第10話 沈黙の冒険者

「はーい、みんなー! こんばんはー、天頼四葉です!! 今日も元気にダンジョン配信やってくよー!!」


”おー、始まった!”

”四葉ちゃん!”

”良かった、今日も配信見れる……!!”


 新宿ダンジョン——またの名を”荒野のダンジョン”。

 本日の天頼四葉のダンジョン配信は、その第十一層で開始された。


「昨日は心配かけちゃってごめんなさい。今日は、昨日の失態を取り返せるように頑張るから応援してよろしくね!」


”うん、期待してるよ!”

”頑張って!!”

”あれは失態じゃないって笑”


 うわー、やっぱ人気すげえな。

 流石、勢いのある人気配信者……流れるコメントが拾いきれねえ。


 俺はというと、その様子をドローンカメラの画角外で見守っている。


 ——デカめの襟巻きとフードで顔を覆い隠して。

 どこからどう見ても不審者以外の何者でもない。


 ……うん、どうしてこうなった。


 まず俺と天頼が一緒にダンジョンに潜っているのは、正式にバディを組むかどうかを実際に探索をして判断する為だ。


 冒険者がチームを組むのに最も重要視されるのは”信頼と信用”ではあるが、なんだかんだ実力だったり戦闘スタイルの相性も同じくらい大事だ。

 なので一度、実際にダンジョン探索を共にして互いの力量だったりを確かめようということでダンジョンに訪れていた。


 じゃあ、なんで俺がこんな格好をしているかというと、


「じゃあ、早速ダンジョン探索を始めていこう……と行きたいところだけど、その前に今日は皆んなにお知らせがあります!」


 パン、と天頼が一拍手する。


”なになに?”

”急にどうしたん”

”お、ワクワク”


「急遽なんですが、今日はアシスタントさんが付いてくれます!」


”ええー!?”

”本当にいきなりすぎるwww”

”どんな人だろ?”


 ——こういうことだ。


 なんだかんだ話の流れで俺も天頼の配信に参加することになった。

 ただ配信者として活動してるわけでもなし、不用意に顔を出して身バレするのも嫌だから、苦肉の策として顔を襟巻きとフードで隠すことにしたのでこうなっている。

 おかげで厨二臭いというか痛い奴になってしまっているが、これ以外だと目出し帽しか顔を隠せるものが無かったので、痛い奴かやべえ奴のどっちがマシか天秤にかけた結果、前者を選んだわけだ。


 ちなみに服は会社にあった探索用のを借りてある。

 制服姿だとそれはそれで身バレするしな。


 それよりも問題は、リスナーからどう反応されるか……か。

 温かく迎え入れられないにしても、拒否されなきゃ良いんだけど。


 一抹の不安を抱えていると、コメント返しをしていた天頼に手招きされる。


「さてと、それじゃあ早速来てもらいますね! ほら、出ておいでー!」


 仕方ねえ……よし、行くか。


 腹を括って、俺はカメラの前に立つ。

 ——スケッチブックを片手に。


”見た目www”

”服装やば笑”

”え、四葉たんに男!?”


 まあ、こうなるよな。

 これに関しては想定内だ。


「はい、まずは見ている皆んなに自己紹介をお願いします!」


 こくりと頷いてから、手にしておいたスケッチブックを開く。


[初めまして。アシスタントです]


”喋らないんかい!”

”なんか持ってるなと思ったら、まさかの筆談w”

”随分と変j……面白い人連れてきたな笑”


 お、意外と好感触……!?

 つーか、今変人って書きかけた奴いたよな、おい。

 ……まあいいや、拾ってたらキリねえしここはスルーで。


 淡々と次のページを捲る。


[得意な事は雑魚狩りです。なんやかんやで四葉さんアシスタントをやる事になりました。よろしくお願いします]


”ツッコミどころばっかな自己紹介やめい笑”

”雑魚狩りって何さ”

”大事な経緯が全く分からん”


 雑魚狩りは雑魚狩りだし、なんやかんやはなんやかんやだ。

 詳細な事言ったらめんどくなること確定だから、そこは黙秘を貫かせてもらう。


「アシスタントくんには、私が戦っている時のドローンカメラの手動操作とか、他のモンスターが乱入してこない為の露払いとか、そういった裏方作業をやってもらう予定だよ」


”本当に裏方なんだ”

”アシスタントくんって強いの?”

”露払いって言ってもどんな風にやるの? カメラも操作しなきゃいけないのに”

”雑魚狩りってネタじゃないんだ”


 まあ、懐疑的になるのも分かる。

 いきなり出てきてそんなこと言われても、はいそうですかってすんなり納得する方が難しいよな。


「うんうん、皆んなが言いたいことは分かるよ。だから、これからアシスタントくんにちょっとしたデモンストレーションをしてもらうね。きっとこれから面白いものが見れるよ!」


 天頼はぱちりとウィンクしながら言うと、遠くで徘徊している四足獣型のモンスター——マッドウルフを指差す。


 ここからマッドウルフまでの距離は百メートル超っていったところ。

 余裕で射程圏内ではあるな。


「よし、アシスタントくん。あそこにいるモンスターを倒してみて」


[りょうかい]


 変にハードルを上げるのは勘弁して欲しいが、雑魚狩りの相手には丁度良い。

 俺はサバイバルナイフを抜くと、刀身に魔力を流し、地面を薙いで振り上げる。


 瞬間、スキルが発動——斬撃は地面を伝って真っしぐらにマッドウルフへと迫っていき、首筋を深々と斬り裂いて絶命させてみせた。


[ざっとこんな感じです]


 スケッチブックに書き込んでカメラに向ける。

 そのすぐ後だ。


”は?”

”おい、何が起きた?”

”え、離れた敵を斬ったの?”

”ちょっと待て、射程やばくない”

”あんな遠くにいる敵斬れるのエグい”


 混乱したコメントが大量に流れ始めた。


 確かに見栄えはあるもんな、このスキル。

 こけおどしみたいなもんだけど。


 それからまた少し時間が経つと、


”ちょっと待て、このアシスタントあれじゃない?”

”まさか、サイレンスアサシン……?”

”いやいや、流石にそれはない”


 ほんの少しではあるが、そんなコメントが見受けられるようになる。


 うっわ、もう気づく奴出てくるか……。

 配信に出る以上、こうなることは覚悟してたが、こうも簡単にバレるのかよ。


 でも、まだ勘づき始めたのは数人だ。

 もうちょっと増えるまでは拾わなくていいだろう。

 予めそういう方針で固めておいたし。


 一応、当初の予定でいいかアイコンタクトを飛ばすと、天頼は何故か上機嫌そうに小さく頷くのだった。

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