第33話 敷かれる防衛戦

 現地が見えてくると、立ち入り禁止区域全体を覆うように黒い天蓋のようなものが展開されていた。


 ここから中の様子は窺えない……ってことは、結界か。

 結界は主に外から中の様子を認識できないようにさせるとしての役割と、中のモンスターが外に出てしまわないようにするの役割を持つ。


 結界は一人でも構築できるが、範囲と強度を上げる為にかなりの人数をかける必要がある。


 ——この感じだと、もう結構来てそうだな。


 結界のすぐ前まで到着すると、案の定もう既に多くの冒険者が集まっていた。

 停車すると同時、俺と天頼はすぐさまドローンカメラを携えて車を降りる。


「俺は陽乃を連れて事務所に戻る。四葉、鋼理! くれぐれも無理はするなよ!」


「りょうかいです、ボス! 陽乃、行ってくるね!!」


「うす! 天頼、急ぐぞ!」


「二人とも、どうか気をつけて!」


 去っていく大型ワゴンを尻目に、人だかりが出来ている場所に移動する。


 ざっと見ただけでも十数人はいるのが確認できる。

 配信やらSNSで見た事ある冒険者もちらほら混ざっていた。


 コイツら全員Aランク冒険者か。

 ……うん、やっぱ俺がいるの場違いな気がしてきた。


 内心、ちょっと帰りたくなってきていた時だ。

 集団のうちの一人が俺達の存在に気付き、すぐさまこちらに駆け寄ってくる。


「君らは、もしかして……!?」


「Aランク冒険者、天頼四葉です! 冒険者組合の要請を受けて応援に駆けつけました!」


「……Bランク冒険者、SA。同じく派遣要請を受けて来ました——って、なんでそんな驚いてんですか?」


 驚愕で目を見開いている男に半眼を向ける。

 幾つかのことに驚いているように見えるのは気のせいだろうか。


「えっ、あ、その、いや……すまない。まさか君が喋るとは思わなかったから、つい」


 まあ、それもそうか。

 SAくんやってる時は、終始一言も発さない無言キャラ通してるわけだし。


「緊急事態なのに、ずっと黙ってるわけにはいかないでしょう。それより、俺たちは何をすれば良いですか?」


「あ、ああ……そうだな」


 狼狽えながらも、男は一つ咳払いを溢すと、


「君たちにお願いしたいのは、ダンジョン周囲に出現したモンスターの掃討だ。天頼さんは遊撃隊として片っ端からモンスターを倒してもらいたい。SAさんには後方部隊に混じって、掃討部隊の援護と彼らの護衛を頼みたい」


「うっす」


 俺が後方部隊で天頼が遊撃——概ねボスの読み通りの配置になったか。

 けどまあ、俺としては前に出ずに済むから願ったり叶ったりだ。


 天頼が突入組じゃなくて防衛組に振り分けられたのも好都合だったりする。


「……分かりました。でも……ダンジョン内のモンスターはどうするんですか? 根本的な原因を叩かないことには、アウトブレイクは収まらないんじゃ……」


 天頼が恐る恐る男に疑問をぶつける。


 アウトブレイクが発生すると、発生源の階層に巨大な結晶が生成されるという。

 そいつを破壊しない限り、モンスターは延々とこっちの世界に出没し続ける。


「そこに関しては心配無用だ。Sランク冒険者——春川りおんと陸奥森むつもり征士郎、それから東仙慶次の三人で編成された特別部隊が既にダンジョン内に突入している」


「っ!?」


 おいおい、ガッチガチにメンツ揃えまくってんじゃねえか。

 Sランク冒険者を三人も投入とかガチ過ぎんだろ……!


 登録者百二十万人越え超人気配信者、春川りおん。

 ソロ探索での最深部到達者、陸奥森征士郎。

 冒険者組合所属の最強冒険者、東仙慶次。


 所属や立場こそ違えど、全員漏れなく一般人からも広く名前を知られている実力派冒険者だ。

 東仙慶次は出てきてもおかしくないというかある種当然ではあるけど、まさか春川りおんと陸奥森征士郎も引っ張り出してくるとはな。


「りおんちゃんが……!」


「それなら中のことは気にしなくても大丈夫か」


「ああ、だから我々は、モンスターを結界の外に出さないことだけに専念すればいい。結界はもう完成している。天頼さんはもう好きに動いてもらって構わない。SAさんはあそこにいる支援部隊に合流してくれ」


 男の視線の先を追うと、狙撃銃を担いだ女性と弓矢を持った男性、それと双眼鏡を首に掛けた女性の姿があった。


 見るからに狙撃チームって感じだ。

 普通に考えれば、あそこに剣使いが混じるって異様だよな。


「りょうかいです!」


「分かりました」


 ふいに天頼と目線が合う。

 若干だが天頼は、不安そうな表情をしている。


「……どうした。何か気がかりなことでもあるのか?」


「うん。その、えっと……アシスタントくん、私がいなくても他の人とちゃんとコミュニケーションとれるのかなって……」


「おい」


 俺のこと何だと思ってんだ。

 ちゃんと意識すれば、最低限のコミュニケーションくらいできるっつーの。


「あはは、冗談だよ。それじゃ、お互い頑張ろっか!」


 言って、天頼は拳を突き出してくる。


「……何、その手?」


「見ての通りファイトのグータッチだよ。ほらほら、アシスタントくんも!」


 天頼に促され、黙って拳を突き合わせる。

 コツンと互いの拳が触れると、天頼はにっと満足げな笑みを浮かべる。


「よし、じゃあまた後でね!」


 そして、ドローンカメラを小脇に抱えると、大きく手を振りながら立ち入り禁止区域内へと駆け込んでいった。

 その背中を見送ってから、俺も男に指示された部隊に合流することにした。

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