第28話 伝播の方式

 目的地を定めず、ふらふらと天頼の気のままにダンジョンを突き進む。

 俺はその背中を付いて歩きながら、周囲に軽く警戒を払う。


 近くにモンスターがいないか、俺たちを狙おうとしてないかを確認し、もしモンスターが俺たちを襲おうとする動きを見せた瞬間——、


「、っ!」


 即座に地面を斬りつけ遠隔斬撃を放ち、一撃で仕留める。

 繰り出された斬撃は、数十メートル離れた場所にいたスライムに這い寄り、一太刀で核を両断してみせた。


 その一連の流れを見ていた天頼が感嘆の声を上げる。


「おお、お見事……!」


 パチパチと拍手をして、


「今のいつもに増して仕事人っぽかったよ」


「そうか? 別にいつも通りにやってたつもりだけど」


「ん〜……なんて言えばいいのかな。無駄な動きが削ぎ落とされて洗練されたって感じ? 少なくとも昨日よりは動きにキレが出てるよ」


 自覚は全くないが、天頼がそう言うのなら実際その通りなのだろう。

 なんだかんだ天頼は、一番身近で俺の遠隔斬撃を見続けてるわけだし。


 もしかしたらスキル拡張の鍛錬が影響してるのかもな。

 現在も俺の頭の中には、遠隔斬撃は最短距離で届かせるってイメージがある。

 その意識が攻撃動作に反映されたってところか。


 ……まあ、それでも放たれたのは、いつもと同じ地を這う斬撃だけど。


 スキル拡張に至らないどころか、その足掛かりすら掴めそうにないのは、スキルを使う時のイメージが間違ってるのか。

 そうじゃなくて単純に俺の練度が足りないのか……。


 さっきの動作を顧みて、一人考え込んでいると、


「剣城くん、何やら難しい顔をしてるね。もしかしなくても、スキル拡張のことで悩んでる?」


 しまった、顔に出てたか。


「……ああ。悪いな、こんな時に」


 謝るも天頼は、ううん、と頭を振る。


「気にしないで大丈夫。剣城くんがパワーアップするのは、私にとっても大事なことだから。……よし。というわけで、森林浴は一旦中断! これからどうやって剣城くんのスキルを拡張させるかのミーティングを始めよっか!」


「随分と唐突だな、おい。……って、いいよ。これは俺個人の問題だし」


「良くないです! 君の問題は、バディである私の問題でもあるんだから」


「いや、だからって……」


「だからも何もありません!」


 遮るように一喝される。


「それを言ったらバディだからって理由だけで、ベヒーモス相手に命懸けの囮役を独断で買って出た君に断る権利はないと思うんだけど」


「うぐっ……!!」


 ぐうの音も出なかった。


 確かにあの時は、天頼の意見を聞かないまま突っ込んだもんな。

 そいつを引き合いに出されたら、もう何も言えねえよ……。


 こうなると最早、断る方が失礼か。


「文句ないよね?」


「……うす。よろしくお願いします」


 言って、頭を下げれば、天頼は嬉々とした笑顔で一拍手。


「よし! じゃあ、第一回剣城くんのスキルをどうやって拡張させようか一緒に考えよう会議を始めます!」






 あまり人目のつかない場所へ移した後、


「——成長後のイメージを思い描くことも大事だけど、現状の把握も同じくらい重要だと思うんだ。だからまずは、今の状態で何が出来て、何が出来ないのか……そういったスキルの特徴を挙げてみようか」


「スキルの特徴、か……」


 箇条的に挙げていくとなると、まず強みとしては、


・斬撃の射程がクソ長い(少なくとも数キロは射程圏内)。

・基本的に視界の範囲内であれば、狙った場所に斬撃を発生させられる。

・直接斬ることと遠隔斬撃は同時に可能。


 ——ざっとこんなところか。


 逆に無理なことを挙げると、


・物体の表面しか伝播しない関係上、水中に潜っている相手や四方を何かしらの物体で囲まれた物体のを直接斬る事はできない。

・空中にいる相手に対しては、そもそも攻撃が届かない。

・一太刀で複数の斬撃は飛ばせない。


 大体こんな感じになるか。


「こうして振り返ってみると、やっぱり射程距離と精密性は規格外だね……」


「地上にいる奴限定だけどな。空中、水中相手にはマジで手も足も出ないから」


 だからこそ、物体に伝播する事なく真っ直ぐ飛ぶ斬撃を編み出したいわけで。


「そういえば、前に聞いた時からちょっと気になってたんだけど……剣城くんのスキルって水中で発動したらどうなるの? 不発で終わっちゃう感じ?」


「いや、そしたら水が空気にみたいな扱いになる。水底とそこに隣接した物体、それと水面を這うような形になる。だから水の中でも使えない事はないけど、使い勝手は超絶クソ。だったら直接斬りに行った方がマシ」


「なるほど……じゃあさじゃあさ、水面を斬ったらどうなるの? 外側と内側どっちに進むか選べたりするの?」


「どうだったかな……どっち側を這わせるかは俺の意思でどうにか出来た気がするけど、試したのってずっと前——それこそスキルが顕現した頃のことだから覚えてねえな」


 水面を這わせたところで使い道ないし。

 ……けど、なんで水に関する質問ばっかしてくるんだ?


 疑問に思ったところで、


「……よし、それじゃあ色々と検証してみよっか! 水の中でどうなるかをさ」


「それはいいけど、近くに水場もないのにどうやんだよ?」


 訊けば、天頼はえへんと胸をはって答える。


「水ならどうとでもなるよ。だってここには、今だけ水魔術のスペシャリストと化したいちはちゃんがいるんだからね!」


「……まだその設定続いてたのな」


 けど折角、天頼が協力を申し出てくれてるんだ。

 ここは有り難く力を貸してもらうとしよう。


「それじゃあ……よろしく頼む」


「うん、任せて!」

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