第27話 お忍びの
試行錯誤を繰り返しながら遠隔斬撃を飛ばしまくった末——これといった成果なし。
疲労も溜まってきたところで鍛錬を切り上げ、事務所に戻れば、
「あ、剣城くん! トレーニングお疲れ様!」
「……なんでお前も事務所来てんだよ」
ひらひらと手を振る天頼の姿があった。
「え、だって陽乃と剣城くんがここにいるから。なら、ここに来るしかないかなーって」
「俺が言えた立場じゃないけど、お前……もしかして意外と友達少ないタイプ?」
「ちょっと、剣城くん! その発言はデリカシーがないぞー! ……でもまあ、強く否定はしない、けど」
最後は消え入るような声で答える。
——本当に意外だな。
てっきり学校でも人気者だと思っていたが……いや、流石に人に囲まれてはいそうだよな。
ぼっち野郎の俺と違って、顔も性格も良いわけだし。
となると……心を許せる人間がいないと考えた方が自然か。
配信者に近づこうとする奴の中には、邪な考えを持った輩もいる。
そういった連中を懐に入れないようにする為にも、本当に親しくすることのできる相手は限られるよな……。
「……いや、悪い。今のは浅慮だった」
「ほんとだよ、もう!」
本気ではなさそうだが頬を膨らませ、ぷりぷりと怒るも一転、天頼はにんまりと悪戯っ子のような笑みを浮かべながらこっちに近づいてきた。
うっわ、これは面倒な予感。
天頼があの笑顔を見せる時は、大抵何か企てているっていうか、碌なことが起こらねえ。
そして案の定、
「そんな酷いことを言う人には……しっかりと反省して貰わないとね!」
「……な、なんでしょう?」
フッフッフ、と怪しげに笑いながら、
「ちょっと付き添いをお願いしたいんだけど——」
* * *
——そんなわけで場所は変わり、森のダンジョン一層。
「結局、今日も来ちまったな……」
配信が休みの日までダンジョン探索ってワーカホリックかよ。
「だってここが一番簡単に来れて、自然がいっぱいで気候が丁度良いから森林浴にピッタリなんだもん。ついでに全然人がいないから周りを気にしなくていいし」
「人の代わりにモンスターがそこら中にいるけどな」
近くを徘徊するオークやらスライムを横目にしながら応える。
つっても、ここらに出現するモンスターであれば、天頼なら片手間で一蹴できるだろうけど。
「というか、散歩目的でダンジョンに来るとか物好きにも程があんだろ」
「意外とそういった目的で来る冒険者もいるみたいだよ。特に人気なのが海岸系のダンジョンで、半分プライベートビーチみたいな感覚で遊びに行く人も少なくないんだって!」
「えぇ……何その強者のみに許された遊び」
ちょっと……というか、普通にドン引くんですけど。
鮫が出るビーチですら恐怖以外の何者でもないのに、モンスターが出るビーチとかもはや絶望そのものだろ。
そこで呑気に海水浴楽しめる奴とか冗談抜きで頭どうかしてるぞ。
「……それで、どうしてここに?」
「ん? 言ったでしょ、森林浴だって」
「違う。そうじゃなくて、なんで俺も連れて来たんだってことだ。別に森林浴くらい一人でも出来ただろ」
そもそも俺を事務所から連れ出したのは、反省を促す為だったはずだ。
「まあ、出来るけど。でも一人で来るのも味気ないと思わない?」
「いや、別に。俺、基本ぼっち行動だから、一人まるまるには慣れてるし」
「あ……そっか。ごめんね、辛いこと言わせちゃって」
あの、そういう憐れみの眼差し向けるの止めてくれませんか、切実に。
バカにされたり、貶されたりするよりも、そんな感じに同情とか優しくされる方がずっと精神的に来るから。
「……まあいいや。それで、俺に護衛をやれと」
言って、腰に下げた刀に視線をやる。
今、帯刀しているのは、配信の時に使っているのとはまた別の刀だ。
あれだとワンチャン俺がSAくんだとバレる恐れがあるからな。
なので俺はソロの頃にしていた格好で、逆に天頼が顔を隠している。
配信をしている時は逆だから、ちょっと新鮮だったり。
——なんつーか、お忍びのアレ感がある。
ちなみにこいつも事務所の倉庫に眠ってたものだ。
普段使っている大小セットほどじゃないけど、こいつも中々に手に馴染む。
「その通り、それが剣城くんの禊です。それと今日一日だけ私の事は、まだ冒険者になりたてのルーキーだと思ってね!」
「えー……つまり、接待しろと?」
「そう、接待!」
「自分で接待言うなし」
Aランク(※しかもSランク候補筆頭)冒険者をBランク冒険者が接待するとか、どんなイカれた構図だよ。
「まあまあ。あと今の私は、水魔術を特訓中の”いちは”ちゃんって設定だから、今だけは、私のこと”いちは”って呼んでね」
なぜに”いちは”?
……ああ、使う属性を四つあるうちの一つに限定するから
いや、だからってわざわざそんな風に呼ばせる意味分からねえ。
——と、言いたいとこだが、名字で呼んでるとこ聞かれるわけにもいかないし、ここは素直に従うとするか。
「……分かったよ。その代わり、超安全第一で行くから文句は言うなよ」
「はーい」
「じゃあ、行くぞ……一葉」
言うと、天頼は何故か急に一瞬ぼうっとした素振りを見せてから、
「う、うん……」
小さくこくりと頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます