第34話 樹の陣地設営

「Bランク冒険者のSAです。よろしくお願いします」


 指定された部隊に合流後、一礼と共に挨拶をすれば、部隊全員が俺を見て絶句していた。


 ……おい、あんたらもかい。

 驚くにも程があんだろ。


「あんた……喋れたのか!?」


「普通に喋れます。身バレしたくないから筆談してるだけなんで」


「え、あなたBランクだったの!?」


「まあ、一応は。はい」


 弓使いの男と双眼鏡を持った女性の女性の質問にそれぞれ答えていると、


「アンタたち、世間話は後にしな。それよりも今は、結界内に湧き出たモンスターを片付けることに集中するよ」


 狙撃銃を携えていた女性が二人にぴしゃりと言い放つ。

 途端、どちらの表情も一気に引き締まった。


 流石はAランク冒険者、切り替えが早い。


「時間がない。作戦会議は歩きながらするけど、それでいいかい?」


「勿論、急ぎましょう」


 頷けば、一斉に結界の中へと歩き出す。

 それからすぐに狙撃手の女性が口を開く。


「先に自己紹介はしておこうか。アタシは満澤みつざわ愛紗あいさ。見ての通りスナイパーだ。それとこっちの双眼鏡を首に掛けてるのは、伊達円佳まどか——観測手で私の相棒だ」


「伊達円佳です。よろしくねー、SAくん」


「うす、よろしくっす」


 やっぱりこの二人はチームを組んでたか。

 スナイパーとスポッターは鉄板の組み合わせだからな。


「オレは頓宮とんぐう直斗だ。本当は掃討部隊にいる奴らとチームを組んでるけど、戦闘スタイルの兼ね合いでこの二人と臨時で部隊を組んでいる。あんたの事は天頼四葉の配信で知ってるぜ」


「そうですか。あざます」


 なるほど、天頼のリスナーだったか。

 まあ、驚き方が俺を知ってるからこそのそれだったから、だろうなって感じではあるけど。


 一通り自己紹介を終えたところで、


「それじゃあ、本題に入ろうか。アタシらの役割は、遠距離攻撃での掃討部隊の支援だ。地上からじゃ攻撃が届かない奴、一匹だけ群れから逸れた奴、防衛網を掻い潜りそうな奴、術式とか飛び道具を持った奴……そういった連中が標的だ。その為に結界内に侵入したら、速やかに高所を陣取る」


「うす。……でも、どうやって高所を?」


 代々木ダンジョンが発生したのは、かつては大きな公園があった場所だ。

 果たして高所なんて言える場所なんてあっただろうか。


「そこはわたしに任せて。即席狙撃スポットをちゃちゃーっと作り上げるよ」


「伊達さんが……ですか?」


「うん。わたしのスキルは、そういった陣地作りが得意だから」


 ぱちりとウィンクを決める伊達さん。

 ということは、地属性魔術とか地形操作系のスキルとかその辺りか。


「——結界内に入るよ。一歩でも足を踏み入れたら、出るまでは一時も気を抜かないでおくれよ」


 満澤さんに言われ、改めて気合を入れ直す。

 既に掃討部隊や遊撃隊が先行して結界内に入っているから、入ってすぐ襲われるってことはないだろうけど、だとしても油断は禁物だ。


 打刀の鯉口を切り、臨戦態勢を整えながら結界の中に足を踏み入れる。

 液状のカーテンを潜るようなぬるりとした感覚が肌を伝った直後、


「、っ!?」


 そこら中からモンスターの咆哮やら爆発音やらが轟いた。

 耳を劈くような轟音に思わず顔が歪んでしまう。


「これが、アウトブレイクか……!!」


 辺りを見渡せば、ダンジョンの中でもそうお目にかかる事のない数のモンスターが結界内に蔓延りまくっている。

 そのどれもがB級以上のモンスターばかり。

 割合的にはA級モンスターが多くを占めているようだ。


 前方では掃討部隊が隊列を組んで、大量に押し寄せてくるモンスターと戦闘を繰り広げていた。

 更にその奥では火柱が乱立し、竜巻が巻き起こっていた。


 ——あれは、間違いなく天頼の術式だな。


「うっひゃー……天頼四葉やっべえな。何だよあの攻撃規模。あれでまだ高二っていうんだから将来が末恐ろしいぜ」


「無駄口を叩くんじゃないよ。アンタにもキリキリ働いてもらうんだから、今のうちに戦闘準備を万端にしておきな」


「へいへい」


 軽い返事をする頓宮さんに対して満澤さんは小さくため息を吐くも、


「円佳、あそこに陣取るよ」


「あいあいさ〜」


 すぐに切り替えて伊達さんに指示を出した。


 満澤さんが指定した場所は、結界の入り口と掃討部隊の中間地点だ。

 そこまで移動すると、伊達さんは地面に手を置き、スキルを発動させる。


「——自在建樹コンストラクション


 瞬間——地面が隆起し、地中から巨大な樹木が飛び出てきた。


「うおっ、何これ!?」


「あ、SAくんは見るの初めてか。これがわたしのスキル——”樹草創操術”だよ。周辺の植物を魔力で強化して操ったり、生み出したりすることができるんだ」


 伊達さんが説明している間にも樹木はどんどん高く伸びていき、高さ二十メートル程に達すると、形を大きく変え、物見櫓のようになった。


 なるほど、高所を作るってこういうことか。

 確かにこれなら危険区域内の多くを見渡せるし、高さの有利も取れる。


 これだけの規模の陣地をあっという間に……凄えな。


 ただ、今のままだと剣を振れるスペースが無いな。

 脇差でなら出来なくもないけど、不測の事態に備えて打刀を振り回せるだけの余裕は欲しい。


「すみません、伊達さん。こいつを振り回せるだけのスペースを作ってもらうことって可能ですか? 足場だけで十分なので」


「大丈夫だよ、任せて!」


 お願いすれば、伊達さんはすぐに俺の意図を汲み取り、櫓の隣に畳二枚程度の足場を生成してくれた。

 しかも刀で斬りつける用の樹木を生やしてくれるおまけ付きで。


 快諾してくれたのは、天頼の配信を通じて俺のスキルを把握してくれていたからだろう。

 じゃなきゃ、そもそも俺がここにいる事自体受け入れられてないだろうし。


「あざます……!!」


 礼を伝えながら足場に立ち位置を移し、打刀を鞘から引き抜く。

 それと並行して片耳にだけイヤホンを装着し、スマホを取り出す。

 開くのは天頼の配信——ドローンカメラの映像をリアルタイムで確認する為だ。


 スマホ越しに映る映像では、天頼の操る地水火風が周辺に出現しているモンスターの悉くを殲滅していた。


 もし天頼がモンスターを討ち漏らした際、可能であれば俺が遠隔斬撃で対処する。

 ここに来る最中にそういう風に打ち合わせをしておいた。


 ——これで準備は整った。


「さてと、一仕事するか」


 久々にド陰キャ戦法を存分にぶちかますとしよう。

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