第36話 災害降臨
ダークネスカオスジャンボスライムやベヒーモスをはじめとしたS級モンスター共は、単独でも災害レベルの被害を引き起こしかねない程の脅威的存在だが、グランザハークはその中でも別格だ。
十年前に起きた未曾有の大災害では、奴一体の手によって数千もの命が奪われたという。
まさに文字通りの歩く災害……いや公害というべきか。
「結局、討伐されないまま姿を消してたと記録にはあったけど、まさかこんなところに現れるとはな……!!」
Aランク冒険者は紛うことない実力者だ。
これだけの人数がいればS級モンスターも撃破可能だと思われる。
——だが、グランザハークのような化け物を倒せるかとなると話は別だ。
しかもB級以上のモンスターが際限なく出現しまくっているこの状況下で。
となると、今俺たちがやるべきことは……、
「方針変更だ! アタシと頓宮は、掃討部隊と合流してあのドラゴンの相手をする。ダンジョン内に突入したSランク冒険者達が戻ってくるまでなんとしてでも時間を稼ぐよ! 円佳とSAはその間、結界入り口の防御を固めてモンスターが外に出てしまわないようにしな!!」
「りょうか——!」
答えようとするも、声を遮るようにグランザハークが咆哮を上げ、
「——っ!!?」
瞬間、視界が真っ黒な閃光に包まれた。
それがグランザハークの魔力ブレスだと理解したのは、コンマ数秒遅れて伸びた樹木が俺達を守ってくれた直後、灰燼となって散っていく光景を目の当たりにした後だった。
「ふぅ〜、間一髪。危うく全滅するところだった……!」
「助かったよ、円佳!!」
「伊達ちゃんナイスガード!!」
「いえいえ〜」
変わらぬ調子で答える伊達さんだが、額にはじっとりと脂汗が滲んでいる。
恐らく今の防御でかなりの魔力を消費してしまったのだろう。
そりゃ、下手なミサイルよりも破壊力のあるブレスを防いだのだから、当然の結果といえばそうかもしれない。
だが、それにも関わらず、魔力の激しい消耗だけで耐え凌いでみせたことを賞賛するべきだ。
「アンタ達、下に降りるよ! そしたら、さっき伝えた通りに散開するよ!」
満澤さんが指示を出すと同時、俺たちは一斉に物見櫓を飛び降りる。
常人がやればただの飛び降り自殺となるが、魔力で肉体を強化していれば高さ二十メートルからの自由落下くらいどうってことない。
つっても……恐怖を感じないでいられるかは別の話だけどな!!
「っ〜〜〜……!!!」
数秒にも満たない浮遊感に声にならない悲鳴を微かに漏らしながらも、どうにか平静を保ちつつ地面に着地すると、即座に俺は伊達さんと共に結界の入り口へと駆け込む。
「SAくん、一つお願いがあるんだけどいい!?」
「どうぞっす!」
「わたしは結界入り口を術式で塞いだら、それの維持に専念するから攻撃は任せてもいいかな!?」
「……うっす! 善処します!」
本当は伊達さんにも攻撃に参加してもらいたいところだが、最悪のシナリオはモンスターに結界を突破されることだ。
そうなってしまった場合を考慮すると、ここは俺が頑張って奮戦するしかないか。
打刀に魔力を流し込みつつも一度鞘に納め、代わりに脇差を鞘から引き抜く。
今はとにかく手数重視、取り回しのいい脇差で足止めに尽力する。
打刀はどデカい一発ぶっ放す時用に備えておく。
「
伊達さんが地面に手のひらを置き、術式を発動させる。
地中から巨大な樹木が何本も生え、何段にも重なるように形を変えながら結界の入り口を覆い尽くす。
「それじゃあ、よろしくお願いね!」
「了解っす!」
腰を深く落とし、地面を斬りつける。
ターゲットは、この混乱に乗じて結界を抜け出ようとする
倒すのは無理にしても、動きを止めるだけでも十分だ。
迫り来るモンスターの脚部に遠隔斬撃を浴びせれば、その場で転倒させて動けなくすることに成功する。
脇差に魔力を一気に流し込み、最低限のチャージで次の遠隔斬撃を飛ばしていく。
こんな感じに一体ずつ確実にモンスターの動きを止めていくが、はっきり言って俺一人で全ての猛攻を防ぐのは不可能だ。
単純に数が多いってのもそうだが、この結界内に出現するモンスターは空を飛んでいたり浮遊しているやつらも多い。
そのせいでそもそも遠隔斬撃を当てられないのだ。
「チッ……!!」
上空からさっき満澤さんが狙撃したのと同種の怪鳥型のモンスター——デスコンドルが結界入り口を覆う樹木に急降下しながら襲いかかる。
だが、大型の猛禽類よりもずっと強靭な両脚と鋭い爪を持ってしても、術式によって具現化された樹木を破壊するには至らなかった。
S級モンスターのブレスを防ぐ程の強度を誇ってるんだ。
この程度の攻撃など大した脅威にはなり得ない。
俺が本気で斬りつけても切断できないくらい頑丈だったわけしな。
——それ、俺が不甲斐ないだけでは、ってツッコミはなしな。
即座に樹木を飛び移り、デスコンドルの元へ一気に詰め寄る。
デスコンドルは接近する俺に気がついてこそいたが、爪が深く樹木に食い込んでしまっていたせいで思うように動けずにいた。
その隙を突いてデスコンドルの首筋に脇差を思いっきり突き立て、そのまま力一杯に薙ぎ払えば、デスコンドルは一瞬で絶命した。
ついでにデスコンドルを起点にして放たれた遠隔斬撃が樹木と地面を這っていき、こちらに攻め込んでこようとしていた魔獣の後脚をぶった斬ってみせた。
「お〜、SAくんやるねー!」
「あざっす! ……けど、地に足つけた奴にしか斬撃は飛ばせないので、浮いてる敵からの攻撃は対処お願いします……!!」
コアエレメント系のモンスターみたく、自分から近づかないくせに術だけぶっ放してきやがる奴だけはどうしようもない。
そいつを叩く為だけに持ち場を離れるわけにもいかないし、これに関しては伊達さんの術式の耐久力を信じるしかない。
「おっけー、任せて!」
樹木の要塞が果たしていつまで保つだろうか……一抹の不安に駆られながらも、俺は地面に飛び降りると同時に新たに遠隔斬撃を飛ばす。
先の状況は全然読めないが、ひとまずは俺にできる事を全力で遂行するとしよう。
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