第12話三章 ピュアとレオンと×××③
***
私もどこかで聞いた話である。前回の魔王退治は、紅い月が作ったものだという話を。
元々魔王を恨んでいたのは少数で、噂でもヒソヒソ程度の悪さしか魔王にはなかった。
けれど。なぜか紅月の夜に、スイッチが入ったように皆で魔城へ向かっていったのだと。
昔から続く伝説だから、子供は部屋に篭るように言われていた。だからアーサーも私も何もなかった。
けれど、朝起きたら両親が血生臭い匂いで眠っていて、恐怖を感じたのを覚えている。
それっきりだったから、ずっと存在を忘れていたけれど……十年に一度。それな私が今までしらなくても仕方がない。
当時の年齢では、知識として知っていても、理解も難しかっただろう。何より、狂気じみた血の匂いで気が狂いそうだったっけ。
なのに、両親とも何もなかったかのように朝着替えて料理を始めてゾワリとしたが忘れられないし。どの村の大人もそんな感じだった。
その話を、レオンにした。
「悪意の塊が心になければ、心は取り憑かれないんだ。紅い月は」
(小さな悪意でも、命取りなんだ。だから、許せるかといえば無理なんだ、ごめんな。ピュアの両親)
そりゃそうだよ。レオンにとって大切な両親。命まで奪われて、悪意に飲まれたから可哀想って思ってなんて私だって思わない。それは言い訳だ。
逆の立場でも、私だって村の人達を絶対に許せなかっただろうし。
命より重いものはない、と言うけれど本当にそうだと思うもん。死んだら何もできない。やり直しできる命なんか、ないんだ。
それがたとえ魔王の命でも、王様の命でも、村人の命でも、台頭に同じなんだ。
そう、レオンでも、私でもーー。
「光を浴びるだけでも良くない。だから、カーテンを開けないで欲しい」
(隙間も作らないようにテープで止めよう。それぐらいしないと、命に関わる)「わかったわ。レオン。気をつける」
「買い物が必要ならコウモリに先に頼んでくれ。一晩だけの辛抱だから、耐えてほしい」
(こんな時だけ素直に言えて情けない。普段から優しくいたいのにな……はあ。なんてダメな魔王)
「もちろんそうする。レオンも気をつけて。あなたに悪意はないかもしれないけれど」
「ないわけないだろう。お前を手にしたいと言う欲望が、ってあああ!?」
(俺、何口走って!?)
レオン、それは違う意味で問題発言だよ。卑猥―。
まあ、そこで素直に喜べる状況ではないのだけれど。
「大丈夫だから、レオン。続けて」
「そ、そうか。風呂も、できればカーテンがないから避けてほしい。裸体で悪意に飲まれてそのまま暴動を起こす例もある」
さすがにそれは最悪だから従うしかないよねっていう。
痴女超えてもう人生終了するしかないぐらいの生き恥だよね。うん。
「お願いだから、死ぬなよ。ピュア」
顔、近いよレオン。壁に手を当てて、ギリギリまで接近するのやめて欲しい。レオンのお顔が綺麗すぎて恥ずか死ぬから。
「ピュア、熱があるのか?」
(顔が真っ赤だけれど、疲労か? 風邪か? このタイミングで)
鈍感なレオンはアワアワしてる。今にも泣き出しそうな雰囲気だ。
「貴方にときめきすぎてるだけです! レオン!!」
「!? なっ!?」
だから私は直球に言う。全くもう。手のかかる旦那様だわ。私の言葉に倍ぐらい真っ赤なレオン。本当可愛い人だこと。
(俺も好きだピュア! って叫べればいいのに)
叫ばないでください。私も興奮しすぎて倒れます。共倒れバカップル夫婦は嫌です。
(ああ。それより引きこもる時暇だろうから夜食を作っておこう。スープと、ブラウニーでいいだろうか)
そういう疑問は口で聞いてください。どれでも嬉しいですけれど。
「私レモンパイ作ろうかな。あとスムージー」
「俺も何か作るんだが、スープとブラウニーの他に何がいる?」
(レモンパイ、俺の好物のひとつだ)
うん、わざとだよ、レオン。ブラウニーも私の好物のひとつだよね?
