第2話「反抗」

―今日もいつも通り、朝起きると、体のあちこちが痛かった。そして、父が来た。私は今日、父が来るのが猛烈に楽しみだった。

カギを開ける音がする。気持ちが高ぶって、危うく表情に出るところだった。

「ギ~~~」

扉が開いた。


―父は、いつものように無言で私の片手を大きな手でがっしりとつかみ、父の家へと連れていくために、私を引っ張った。


―父の家まで、約10m。時間にして、約五秒。

勝負は、その時にかかっている。5mほど進んだ時、私は立ち止まった。

父は私に向き直り、舌打ちをした。


「今だ!!」

一瞬、まるで走馬灯のように、私の短い人生を思い出した。辛かった。でも・・・

やっと、解放される。自由になれるんだ。


「片手持ち四方投げ(一)」


父と私で、約60㎝の身長差がある。しかも、私は女で、まだ15歳だ。だが、いける。

「ドン!」


大きな音を鳴らし、父は地面にたたき落された父の手を、私は強く持ち続け、

「クワガタの顎」で、父を締めた。


父は私に”最後の言葉”を残し、死んでいった。


―ここまでうまくいくとは思わなかった。

そもそも、この技を実践したのは、今日が初めてだ。

父の体重が100kg近いことは外見からわかる。ただ、投げた瞬間、ほとんど力を使わなかった。


―しかも、父を締めたときに使ったクワガタの顎は、驚くほど切れ味が良かった。肋骨まで切れているのに、刃こぼれもしていない。


「やっぱり虫ってすごいな~」


―私は独り言にしたは大きな声で、そう言った。

山奥だし、誰かに見られたという可能性はまずない。死体の処分だって簡単だ。


私にとって、父に対しての初めての”反抗”であって、”犯行”でもあった。


今日はとてもめでたい日だ。


―私はそういいながら、山の頂上にある私の家から、景色を見渡し、両手を広げ、「自由」を感じた。

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