第10話「基地」
―私が少年の提案を了承すると、少年は私をおんぶして、”基地”とやらへ向かっていった。
少年は、私を背負っているにもかかわらず、かなり速い速度で、安定して私を運んでくれた。途中、けもの道がない時は、木の間や草むらを通り、30分程で目的地へと着いたらしく、足を止めた。
私は、疲れていたということもあり、少年に運ばれている間、眠っていた。目的地へと着いた時も、眠気が取れず、朦朧としていた。
少年:「着いたよ。」
沙美:「あっ・・。」
少年:「ここが、僕らの基地だ。まだ、僕たち以外は帰還していないようだ。」
「奥に、余っている部屋がある。布団とかはあるはずだ。今日はそこに泊ってくれ。」
―少年は、そう言って、木造の大きな建物へと案内した。その建物は、山のちょうど真ん中くらいのところに建っていて、古そうだったが、ずいぶんしっかりとしていた。また、近くに、一件蔵のようなものがたっていた。
私はお礼を言い、玄関へと通された。玄関には、掛け軸のようなものがあり、そこには、漢字で何か書いてあった。
私は、その少年にお礼を言い、今出せる最低限の集中力で警戒しながらも、靴を脱ぎ、廊下へと進んだ。
少年:「ここだ。」
―そう言って、少年はふすまを開けた。そこは、六畳ほどの広さの和室で、かなりきれいだった。
部屋の中には、すでに布団が敷いてあった。
そして、少年は、トイレや風呂の場所を伝え、着替えと食事を持ってきてくれた。とても親切だ。
だがしかし、親切だったとしても、油断してはいけない。
少年:「ゆっくりしていってくれ。」
「今、お風呂を沸かしてくる。」
―そう言って、少年は風呂へといった。
その間、私は食事と替えを部屋に持っていき、食事をいただいていた。
時刻は、午後4時。昼飯も兼ねた、夕食だった。
食事の匂いなのか、何だか魚臭かった。
食事は、ほとんどが、漬物や塩漬けなどの、日持ちする物だった。私がここに到着して、3分程で食事を用意してくれたため、無理もないだろう。美味しいというほどではなかったが、いつも食べていた食事よりは余程ましだ。
―私は食事を食べ終わり、少し休憩していた。
とても落ち着いた家で、いつの間にか、警戒心はなくなっていた。
ただ、少年はいったい何者なのだろうか。そして、”僕たち”ということは、他にも誰か住んでいるのだろうか。部屋は、風呂やトイレなどを含めずに、この部屋を含めて多分8部屋くらいあるだろう。すべての部屋に人が住んでいるわけではないと思うが、かなり大人数いることは確かだ。今は2人しかいないが、日が暮れるころには全員帰ってくるのだろうか。
もし、他の人が帰ってきて、私を見たら、私はどのような目で見られるのだろうか。そもそも、少年が私をこの家に連れてきた目的は、本当に私を保護するためなのだろうか。
不安になった。
今すぐこの家から逃げ出すこともできる。ただ、逃げ出した先には、複雑なけもの道と、夜になると動き出す獣しかいない。
逃げ出したくても、逃げ出せないのだ。
少年:「お風呂、わいたよー」
―少年の声が、風呂から聞こえた。少年は、私のことを気遣い、速めにお風呂に入らせてくれようとしているのであろう。
私は、少年が用意してくれた着替えを両手で持ち、肩を使ってふすまを開け、風呂へと向かった。風呂の扉は開いていて、中には少年がいた。少年は、お湯の出し方などを教えてくれた。
私は、着替えを脱衣所に置き、風呂に入った。何年ぶりだろう。とても気持ちがいい。
風呂から上がり、着替え終わると、少年が、私の髪を櫛でとかしてくれた。
私の髪は、長く伸びていて、絡まっていた。とかされているときは、少し痛かったが、とかし終わると、とても気持ちよかった。とかした後の私の髪の毛は、腰くらいまでとどいていた。
少年:「よし、完了!」
「歯楊枝(歯ブラシ)は、ここに置いておくから。もう寝ちゃっていいよ。」
沙美:「本当に、何から何までありがとうございます。おやすみなさい。」
少年:「おやすみなさい。」
―そう言って、私は布団に入った。とても暖かかった。少年は、まだ起きていて、何かをやっていた。無理もない。まだ、午後5時半だ。
布団に入ると、疲れが一気にのしかかってきた。私は一日の出来事を振り返り、夢ではないかと思い、ほほをつねったが、痛かった。
布団に入ってから、五分ほどたつと、私は寝ていた。
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