お互いを思い合って、本当にラブラブね。私達。
「何でもいいわ。レオンの手作りなことが重要。絶対美味しいけどね、レオンは料理が上手だから」
「お、同じく」
(どれも毎回工夫してあって最高だ)
レオンのお菓子も料理も、カロリー少なめで最高よ。
「不安だけど、頑張ろうね。レオン」
私も一生懸命頑張るから。紅い月になんか負けない。村人がどうにかなったら戦ってみせるわ。
「あ、ああ」
(絶対にピュアを守り抜いてみせる。絶対に)
もし、何かあったらこの当たり前の幸せも壊れてしまうんだろうな。そう思うとゾッとする。嫌だ、絶対に嫌だ。
私は不安な気持ち半分、ちょっとドキドキな気持ち半分でレオンのそばに歩み寄る。そして大きな手をぎゅっと握る。
レオンの手ははじめは震えていたけれど、すぐに私の手と重なった瞬間強く握りしめてくれた。途端、心が落ち着く。
今回の紅月の夜は何もなく済むだろうか。今回はレオンのお父様もお母様もいない。
レオンだけでどうにかしないといけない初めての夜だ。
怖くないといえば嘘になる。私だけじゃなくレオンもそうだろう。
でも私たちは今は独りじゃない。大事なお互いがそばにいる。だから、乗り越えてみせるんだ。大切な、ふたりで作る明るい未来を守るためにーー。
***
それは突然の事だった。カーテンを開けば血の海かと思われるぐらい、赤い赤い眩しい光が魔城を差していたらしい。
外からは剣と剣がぶつかりあう音に、鈍い肉を切るような音が聞こえた。恐々とレオン達はカーテンを開けた。そこは本当に、――血の海だった。
「レオン、見るな!」
唸るように叫ぶレオンのお父様の声に、レオンは怯えながらも慌てて隠れた。
けれど、遅かった。レオンはさっき逃げながら魔族の死体を沢山みてしまったのだ。
レオンは怖くて震えながらお母様にギュッと抱きついた。その後しばらくレオンは恐怖で声が出なくなっていた。
「貴方、何が起こっているの?」
不安そうにレオンのお母様がお父様に言った。
「勇者と名乗る者がオレ達を殺しに来ている! レオンだけでも守るんだ!」
そうレオンのお父様が慌てて叫んだ瞬間。部屋の扉が大きな力によってこじ開けられた。
「やあ、魔王様。殺しに来たヨォ」
見知らぬ若い男だった。やけ豪華な鎧と、剣を手にしてて、体格が良かった。
ぬるりと血に濡れた大きな剣を舐めながら、勇者がニタリと笑った。そして、視界は真っ赤に染まる。
「お父様、お母様!!」
「レオン、逃げろ。お前にオレと魔族の全部の魔力を託した。絶対にやられない保護魔法もかけたからな!」
嫌な音がした。
「お父様ああああ!! お母様あああああ!! 嫌ああああああ!!」
「あははっははははは!! 死ね!! くそ魔王達!! これでおれは歴史に残るぜ!!」
赤い視界に、何かが倒れる音が鈍く響く。そして、レオンも気絶したのか視界が急にグラリと真っ暗になった。
レオンが自分の魔力を使い、私に見せてくれた記憶の映像はここで終わっている。
「これが、俺が見た十年前の出来事だ」
短い記憶なのに、それでも衝撃がすごくて私は吐き気を堪える。
「紅い月は全てを狂わせる。そのために、俺は部屋に閉じこもる。いいか」
「ええ。もちろん」
自衛にはそれが一番だもんね。
「ピュアも部屋にいるんだぞ」
(命が危ないのは聖女であるピュアの方なんだからな)
レオンも足が震えてるし、本当は怖いのに。
私を労ってくれて、本当優しい。
「わかったわ。気をつけて部屋で休んでる、でもレオンは大丈夫なの?」
「俺は大丈夫だ。あの日から何かあった時のためにずっと魔力を溜めていた。普段は一日で回復するレベル以外は使ってない」
(魔法もあまり使っていないが、まあ大丈夫だろう。毎日見えないところで訓練はしてるからな)
さすが真面目なレオンだ、と思う。いつも居間でお茶を飲んでるイメージしかないのにね。
私には魔力の量とかはさすがにわからないけど、さすがに噂には聞いてる。今の魔王は魔力タンクで、誰よりも強い魔法が使えると。
大体の魔法使いは魔法陣なり色々必要なのに、レオンはポンと使える時点でおかしいのだ。凄いのだ。カッコいいのだ。
さすが私の夫なのだ。惚れなおすぞ!
レオン!
***
あれから数日がたって。買い出しだとか色々準備をして、文献も調べた。
有益な情報はひとつも出てこなかった。でも、昔からある伝説らしかった。
そうこうしているうちに紅い月の夜になった。城中を黒いカーテンで遮って電気をつけると、いかにも薄暗くて魔城っぽい。
魔城なんだけど。
怪しげな雰囲気に身震いしながら、私はスープを飲む。
ああ、レオンの手作りしてくれたスープは美味しい。いろんな具材が入ってるし。
スパイスも効いていて、とてもよく体が温まるよ。なんてひとりで幸せに和んでいたのだけど。
「!? 今の音は何!?」
そんな時、ガシャアアアン! と何かが割れるような凄い音がした。
私はとっさに部屋を出てその場に向かうと、レオンが既にいて、そこには大きな岩が窓に投げ込まれていた後だった。
ガラスの破片はそこらじゅうに飛び散り、カーテンも裂けていた。
「ピュア、なんで来てしまったんだ!? 危ないだろ戻れ!」
(なんで来るんだピュア! お前が巻き込まれたら俺はどうしたらいいんだ!)
レオンが私を突き放すように言った。
(誰かが大きな窓を破壊しに岩を投げた。村人がいる。昔のようで、怖い)
「ごめん、レオン。でもレオンが心配だから戻れない」
(何を言ってるんだ。ピュア。俺は男だし夫だぞ!? 女の子じゃない。子供でもない。
絶対に守られる側じゃない、守るべき側なんだ)
そんなの関係ないよレオン。お互いに守りあっての夫婦じゃないの?
それに、今の不安そうなレオンの様子は普通じゃないから。無理。大好きな人が不安がってて、それを放置して消えるなんて、どういう人ならできるのかしら? 少なくとも、私は無理よ。
「俺は平気だ!」
(そう見せろ俺。表向きぐらい平気なフリできるだろう!?)
意地を張ろうとするレオンの顔は不自然い引き攣っていた。
「平気には見えないよ! レオン! 私がレオンを守りたいから、そばにいたい。足手まといにはならないから!」
「絶対足手まといになるから消えろ! ピュア」
(もし俺が先に死んだらどうするんだ!? ピュアは食われてしまうのかもしれないぞ。そんなの嫌だ。でも、でも……)
「嫌よ! 消えないわ。絶対自分の事は自分で守るから! 大丈夫だから! 責任持って逃げたりもするし!」
私、運動神経はいいのよ。それに気も結構強いつもり。
そんな会話をしている最中にも、石がどんどん投げ込まれてくる。流暢にしている場合ではないようだ。「そんな事より早く対策よ! レオン。私は隠れて様子を伺う」
他の村人の心の声も聞こえてくる。
(死ねぇ、魔王。魔王のくせに平和に生きるとかムカつくんだよ。苦労しろ)
(聖女を返せ。聖女は我らの村のものだ。聖女も聖女だ。なんで帰ってこないんだ!?
裏切り者!! 殺してやりたいけれど、聖女だけは助けないと)
(よくわからないけどイライラする。魔王を殺せ! 殺すんだ!!)
耳をすませば色々な人の悪意が流れ込んでくる。吐き気がする。
「お願い、レオン」
それでも。心の声が聞こえることで何かレオンの力になれればと思った。
「……っ、勝手にしろ」
(本当はもっと強く言いたいのに、そばにいてもらえる事が心強いなんて、情けない俺)
そんな事ないよ、レオン。皆そうだよ。誰だってこんな時、ひとりで全てと戦えるわけがない。
(怖い、怖い怖い。でも、ピュアのためにも、亡くなったお父様達のためにも、
、絶対に俺が立ち向かわないと)
怯えた様子のレオンの心の声に心配になる。レオンも村人達も、どこかトロンとした目つきをしていた。
紅い月の光が眩しい。何かに酔ったような気持ちになる。視界が回る感じが気持ち悪い。吐きそうになってるのにどこか気持ちいいのが最悪な感じだ。
「おーい魔王出てこいよぉ」
「生きる価値のない魔王さん、降りてこーい!」
「早く死ねぇ、存在だけでも邪魔な魔王様!」
(もう嫌だ、なんで体が勝手に動くんだ。でも魔王はムカつく。何故か)
(俺以下の人間は魔王しかいないんだ。だから、殺す)
(最底辺の魔王様を捕まえて俺が新しい勇者になる)
グチャグチャな村人達の心の声。自分の意思じゃなく紅い月の力なのがよくわかる。
いっそ月を消せればいいのだけれど、さすがに魔力が強いレオンでもそれは無謀だろう。月の色を変えるのも、同じ理由で無理だ。
しかし、何百人いるだろう。村人ほぼ全員集合なんじゃないだろうか。アーサーはどうやらいないらしくホッとする私。
ここにいるのはきっと魔王に悪意を向けている村人だけなのだろう。
若い男女に、おじさん、おばさん、おじいさん、おばあさん。子供はかろうじていないけれど……見慣れた顔もあって居た堪れない気持ちになる。
「お父さん、お母さん!?」
「あ、ピュア気づいたのねーあなたのお母さんよー」
(お母さんだけがピュアの理解者だったものね? さあ、お母さんを選びなさいっ)
「お父さんだよー一緒に帰ろう」
(ピュアはお父さんが大好きだもんなぁ。さあーおいで)
当然のようにそこにいる両親に悲鳴を上げる私。しかも自己中な心の声付き。うげって思いながら私は目を逸らさない。
「ピュア! 帰って来てお母さんのお金になるのよ!」
(綺麗なドレスや化粧品、買いたいわ! そして新しい若い男を捕まえるのよ! だって私は美しいもの。ピュアは旦那に似ちゃったけれど!)
「俺たちが育ててあげたんだからな! ピュア!!」
(酒に釣り道具を買うんだ。そして離婚して自由の身だ!)
「絶対恩返しするんでしょうね!」
(もうこんな旦那懲り懲りよ)
「するに決まってるよなぁ、ピュア!」
(豚みたいな妻はもいらないな! あははは)
ああもう。聞きたくない。聞きたくない。自己中夫婦の現実と心の叫びにこっちが石を投げつけたくなる。しないけれど。はあ。
「「ピュアピュアピュア!!」」
一際大きな声で両親が叫び続けるので私は耳を塞ぐ。
まるで自分の名前が「金」にすり替わった気持ちになる。本当に気分が悪い。
でも、相変わらず性格変わってないなぁ。両親とも。
そのうち私の取り合いでも始めるんじゃないのかしら。嫌になる。
「……はあ。予想通りの発言だけど目の前で言われるとダメージが凄いわ」
イっちゃった目つきでまるで正論のように狂った事を叫ぶ両親。そんな両親から私は目を逸らす。よく見れば周りには親戚の姿もあって眩暈がした。これ、全
員集合なんじゃないの?
