第37話 合流を阻む壁
危険区域を覆う結界は、一部分だけ檻としての役割を完全に放棄させた箇所を作っている。
冒険者の出入りを簡単にする為という側面もあるが、敢えて不完全な結界にする事で他の部分の強度を底上げするのが目的だ。
なんでそうなるのか詳しい原理は知らないが、おかげで一箇所だけを重点的に守る為の陣形が敷けている。
ただまあ、つまりは逆にモンスターが一点に押し寄せてくるわけで——、
「敵が……敵が、多い!!」
クソッ、斬っても斬っても次から次へと湧いて出てきやがる……!!
地上の敵は発見次第、即遠隔斬撃で対処しているが、元々十数人かけて行っていた仕事を一人で請け負っているんだ。
必死になって迎撃に尽力していたとしても、捌ける量には限界がある。
恐らく、接近戦をせざるを得なくなるも時間の問題だろう。
ああ、もう……マジで早くダンジョン突入組戻って来てくれねえかな……!!
A級モンスター相手に近接戦闘とかやりたくねえんだけど。
ホント切実に、ガチめに。
……けど、避けられそうにないから腹括るしかねえよな、クソ!!
しかも問題はこれだけじゃない。
——ふと頭上に大きな影が覆い被さる。
「うげっ!!」
気づいてすぐに上空を見上げれば、ブラックズーが襲い掛かってきていた。
ああいう手合いは、俺一人じゃどうしようもない。
遠隔斬撃は当てられないし、不用意に突っ込めば命取りだしな。
となれば、ここは素直に——、
「伊達さん、すんません! あいつの相手頼みます!!」
「はいはーい、任せて〜!」
Aランク冒険者の力を借りる。
術式の展開に専念しているとはいえ、樹木のバリケードを破壊しようする奴を放置するわけにはいかないし、ブラックズーのような巨大なモンスター相手なら伊達さんに任せた方が得策だ。
伊達さんが新たに術式を発動させる。
地中から何本もの樹木が突き出て、空中にいるブラックズーを絡め取る。
そのまま万力で捻るようにきつく締め上げると、全身を千切りながら圧殺してみせた。
「うわぁ、えっぐ……中々な仕留め方だな」
属性魔術とは異なるけど、伊達さんの魔術も自然を操る系統のものだ。
そういうタイプの魔術は、物量で攻めるだけでも脅威となり得る。
天頼にも同じことが言えるけど、本当この人が味方で良かった……!
「あざます! 助かりました!」
「どういたしまして〜! あっ、そうだ。浮いてるの以外でわたしが受け持った方がいいモンスターっている?」
マジ!?
それは滅茶苦茶助かる……!!
「それじゃあ、今みたいな普通にデカいやつとか、ゴーレムのような斬撃が通らない硬いやつ、それと……いや、この二つをお願いします! 特に後者の方を重点的に! デカいやつは動きを止めてくれるだけでも十分です!」
「りょうかい!」
本当はもっとお願いしたいところけど、迎撃にリソースを割いて樹木の防壁を突破されてしまっては元も子もない。
頼るべきところは遠慮せずに頼るけど、そうでなければ俺でどうにかする。
——あまりに情けないところを露呈してしまうと、天頼の評判にも関わるしな。
「つーか、天頼の状況はどうなってる……!?」
グランザハークが出現してからは、それの対処に追われてたから配信の状況を確認できていなかった。
いや、今も全然配信を悠長に見てられる余裕なんて普通にないけど、それはともかくとして、グランザハークを相手にするなら天頼の参戦は必須だ。
多分、向こうもグランザハークが出現していることは察しているはず。
なのにまだ合流できていないってことは、あっちでも何かしら問題が発生している可能性が高い。
押し寄せるモンスターを相手取りながら、天頼の配信状況を確認する。
刹那——俺は、反射的に打刀を引き抜く。
今までずっと溜めておいた魔力を解き放ち、天頼がいる方向へ渾身の遠隔斬撃をぶっ放した。
”なんでここにS級モンスターがいるんだよ”
”こいつら、もしかしてダカスラのジャンボ個体か!?”
”いや、一体はダカスラの近縁種だ”
”そんなことはどうでもいいんだよ! それより救援を呼ばなきゃ!!”
”この前遭遇したばっかなのにまたなの!?”
”早く誰か救援を呼ばないと!!!”
”無理だろ! 違う場所でもS級が出てるんだぞ!!”
ダークネスカオスジャンボスライムとそれによく似た別のモンスターがスマホに映し出されていたからだ。
通常個体のダークネスカオススライムとS級モンスターがどっちも出現する異事態だ。
別にジャンボ個体が出てきても不思議ではない。
(——けど、二体出てくるのは話が違えだろうが……!!)
しかも、もう一体はスフィアと呼ばれるスライムの近縁種だ。
スフィア種はスライムと同じ液体で構成されているが、形状が球体となっていて常に宙に浮いているという特徴を持つ。
簡単に言えば浮遊するスライムだ。
そして、あいつはダークネスカオスジャンボスライムのスフィア種だ。
つまるところ——天頼の天敵であり、俺の天敵でもある。
ああ、クソッ、どうすりゃいいんだよ……!!
放った遠隔斬撃がダークネスカオスジャンボスライムの核を両断する。
まずは一体……でも問題は、スフィアをどうやって撃破するかだ。
”ダカスラが斬られた!?”
”これSAくんだよな!?”
”SAくんやべえええ!!”
”この倒し方……やっぱ前にダカスラ倒したのもSAくんじゃねえか!”
まあ、バレるわな。
最初から殆ど見抜かれてたけど。
”チャンスだ、今のうちに離脱しよう四葉ちゃん!”
”そうしよう、一体だけなら逃げられるはず”
”そうだよ! 浮いてる相手だとSAくんも倒せないんだし!”
リスナーの提案に天頼は首を振る。
『ううん、ここで逃げるわけにはいかないよ』
”どうして!?”
”四葉ちゃんのスキルじゃ勝てないよ!”
”せめてメイン部隊と合流しないと!”
『それはダメ。仮にここで撒けたとしても、後で私を追ってS級モンスターと戦ってるところに乱入でもされたら、それこそ手に負えなくなる。そうさせない為にも、あのスフィアは、ここに釘付けにする』
”でも、それじゃあ四葉ちゃんが!”
”SAくんの援護もないのに……!!”
”流石に無謀だって!”
”それに天頼ちゃんが合流しないと向こうも大変なんじゃ……?”
チャット欄には心配するコメントが続々投稿されるが、俺としては天頼に賛成だ。
ただでさえ掃討部隊とグランザハークの戦闘は、どうにか拮抗に持っていくのが精一杯な状況だ。
ここであいつに乱入された場合、本当に全滅してしまう恐れが出てくる。
『うん、分かってる。だからね——アシスタントくん、二人であのモンスターを倒そう。私が時間を稼ぐから、君があいつを仕留めて。もし、了承してくれるのなら私の足元に斬撃を飛ばして』
言われて俺は、すぐに伊達さんの方を振り向いて、
「伊達さん! 一分だけここを離れさせてください!」
「ええっ!? いきなりどうしたの!?」
「相棒を助けに行きます! そんでもって、あいつをグランザハークの戦闘に合流させます!」
自分でも無茶苦茶な頼みだということは分かっている。
案の定、伊達さんは困り果てた表情を浮かべていたが、暫し逡巡したのちに、
「いいよ! 天頼ちゃんを助けに行っておいで!」
「あざます!!」
答えると同時、俺は天頼の足元に遠隔斬撃を放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます