木殺開界 第一部

水町 啾魅

自由

第1話「喜怒哀楽」

―辛い。今辛いだけではない。永遠の辛さを感じている。私はこれから、一生この辛さを感じ続けなければならないのだろうか。


―朝起きるとまず、ご飯を作り、不味いといわれ、それから殴られ、蹴られた。いつ終わるかわからない苦しみに、可能性などない。これから一生、こうして生きていかなければならないのか。

―何度も死にたいと思った。だが、本能が邪魔をしてくる。子供である私は、意識よりも本能の方が強かった。ただ同時に、大人になったら、本能から解放されるということも知っていた。普通、本能的に親は子供を愛するはずだ。父がそうしないのは、本能に意識が勝っているからなのだろう。


―「大人になるまで耐えよう」


―そう思った瞬間、なんだか楽になった。大人になったら、本能に縛られなくなって、すぐに死ねるからだ。

永遠の苦しみなんて存在しない。もう少しの辛抱だ。



―私は普段、部屋に閉じ込められていた。父が住んでいる家とは繋がっていなくて倉庫のようなところだ。冬は寒く、夏は暑い。山奥だから、虫も来る。窓は一つしかなく、その窓には、木の縦棒が付いており、ガラスは付いていなかった。私には、木の壁を破壊する力もなく、ただそこに閉じこもっているしかなかった。


―朝になると、父が私の部屋に来て、父が住んでいる家に連れていかれた。家事はほとんど私がしていて、父は昼間、私を部屋に閉じ込めた後、どこかへ行っていた。夕方になると帰ってきて、私に夕食を作らせ、夜になるとまた私を部屋に連れて行った。

毎日、こんな生活が続いていた。


―私の感情は、喜怒哀楽には当てはまらなかった。ずっと、ただただ、「苦しい」。



”あれ”を見つける日が来るまで。

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