「絶対お父さんお母さんに殺されないからねー! 私! 帰りもしないから!」
思わず両親に向かって叫んで引っ込む私。
「「ピュアピュアピュア!!」」
もはや鳥の鳴き声かよ。
もう相手にすらしたくない……。はあ。ダメな人達。
絶対レオンと永遠に幸せに暮らすんだからね! 絶対邪魔はさせないんだから!
そして幸せな家庭を築けたら……なんて、今はそんな呑気な事を考えている場合じゃないってば私!!「死―ね! 早く死ね!」
「存在悪は消えろー!!」
「生ゴミめ!! クーズ!!」
どんどん武器が危険になってきて、割れたガラスを石に巻き付けてくるやつが出てきた。
斧を投げてくる村人もいた。彼らのレオンへの殺意がどんどん募ってきてるのがピュアにもわかる。
レオンは何もしていないというのに、酷い奴らである。
シュン! グサッ!!
「危ない! ピュア!!」
レオンに私は急に突き飛ばされた。
「ヒェ!? 何これ!?」
目の前の壁に刃物が刺さっているのを見て度肝を抜かれた私。とうとう刃物までこちらに投げられた。
怖くて一瞬にレオンに抱きつく私。レオンは既に放心状態だった。だよね、レオンの方が怖がりだもんね。
よしっ、私がついてるぞー。なんて。思いつつも私も怖い。
(冷静になるんだ俺)
「なあ」
子供っぽい村人の煽りを無視してレオンは私を見る。
「ピュア、さっきはいいと言ったが、ここだと紅い月の光が目に入る。危険だからお前も飲まれるかもしれない。逃げろ」
(もう、ここにピュアは置いてけない。危なすぎる。綺麗な肌にケガでもしたらあ、いやそんな呑気な事よりも命が関わったら……!!)
レオンの声はいつもよりだいぶ低かった。明かに震えてもいる。
「でもっ、レオン!」
私が反論しようとすると、レオンは私の口を塞いだ。
私はモガモガするけれど、レオンは悲しげに笑って私を見る。その柔らかで優しい笑顔は、泣く寸前に見えた。
「俺は大丈夫だ……」
(本当は俺も苦しい。悪意が嫌な感情が人間への殺意がグルグルと体の中をいっぱいにしていく感じがする)
レオンはなれない悪意が急に込み上げてきたからだろう。青い顔でフーフー言っている。若干屈み気味で、自分の右足を強く左足で踏みつけている。
(痛みで正気を保てる間に、修復魔法を使わないと紅い月の光が……)
ブツブツとレオンが何かを唱えるも、ガラスがなおるたびに更にに石や岩が飛んでくるばかりで。
「死ねぇ! 魔王!」
「聖女を返せー!」
「いっそふたりで死んじまえ!! 裏切り者の聖女とクソ魔王」
(この世をこの村人達で支配するんだ! わしらが正義だ!)
(聖女を使って国を支配するぞ!!)
(もう働かなくて済む!)
自由すぎる村人の思考に頭を抱えたくなる。
わあキャア騒ぐ村人達は、どんどんトマトだとか生卵まで投げてくる。
虫や動物の死骸まで飛んできた時はさすがにのけぞった。怖い。
勇者は今回はいないのか。ソラでもう懲りたのか、いるのは村人だけのようだった。
「中に入って殺しに行くか!?」
「いいな! それ。最高じゃないか!」
「輪になって誰が先に殺せるか競おうぜ」
「そして聖女様をもらうんだ。おいらの子供産んでもらおーっと」
「俺も」
「わしも」
(((((そして最後は自分だけが生き残って国を支配してやる!)))))
ああもう。だめだコイツら。
イエーイなんて馬鹿なノリで騒ぐ村人達。
「絶対来るな! バリアを張ってある。無駄な事をするな」
レオンが村人に向かって叫んだ。
「何で降りてこないんだ! クソ魔王!」
「弱虫なんだよー、今の魔王は! 全く戦う気がないからすぐ倒せるだろう。このヘタレ魔王め。チビってんじゃないのか」
ギャハハハと下品な笑い声が森の中に響く。何だかお酒の匂いもするし、村人達はもしかして酔っ払ってるのかもしれない。
「聖女も戦う気がないみたいだぜ」
「オッシャー! これは勝ち戦!」
「俺ら最高!! 魔王最弱!!」
わああああとはしゃぎ出す村人をレオンは睨みつける。
そして風の魔法を使って威嚇して遠ざける。徒歩の村人は近づけなくはなる。
でも、倒すには全然弱い。遠くまでは飛ばない程度の魔法しかレオンは使おうとしないのだ。多分遠慮してるのだろう。「レオン、もっと強い攻撃魔法ってできない?」
「嫌だ、攻撃したくない」
(人が怪我するのも嫌だし、悲鳴を上げるのを見るのも嫌だ。村人が言うように、俺は弱虫魔王なんだ……)
その気持ちはわかるけれどこれじゃあ埒が開かないよ。
どうしよう。このままじゃ、そのうち私達は襲われる。
大きな爆弾でも投げ込まれたら一発だけれど、誰も持ってきてませんように。
するとレオンが涙目になってきた。
「やめてくれ……! もう同じ思いは嫌だ。戦いは懲り懲りなんだ!」
(嫌だ嫌だ嫌だ!! あんな悲劇はもうまっぴらごめんだ!!)
「ああああああああああああああああああああ!!」
(俺も悪意に飲まれそうになるから、こう言う思考はしたくないのに……俺がやらなきゃピュアが困る、苦しむ、それは嫌だ)
唇を強く噛んで血がウッスラと滲んでいるレオン
「レオン」
「なんで、人間はわかってくれないんだっ……! 戦いなんて、いい事ひとつもないのに、なぜかそれがわからない。大切な人を失うかもしれないんだぞ」
小さな声でレオンは泣きそうに言う。
そしてレオンは目をカッと開いて唸る。
「クッ」
(人間人間人間!! 平和を崩す人間ども!! ああああ!! ダメだ、ダメだしっかりしろ俺!!! ああ、でも人間!!)
明らかに悪意に飲まれてるレオンに私は近づく。
これは私がどうにかするべきか、と思った瞬間。
「×××」
レオンは意志の強い表情で目を見開くと、ボソリと何かつぶやいた。
「ピュア。お前は目を瞑っていてほしい」
(あの魔法ならいけるかもしれない、いちかばちか)
え? あの魔法? なんの魔法の事??
レオンは一体何をするつもりなの?
「? わかったけれど、何をするの」
危険な事じゃないよね? 大丈夫だよね??
男らしくキリリと凛々しい顔をしたレオンを。私は呆然として見ていた。レオンってこんな顔、するんだ……。
そしてレオンは両手を組んで手を光らせる。なにこれ、虹色の光? それから白い光細かく光ってとても美しい。
「とりあえず、終わってから話す。では、いくぞ!」
(十年間溜め込んできた魔力はいくらでもある。全部出し尽くせばいける!!)
「レオン!? え、あ、眩しっ……!?」
(どうか、この魔法で丸くおさまりますように……!)
白い光がシャワーのようにその場を包み、キラキラと輝いた。すぐさま私は目を瞑る。ドサ、ドサと何かが倒れる音があちらこちらでした。目を瞑って数秒待つと紅い月はそのままに、村人達は全員眠りこけていた。
「眠りの魔法だ。村中全域に使った。はあ、疲れた……もう無理、だ」
(もう体に力が入らない。ああ。俺も眠るべきだな。目を開けてれば紅い月の光が入ってくるからな)
「レオン!」
「スゥ……」
ドサリと倒れ込むレオンに私は駆け寄る。慌てて私はタオルケットを持ってきて、枕を頭の下にしいた。
レオンはすやすやと眠っているが、あまり顔色が良くない。疲れ切った顔をしている。
「レオン、おやすみなさい……」
私はそうつぶやいて、レオンの横に横たわり、眠った。
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