出会い
第9話「少年」
―少年が、木のような怪物を倒した。
―それを見た私は、頭が真っ白になっていて、何も考えることができなかった。
あたりに、怪物の血の臭いが漂った。
―私は、全力で逃げようとした。
「少年に殺されるかもしれない。」
そう思ったからだ。
怪物を倒してくれただけで、味方だと思ってはいけない。そもそも、少年は私の存在に気付いているのだろうか。
―もし、私の存在に気付いているのだとしたら・・・
少年は、足が速い。さっきの動きを見ても、とても逃げ切れるとは思えない。
仮に逃げ切ったとして、私はその後、どうなるのだろうか。山の中で、独りぼっちの生活を送ることになる。・・・自由になる代償として。
「いっそのこと、少年に殺されてしまった方がいいのではないだろうか。」
そう思いながら、体は言うことを聞かず、ずっと逃げようとしていた。
―予想通り、少年はゆっくりと、私の方へと近づいてくる。
妙に足音が大きい。わざと、私の存在を知ってもらうために足音を立てているのであろう。
―そしてついに、木の幹を必死に乗り越えて逃げようとしている私の背後に来て、少年が立ち止まった。
少年:「安心して。ひどいことはしないから。」
―なんだか、優しい声だった。それを聞き、私は少し安心した。
そして少年は、武器を近くの木の幹に立てかけ、こういった。
少年:「僕は常に、弱いものの味方だよ。この付近には家がないようだね。道といった道もなく、移動は大変そうだ。」
―私は、そっと振り向いた。私が振り向くと同時に、少年はフードを取った。
紙、まつげ、まゆげが真っ白だった。しかも、肌も白い。一瞬、老人かとも思ったが、顔つきは、10代の後半くらいのようだった。
少年:「君、なんでこんなところにいるの?もしかして、さっきの大男、君の知り合い?」
―そう聞かれて私は、背筋が凍った。
何故、彼が父のことを知っているのか。もしかして、私が父の死体を捨てているところを、見られてしまったのか。
私は言った。
沙美:「違います・・・。そんな人、私は知りません。私には、家があります。今から、そこに向かおうと思います。」
―自分でもわかるくらい、声が震えていた。
少年はそれを聞き、全てを悟った。”見てきたからだ”。ここに来る道中に。檻のような小屋、血の付いた庭、胸を切られた大男、それを運んだと考えられる台車、そして、少女の震えた声と表情。
この少女には今、帰る家がない。守ってくれる人もいない。少なくとも、家には誰もいなかった。
そんな少女を、山の中にほおって行くわけには行けない。
少年:「君のような子供を、山の中にほおっておくわけにはいかない。夜になれば、猪や熊に襲われてしまうだろう。それに、家に帰れるかだってわからない。」
―確かに、こんなに暑い中、一人で家まで帰ることができる保証はない。そもそも、今ここがどこなのかすらもわかっていない。涼しかったとしても、こんなに複雑なけもの道を、迷わずに歩いていけるわけがない。
そんなことを思っている私に向かって、少年は言った。
少年:「良かったら、”僕たち”の基地に来なよ。そこならば安全だ。」
―私は、うなずくしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます