第11話 アシスタントのお仕事
ダンジョン探索は順調に進み、現在十六層。
配信冒頭で天頼が説明していた通り、俺の仕事は基本裏方でのサポートだ。
天頼が戦闘中は、ドローンカメラを操作して画角を調整する。
そんで戦闘に集中できるように、近寄るモンスターがいれば遠隔斬撃で先んじて狩っておく。
あまりにも度を超えた連投コメ、誹謗中傷、スパム……etc.といった悪質なコメントを削除したり、そういった人物をコメントできなくするようにモデレーター作業。
そういった諸々の作業をカメラの外側で黙々とこなしている。
だから、妙な存在感を示したのは最初だけだと思っていたのだが……、
”アシスタントくんカメラワークいいよ〜”
”自動追従じゃ、こう細かく調整効かないもんね”
”もっと下から覗き込むようにおなしゃす!”
”たまにモンスターが勝手に首切られてて怖……”
”アシスタントくんの戦い方軽くホラーなんよ笑”
なんか俺宛へのコメントもちらほら確認できる。
俺のことはいないもんとして扱ってくれて構わねえんだけどな。
あと下から覗き込みとかしねえぞ、BANさせる気かコラ。
とはいえ、そういったコメントは一部であり、大半は天頼に対するものだ。
配信主だから当然ではあるが、一番の理由はやっぱ……実力だろうな。
思った時だ。
「
——前方で突如、強烈な暴風が渦巻いた。
荒れ狂う竜巻は鎌鼬を生み出し、家一棟ほどある巨大な黒い怪鳥を切り裂く。
暴風に飲まれ、怪鳥は数瞬だけ動きを制限させられる。
僅かに生まれた隙、そこを見逃さず第二波の攻撃が訪れる。
「
頭上に大量の岩石が発生し、怪鳥目掛けて一斉に降り注ぐ。
先端が鋭く尖った岩石は、怪鳥の肉体を穿ち、抉り、荒野へと叩き落とす。
だが、追撃はまだ止まらない。
「
怪鳥が地上に墜とされた直後、真下の地面が盛り上がると、空高く突き上げるような火柱が勢い良く立ち昇った。
業火が怪鳥を一瞬にして焼き尽くし、周辺の岩石を溶岩へと融解させる。
そして、炎が消え最後に残ったのは、僅かな灰と表面が冷え固まっただけの岩石のみだった。
「ふう、一丁上がり! 皆んな、今の活躍どうだった?」
”四葉ちゃんえげつな”
”すげえ、これが次世代Sランク候補筆頭……!!”
”カッコよかったよ四葉ちゃん!”
”えっと、今のA級モンスターでしたよね?”
”赤子の手を捻るくらい簡単に倒しちゃったよ”
”圧倒的過ぎる……”
ぶっちゃけドン引きするような強さだった。
コメントでもチラッと流れていたが、天頼が今戦っていたのは、ブラックズーと呼ばれるA級モンスターだ。
並外れた膂力と高い飛行能力を持ち、奴によって命を落とす冒険者も毎年出ているくらいには危険なモンスターなのだが……何、このどちゃくそイージーゲーム?
あいつ一歩も動かなかったぞ。
でもまあ……多分、これが本来の天頼の実力だ。
昨日は相性の問題で力を発揮できなかっただけで、通常であればS級モンスターとも渡り合える性能の術式と技量を持ち合わせている。
やっぱ俺とは比較になんねえくらい強えよ、天頼は。
……とりあえずカメラを自動追従に戻しとこ。
「皆んな褒めてくれてありがとう! 今日こそは、ちゃんとかっこいいところを見せたかったから、頑張った甲斐があったよ!」
ちなみに俺がブラックズーと戦った場合、百パー勝ち目はない。
断言できる。
実力差は当然だから除くとして、最大の理由は遠隔斬撃が届かないからだ。
遠隔斬撃は地面を這って対象に飛んでいく性質を持つが故に、飛んでいたり浮いていたりする敵には絶対に攻撃が当たることはない。
言うなれば、そういうモンスターは遠隔斬撃というスキルの天敵のようなものだ。
——つっても、天頼みたいな属性魔術使いがダークネスカオスジャンボスライムと戦うよりは全然マシではあるけど。
今の戦闘で俺らの存在を嗅ぎつけたマッドウルフに斬撃を飛ばしながら、そんなことを考えていると、
「ねえねえ、アシスタントくん! 今のどうだったー!?」
こっちに戻ってきた天頼が、にこにこと笑いながら俺に訊ねてきた。
おい、ここで俺に話題振るのかよ……!!
思わず顔を顰めるも、顔は隠してるので表情は悟られない。
……はずなのだが、天頼は更ににまにまと目を細める。
こんにゃろ、わざとだな……!
当初の予定では、配信中の会話は冒頭と締めの挨拶だけに留める手筈だった。
なのにここで俺に話しかけるってことは、間違いなく確信犯だろう。
……はあ、仕方ねえ。
スケッチブックに返事を書き、それをカメラに映してから天頼に見せる。
[強すぎて普通にドン引きした]
”ちょ、おまwwwww”
”どんな感想だよ笑”
”もうちょっと労ってあげて!”
「あはは、何それひっどーい。もうちょっと気の利いたコメントして欲しいな」
腰に手を当て、ぷくーっと頬を膨らませる天頼。
だけど声色は明るく、表情も笑顔のままだ。
俺は続けてスケッチブックに次のセリフを書き込み、もう一度カメラと天頼に見せる。
[でも本当にすごかった]
すると、天頼は満足そうに顔を綻ばせ、
「でしょ!」
カメラと俺に向けてピースサインを立てるのだった。
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