第8話「出現」

二つの足音の主は、ほぼ同時に姿を現した。


一人は”人間”

一人は”怪物”


怪物の方は、手だけが見えた。

”怪物の手”を見た瞬間、私は腰を抜かした。


一瞬、枝が倒れてきたかと思うと、それはまるで人間の手のように指があった。

「手の形をした手」というしかなかった。表面は木のような質感で、爪の形をした部分も、木でできていた。

「木」といっても、木材のことではなく、幹の表面のように、木の皮がついている。


「何故、木が動いているのか」

―単純な疑問が浮かんだ。こんな動物がいるはずがない。

木々の隙間から現れている「木の手」の奥には、大きな影が見えた。この”怪物”は、とてつもなく大きい。

木が何本かなぎ倒されたと思ったら、怪物の腕全体が姿を現した。腕だけでも、本当に大きかった。



―人間の方は、少年だった。

その少年は小柄で、何となく軽々しかった。

フードのようなものをかぶっていたため、顔は見えなかったが、手には変な形をした武器を持っていて、標的は明らかに”怪物”だ。

あと、足音から、かなり速い速度で走ってきたということが分かる。それにもかかわらず、息が切れていない。

少年は、何故か口を大きく開け、”あくびのようなもの”をした。


味方か、敵か。


―少年が構えた。足は、合気道で言う、「左半身構え」のような姿で、一本の武器を両手で持ち、怪物の方に向けた。息を大きく吸って、右足に力を入れた。

私は、逃げようと思ったが、怪物によってなぎ倒された木のせいで、道がふさがり、行き場がなくなった。

そして、ただ呆然と立ち尽くし、幹の陰から、怪物と少年を見ていた。



―すると、少年が少し助走をつけ、木の枝に飛び移った。

怪物は、少年をつかもうと、手を伸ばし、少年に向かって動かした。


―少年は、それを避けるかのようにまた飛び、今度は枝には着地せず、垂直に立つ木の幹に両足を当て、力をかけ、怪物へと飛んだ。

そして、剣を振りかぶり、空中で、怪物の手首へと振りかざした。


「轟」


少年はそう呟き、怪物の手首を一撃で切った。


「ドドドーン」


―とてつもなく大きな音が鳴り響いた。山に反響して、何度も聞こえる。

手首の切れ目は、とてつもなく不気味だった。

木のように、木目はあるのだが、”赤い”。肉のようだった。まるで、木を赤いペンキで塗ったかのようだった。切れ目からは、血がドバドバと出ていた。


そして、そんなことに気を取られているうちに、もう一度、あの音が響いた。


「ドドドドーン」


今度は、さっきの2.5倍くらいの大きさで、一瞬鼓膜が破れそうになった。山の反響音からも、その音の大きさが実感できるだろう。


気が付くと、少年が

「すたっ」

と、小さな音を立て、地面に着地していた。そして、少しの時間差で、”首から上のない怪物”が倒れてきた。


その間、わずか0.5秒。


―さっき、木々の奥にいた怪物の陰には、確実に首から上があったはずだ。

首の切れ目は、手首の切れ目と同じような感じだった。

そして、”首から上は見当たらなかった”。多分、どこかに落ちているのだろう。


”少年が勝ったのだ”

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