには、被害者を出したくないって気持ちは確かにあるし、多少の正義感は働いていると思う。
でもそれ以上に、人為的に引き起こされているのであれば、その張本人を見つけ出してぶん殴ってやりたいって感情が一番デカい。
だから、要するに——私怨だ。
私怨を晴らすためにボスに協力を申し出たわけだ。
あんま人に褒められた理由じゃないのは重々自覚しているつもりだ。
ただ、それでもムカつくもんはムカつく。
ぜってえ見つけ出してきっちりお礼参りをした上で、組合やら警察に突き出してやるからな……!!
思っていると、
「それにしても……剣城くん、よくこんな場所で戦ってたね。周り木と茂みばっかりだよ」
周りを見渡しながら天頼は、苦笑を浮かべて言う。
「物陰に身を隠して戦うのは、前に動画を撮ったから知ってはいたけど、えっと……ここまでがっつりやってたんだ」
「あの、ドン引かないでくれます? あの頃は結構マジで必死だったんだぞ」
それこそ掩蔽と補足の技術を鍛えることに全力を注ぐくらいには。
じゃなきゃ、ナイフ一本だけで五体無事に下層から脱出できないって。
お前と組むようになってからは、殆どその頃の技術を使う機会が無くなったけど。
一つ、ため息を溢す。
……まあ、それはいいとして。
「もしかして、失踪した他の冒険者も俺と似たような感じだったのか……?」
「と、言うと?」
「俺と同じで、こんな感じの人目に付かないような場所にいたのかってこと。じゃなきゃ、一件くらい目撃情報があってもいいはずだろ」
「言われてみれば確かに。でも、そうじゃないってことは……剣城くんほどじゃないにしても、皆んなあまり人が多くないところにいた可能性が高いってことだね」
「そういうこと。普段からそういうタイプだったのか、偶然そうなった瞬間を狙われたのかは分からないけどな」
失踪者が全員ソロだった事を踏まえると、この仮説は合っていると思う。
ただ、まだ推測の域を出ない。
俺の体験談だけだと、まだサンプルAでしかない。
この説を確たるものにするには、他の冒険者の話を聞く必要がある。
——俺と同じく転移罠に引っ掛かって尚、生還した新米冒険者達の話を。
けどまあ、そこら辺は組合本部に任せておけばいいか。
俺が転移罠に引っ掛かった時の状況と、天頼に下層で助けられた冒険者三人にも話を聞いた方がいいかもと伝えておけば、後は向こうでやってくれるだろう。
「……さてと、用件も済んだしそろそろ帰るか」
「そうだね。これ以上、ここにいても収穫なさそうだし」
「分かってはいたけど、完全に無駄骨だったな」
言いながら踵を返そうとした。
その時だった。
「——天頼、魔力を思いっきり抑えて隠れろ」
「……へ?」
「早く、何か来る……!!」
俺も魔力を抑えながら天頼の腕を引っ張り、近くの茂みへ咄嗟に身を隠す。
気配がした。
魔力を極限にまで抑えた何かがこちらに歩いてきていた。
正体は全くの謎だが、少なくともモンスターではない。
けど、人とも判断がつかない異様な気配だった。
茂みに隠れ、隙間から気配がした方を注視する。
暫くすると、フードで顔を隠したマント姿の人物がこっちに歩いてきていた。
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